もし食料輸入が止まったら?ウクライナ侵攻で現実味を増す日本の食料危機「食料自給率37%」のリスク
ロシアによるウクライナ軍事侵攻により、食料安全保障に関するニュースが連日報じられている。カロリーベースで食料自給率が37%の日本は、この先どうなるのだろうか。
日本の食料自給率はどのくらい低いのか
と説明している。食料自給率は、供給する食料全体のうち、どれくらい国内で自給できているか、その割合を%で示したものだ。
食料自給率には、品目別に示すものと、総合的に示すものがあるが、よく報じられているのは「総合食料自給率」。これには、エネルギー(熱量)で換算するカロリーベースと、金額換算する生産額ベースがある。日本ではカロリーベースで示す場合が多い。
農林水産省は次のように説明している。
食料自給率の現状と国際比較
日本の食料自給率、最新の値は、カロリーベースで37%。
諸外国と比べた日本の食料自給率について、農林水産省の公式サイト(2)には
とある。グラフでは次のようになっている。
カロリーベースで見ると
- カナダ 266%
- オーストラリア 200%
- 米国 132%
- フランス 125%
- ドイツ 86%
- イギリス 65%
- イタリア 60%
- スイス 51%
- 日本 37%
となり、上位4カ国は軒並み100%を超えている。
NHKラジオに一緒に出演した小泉武夫先生は、かつてフランスの自給率が80%程度だったのが、自国でまかなう努力をして食料自給率100%以上にした、という話をしていた。これに貢献したのが、当時の大統領のド・ゴールだ。彼は「たとえ1kgでも海外から食料が入ってきたら独立国家とはいえない」と宣言した。その土地の消費量に合わせて、それぞれの区域の中で食料を作るようにした。
食料自給率が低いと何が問題なのか
食料自給率が低いことのデメリットを日常生活で実感することは、ほとんどない。しかし、国内で食料を調達できないことによって、私たちは、次に挙げるような多くのリスクを抱えることになる。
軍事侵攻・戦争のリスク
今、まさに我々が直面していることだ。軍事侵攻が起こり、小麦の輸出大国であるロシア・ウクライナの小麦が輸入できなくなっている。ウクライナの倉庫には2021年に収穫された小麦が出荷可能な状態でストックされているが、港から出荷することができない。ロシア・ウクライナから小麦を輸入していた北アフリカ・中東の国々は、他から輸入しなければならない。日本が小麦を輸入している米国・カナダ・オーストラリアなどが代替輸入先として挙げられれば、当然、需要が増し、食料価格は急増する。
疫病のリスク
リスクは軍事侵攻だけではない。疫病も同様だ。コロナ禍の初期、2020年には、自国民の食料を優先し、他国へ輸出を止めた国が何カ国もあった。これが長期化すれば、日本は買いたくても買えない状況に陥る。
自然災害のリスク
自然災害もリスクだ。干ばつ、ひょう、豪雨、台風、ハリケーンなどで、輸入先の農場が被害にあえば、輸入したくてもできない。
円安のリスク
今、急激に円安になっている。2022年4月28日には1ドル131円を記録した。円安ということは、海外から食料を買うとき、これまでより余分にお金を払わないとならない。
気候変動のリスク
日本はフードマイレージの高い国だ。フードマイレージ(3)とは、食料を運ぶ距離と、食料の重量とをかけあわせた値。食料自給率37%の日本は、遠くの国からたくさんの食料を輸入しているということを示している。同じ距離でも、飛行機か船かで、環境負荷の大きさは極端に違うので、フードマイレージだけで全て表せるわけではないが、遠くから空輸すれば、それだけ温室効果ガスを排出し、気候変動のリスクが高まる。
他国との競合
日本は世界的に見て品質にうるさい国だ。しかも、食料にお金をたくさん出そうとしない。一方、中国が他国から買う場合はどうか。彼らは日本よりもずっと多額のお金を出し、しかも品質にこだわらない。となれば、売り先とすれば、中国に売った方が楽で、日本が買い負ける図式となる。
肥料を購入できないリスク
ロシアは肥料の輸出面でも世界で大きな位置を占めている。今すぐ状況が変わらなかったとしても、今後、肥料を入手できず、農作物を収穫できなくなるリスクが生じるかもしれない。
