SNSを活用した営業「ソーシャルセリング」とは?営業もマルチメディア・マルチコミュニケーションの時代
■ソーシャルセリングとは何か?
近年、SNSを活用したマーケティング活動(SNSマーケティング)が盛んだ。TwitterやFacebook、Instagram、YouTubeといったSNSで定期的に情報を発信し、企業や製品認知をアップさせる方法だ。
企業や製品の認知度を向上させ、リード(見込み客)獲得や育成(ナーチャリング)を主目的とするのがマーケティング。そう仮定すると、見込み客を「見込み」ではなく、実際のお客様にするのがセリング(営業)といえよう。
昨今、この営業活動でさえSNSを活用する方法が編み出されている。これを「ソーシャルセリング」と呼ぶ。
Facebook等のプロフィールに詳細な個人情報を載せる文化のある国であれば、こういったソーシャルセリングはかなり有効だ。
・個人名
・企業名
・役職
・学歴
・資格
・家族構成
といった基本情報があるだけでも、営業側はターゲッティングしやすくなる。この基本情報に加え、
・所属している団体、サークル
・趣味
・大切にしていること
・好きな映画、音楽
といった情報が日々の投稿で垣間見えたら、営業する側としてはメリットが大きい。プロフィールや投稿内容を洞察し、日々の接触を通じて心理的距離を縮めていく。戦略は立てやすい。
しかし日本では、SNSでここまで情報を開示している人は稀だ。だから「SNSマーケティング」との併用が一般的だ。まずは自社プロダクトに関する情報(コンテンツ)を発信し続ける。その情報に反応し、リプライをされるようになり、その人がターゲット属性に合うようであれば、相互にフォローし交流をする。
交流をし続け、お互い信頼関係が生まれたら、はじめて何らかのオファーをDM(ダイレクトメッセージ)で伝えていいだろう。無料のイベント、期間限定のキャンペーンをやっているので参加しないか。こういったオファーである。
SNSで見込み客と出会い、関係を構築・維持し、SNS上で仕事をいただく(クロージングする)という、すべてをSNSで完結することも可能だ。しかし川上から川下までの営業プロセスをSNSのみで完結させられる業界は少ないだろう。
人材や企業のマッチング(M&A)系。WEB制作、画像や映像のデザインの請け負い、その他フリーランス向けの仕事なら可能かもしれない。
■一般的な営業活動にSNSを活かす考え方
一般的な法人営業を、SNSのみで完結させるのは難しい。それなら営業プロセスの一部で活用することはできないか。それを考えてみたい。まずはSNS上で見込み客を見つけるプロセスについてだ。お客様(法人)のキーパーソンがTwitterやFacebookを利用しているケースであれば、探し出してフォローをし、コンタクトをとってみる。
ただし、個人情報の多くをオープンしていないケースがある。だから通常の営業活動でコンタクトをとったことのある相手で試す。リアルで交換した名刺で氏名を確認し、その名前で検索してみるのだ。おそらく同姓同名の人を多く見つけることになるだろう(漢字のみならず、ローマ字でも検索する)。
もしも会社名が掲載されていれば、ほぼ特定できるのではないか。会社名が載っていなくても日々の投稿内容でその人が本人であるかどうかは推測できる。
ふだんは従来のとおり、訪問、電話、メールなどで見込み客と接触を試みる。しかしそれほど関係ができていない相手であれば、このようにSNSを有効活用するのだ。
■ソーシャルセリング2つの基本
以下の動画でも解説した。
営業がお客様と信頼関係を構築するうえで重要な2つの基本を実施する。その2つの基本とは以下のとおり。
1)単純接触
2)共感と傾聴
先述したとおり、訪問や電話、メールで将来お客様になりそうな相手と接触を試みるのが一般的。しかし、これが簡単ではない。
それなりに関係ができていればともかく、そうでないのなら用事もないのにアポイントをとるのは簡単ではないからだ。だからといって、
「近くに来たので寄ってみました」
と、アポなし訪問するのも気が引ける。電話やメールも同じだ。営業個人の都合で電話をかけても居留守を使われるし、メールが来ても読まずにスルーされる。しかし、関係を築きたい相手がSNSを使っていたらどうだろう。
TwitterやFacebook、Instagram等の投稿を見て、積極的に「いいね!」を押す。たまに簡単なコメントを残す。小さなお子さんと公園で遊ぶ写真を投稿していたら「可愛らしいお子さんですね」。ご夫婦でフレンチを食べている光景を目にしたら「美味しそうなフランス料理ですね!」と書き込む。たったこれだけだ。相手から反応がなくても気にすることはない。