残留農薬・除草剤成分のリスク
日本はトウモロコシや大豆、小麦などのほとんどを輸入している。小麦を例にとってみると、米国・カナダ・オーストラリアの3か国から輸入しており、この3か国でほぼ100%を占めている。日本で販売されているパンのうち、国産小麦を使っている割合はたった3%。残り97%は海外産小麦だ。
農林水産省の2017年調査によれば、米国産小麦の97%、カナダ産の100%で、除草剤成分のグリホサートが検出された(東京大学大学院農学生命科学研究科、鈴木宣弘氏『農業消滅』(4))。ということは、高いお金を出して買っているパンのほとんどはグリホサート混入小麦で作られている可能性も否めない。
2017年、日本政府は、米国からの要請に応じ、小麦から検出されるグリホサートの残留基準値の限界値を5ppmから30ppmまで緩めた。実に6倍だ。
他国へ輸出される農産物は、栽培した後にカビたりするのを防ぐため、農薬をかける。これを「ポストハーベスト」(5)と呼ぶ。小麦やトウモロコシ、大豆、柑橘類、バナナ、ナッツ類などに使われている。
食の安全性のリスク
広島のパン屋の三代目、ブーランジェリー・ドリアン(6)の田村陽至さんは、著書『捨てないパン屋』で、かつて田村さんが暮らしたモンゴルの話を次のようにしている。
かつてチンギス=ハンは、どうしても攻略できない城塞都市を落とすため、城内の食料を枯渇させて兵隊を飢えさせ、ペストに感染した小動物を焼いて、その肉を弓矢で城内に放った。飢えた兵士たちはそれを食べ、戦うことなく城内を全滅させた。田村さんは、「この城塞都市を日本に置き換えて考えてください」と語っている。食料を他国に依存するということはそういうことなのです、と。
もし食料輸入がストップしたら
農林水産省の公式サイト(7)には、不測の事態が発生して食料輸入が途絶するなどの事態に陥ったときに、国内生産のみで国民1人1日当たり2,020kcalの熱量供給が可能であるとの試算結果がある。下のイラストがメニュー。
たとえば朝食のおかずは粉吹き芋と糠漬けだけ。昼食の主食は焼き芋とふかし芋、夕食のおかずは焼き魚一切れ。牛乳が飲めるのは6日に1杯、卵は7日に1個、肉が食べられるのは9日に1食だけ。
食料自給率が低いのはなぜか
昭和40年度にはカロリーベースで73%あった食料自給率は、37%まで落ち込んだ(8)。ほぼ半分になったことになる。
2021年1月19日付の毎日小学生新聞の記事(9)では、食生活の変化を理由の一つに挙げている。確かに、自給率の高いコメをみんなが主食にしていれば、食料自給率はもっと高いだろう。だが、2012年以降、パンの消費金額がコメの消費金額を上回っている状況で、主食ですら自給できていない。野菜は国産が多いから、みんなが菜食であれば自給率は高く保てるだろうが、肉や魚を多く食べるようになればなるほど、自給率は下がる。
外食の増加や冷凍食品などの普及
毎日小学生新聞では、外食の増加や冷凍食品の普及も理由に挙げている。それらは海外産の安い原材料を使う場合も多いからだ。
品目ごとの自給率の差が激しい
2020年8月に放映されたNHKニュースの解説(10)では、(総合)食料自給率が低い理由として、
と説明している。たとえコメの自給率が98%でも、油脂類が3%だと、低いものに引きずられて全体が押し下げられてしまうというわけだ。
都道府県ごとの自給率の差も激しい
品目ごとの差も激しいが、47都道府県の自給率の差も激しい。拙著『食べものが足りない!』(旬報社)(11)に書いたが、北海道は216%、秋田県は205%、山形県は145%、青森県は123%、新潟県は109%、岩手県は107%と、100%を超えている。
一方、東京都は0%、大阪府は1%。品目の低いものに全体が引きずられるように、都道府県の中で低い値に引きずられれば、全体の値も下がる。
牛や鶏(ニワトリ)のエサが海外産なら自給できているとみなされない
たとえ国内で育てた牛肉や鶏肉でも、牛や鶏が食べるエサが海外産であれば、自給できていないとみなされることも、前述のNHKでは説明している。
国内で育てられた牛や鶏でも食べるエサが海外から輸入したものであれば、その分は自給したとは見なされない。例えば、鶏の卵は96%が国産だが、鶏のエサとなるトウモロコシなどは海外に依存しているため、自給率は12%まで下がってしまう。牛肉や豚肉なども同じ理由だ。食生活の多様化により、畜産物などの消費が伸びる一方で、コメなどの自給率の高い品目の消費が減っているため、どうしても全体の自給率が低くなってしまうのだ。
国内で育てば「国産」だと思ってしまうが、家畜の食べるエサまで自給できていないと、自給率は低いまま。日本の飼料自給率は、食料自給率よりもさらに低い。エサが自給できていないと食料自給率も上がらないことは、あまり知られていないかもしれない。
エサが自給できているかという「飼料自給率」を反映しない数値は「食料国産率」と呼ばれる(農林水産省資料(12))。
たとえば、下のイラストで、左側が飼料自給率を反映したもの。牛肉は食料自給率11%となる。
一方、右側は、エサが海外産かどうかというのは考慮していない。その場合、牛肉の「食料国産率」は43%と高くなる。
食と農は貿易自由化の犠牲になってきた
『農業消滅』の著者で、東大大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘氏は、「食料・農業分野は、貿易自由化の犠牲にされ続けてきた」と語っている。自動車などの工業製品の輸出を伸ばすために農業を犠牲にするという政策がとられてきた。
学校給食では、1950年ごろから、コッペパンが出るようになった。これも米国の小麦輸出を推し進める戦略とは無関係ではない、とされている(13)。
日本の家庭のコメ消費金額をパンの消費金額の方が上回ったのは2012年。以降、パンの消費金額は、一世帯あたり平均で31,000円を超えている(総務省統計局、家計調査)。
食料自給率はどうすれば上がるのか
「食品ロスを減らせば食料自給率が上がるんですか」という質問があるが、そうとは限らない。
食品ロスを減らすことで、輸入食料を減らすことができ(=分母を小さくし)、国内生産は維持できた(=分子は変わらず)とすれば、食料自給率が上がる、というわけだ。
ライフラボの「ジブン農業」は、食料自給率を上げる方策として、耕作放棄地の利用や農業生産力の向上、地産地消、食べ残しを減らす、などを挙げている(15)。
農林水産省は、食料自給率を上げるための取り組みとして、次を挙げている(16)。
- 需要が減少する米から自給率が低い麦や大豆等へ生産を転換するための支援
- 品目毎に、将来にわたって農業が続けていけるための支援
- 効率的・省コストで生産するための新しい技術の導入支援
- 生産基盤である農地や担い手を確保していくための支援
- 輸出の拡大にむけ、海外で日本の農産物をPRするための支援 等々
農林水産省が、子ども向けページで自給率を上げるための方法として答えている(17)のは次の通り。
根本にあるのは、「食べ物は、わたしたちの心身をつくり出す、生きていく上で最も大切なもの。食べ物は命から得られた貴重なものだと認識し、自然からの恵みに感謝して、日々いただく」ということではないか。食べ物が心身をつくるということに関心を持てば、「なんでもいい」という気持ちは薄れ、よいものをとりたいという気持ちが湧いてくるのではないだろうか。
鈴木先生は著書で、カナダでは、一リットル300円の牛乳を消費者が喜んで買う話をしている。なぜ「高い」と言わないのか。「カナダ産を支えたい」という気持ちがあるからだ。自分さえよければ、ではなく、生産者を支えたい、生産者にそれ相応の価値を払いたい、ということだろう。日本でも、このような気持ちを醸成することが必要ではないか。
最新の食料自給率について、さらに詳しく知りたい方は農林水産省の資料(12)をご覧いただきたい。
*本記事はニュースレター「日本の食料自給率は低すぎる」と何がいけないのか?パル通信(41)を基に編集しました。
5)農業の知識 ポストハーベスト(オーガニックマガジン なちゅここ生活)
9)なぜ日本の食料自給率は低いのですか?(毎日小学生新聞、2021/1/19)
11)『食べものが足りない!食料危機問題がわかる本』井出留美(旬報社)
12)令和2年度 食料自給率・食料自給力指標について(農林水産省、2021年8月)
13)なぜ給食にはコッペパンばかり出るのか?学校給食歴史館・館長に聞いた!(ヒトメボ)