顔がわかるアイコン(誰にでも好印象を与える顔写真が好ましい)と本名は必ず開示しておこう。正しくプロフィールも記述しておく。そうすれば単純接触効果が発揮される。当たり障りのない接触だからこそいいのだ。
もちろん接触したい相手がSNSをしていることが条件だ。しかしSNSを通じて積極的に投稿している人は、自己顕示欲が高めであることが多い。経営者であればなおさらだ。何気ない日ごろの投稿に、「いいね!」を押され、たまにコメントを書かれて嫌な気分になることはないだろう。
■SNSを使って「傾聴」を試みる
見込み客と関係を構築し、維持させていくには、相手の話を聞くことがとても大事だ。とはいえ成功する人の「聞き方」、奪われる人の「聞き方」 ~傑作『LISTEN』を読み解くにも書いた。そう簡単ではない。
・聞いている態度を示す
・理解するように聞く
の両方で考えた場合、前者が「単純接触効果」を狙うためにすること。後者が本来の「聞く」という意味だ。相手が話していることをキチンと聞いて理解する。そして正しくレスポンスする。「いいね!」を押す行為は単なる相槌であるから、その相槌以上の反応を示すことで、相手との心理的距離はグッと近づくことであろう。
「先週末、3人の部下とシーバスフィッシングに千葉まで行ったんだが、部下の一人がルアーの使い方を知らず、船の上に放置しておいたもんだから大変だ。船が揺れた際に手をついて、私がケガをしちゃってね。すぐさま病院へ行って大事にはいたらなかったけれど、部下は意気消沈しちゃってね。奥さんと一緒に菓子折りをもって家まで来たよ」
こんな風に言われて、
「へえ」
「そうなんですね」
「それは大変でしたね」
というリアクションをするのは「聞いている態度を示す」ということだ。しかし「理解するように聞く」には、次のような反応をしたほうがいいだろう。
「それは大変でしたね。大ケガにならなくて本当によかったです。私も釣りはやりますが、ルアーフィッシングはやったことがないので、そんなことになるとは知りませんでした。気をつけないといけませんね」
相手の話の論点を理解し、キチンとレスポンスする。このような「話の論点を理解し、キチンとレスポンスする」というのをSNSでもやるのだ。2~3行程度のコメントを残すだけでいい。
気のきいたコメントを書く必要はない。以下のように自己主張が多く含まれるレスポンスもすべきではない。
「それは大変でしたね。大ケガにならなくてよかったです。私はルアーフィッシングをしたことがありませんが、もしそんなに危ない釣りであるなら、事前レクチャーとかしっかりしておいたほうがよかったんじゃないですか」
それほど親しくもない相手に、このような主張をするのはやめよう。退屈と思うかもしれないが、地道なリプライを繰り返すことが営業活動の基本だ。
■自分自身はどのような投稿をすべきか?
それでは、自分自身のアカウントはどう運用すべきか。
アカウントだけ作り、自分は一切投稿しないという人も多い。しかしソーシャルセリングをしたいなら、その姿勢は改めたい。見込み客の誰かが自分に興味を持ち、こちらのアカウントに訪れても投稿がほとんどなければ、
「他人のプライベートは覗きたいのに、自分のプライベートは見せない人か」
という印象を与えてしまう。
一週間に一回ぐらいでいいので、他愛もない日常の投稿をしよう。仕事上で気付いたこと。好きなスポーツ観戦をしたこと。本を読んで参考になったこと。投稿を見た相手に「健全で勤勉な人だ」という印象を与えられたら、それでいい。SNSマーケティングをするのなら、それなりのパーソナルブランディングが必要だが、営業目的なら必要以上に着飾る必要はない。マイナスの印象を与えなければいい、という程度で十分だ。
■営業もマルチメディア・マルチコミュニケーションの時代
見込み客になりそうな相手をフォローしまくり、練りに練ったDMを送りまくるというプッシュ型のソーシャルセリングもあるだろう。しかしこのようなスタイルで営業できる商材は限られる。
SNSを使って地道な営業活動をする。これが一般的な営業もできるソーシャルセリングだ。
常時、20~30人ぐらいの見込み客に対し、SNSを通じて単純接触をつづける。慣れてくれば時間はかからないはずだ。2~3日で30分程度だ。訪問、電話、メールなどと併用すれば、効果は大きい。
重要なことは、見込み客との関係構築、維持のプロセスのみでSNSを活用することだ。それ以外のプロセスにまでSNSを使わなくていい。商談のフェーズに入ったら訪問をメインにし、電話やメールといった従来のツールを使う(SNS上での単純接触はつづけながら)。
お客様との接触に使えるメディアは多様化している。まさにマルチメディア・マルチコミュニケーションの時代である。相手の属性と営業のプロセスごとにメディアを選択し、それぞれメディア特有のコミュニケーション手法で営業活動をする。過去のやり方にとらわれず、使えるものはすべて使う姿勢が大事だ。