Yahoo!ニュース

<シリア>反体制派拠点イドリブ 現地記者語る(1)自国民に爆弾落とす政府 殺戮続く(最新写真6枚)

玉本英子アジアプレス・映像ジャーナリスト
シリア北西イドリブの反体制派にアサド政権は攻撃を続けてきた。(地図作成・坂本卓)

◆困窮する市民生活

シリア北西部で8年間にわたり反体制諸派が拠点としてきたイドリブ県一帯では、シリア政府軍とロシア軍による武装勢力掃討の大規模な攻撃で多数の住民も犠牲となってきた。国連は4月下旬以降だけで、450人以上の住民が殺害、44万人以上が避難と報告している。8月1日、政府軍は条件付きで停戦に合意したが、5日には再び軍事作戦を開始、住民は不安を抱えている。イドリブ市内で取材活動を続けるシリア人フリー記者ジャベール・アル・バクリ氏(30歳)が、ネット電話を通して現地の状況を語ってくれた。(聞き手:玉本英子・アジアプレス)

イドリブを中心に取材活動を続けてきたジャベール・アル・バクリ記者。(写真:本人提供)
イドリブを中心に取材活動を続けてきたジャベール・アル・バクリ記者。(写真:本人提供)

ジャベール・アル・バクリ記者:

もともとハーン・シェイフンに暮らしていましたが、激しい攻撃で自宅が破壊され、マアラト・アル・ヌマンに移りました。そこでも空爆があり、住宅だけでなく、私が確認しただけでも3つの病院が破壊されました。私と家族は5月のはじめ頃にトルコ国境近くの村に避難しました。

そこでは、たくさんの逃れた家族が分散するように、木の下に身を寄せていました。地元のいくつかの支援組織が活動していましたが、物資はまったく足りていませんでした。水も少ししかもらえず、食べ物もひと家族ごとの、わずかな割り当てでした。

トルコ国境近くの農村部では、空爆や戦闘から逃れてきた家族らが、木の下に身を寄せていた。(2019年5月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)
トルコ国境近くの農村部では、空爆や戦闘から逃れてきた家族らが、木の下に身を寄せていた。(2019年5月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)
ジャベール記者も家族とともに避難。戦火から逃れようとたくさんの家族が避難先で苦悩に打ちひしがれ、心が痛んだとジャベール記者は話す。(2019年5月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)
ジャベール記者も家族とともに避難。戦火から逃れようとたくさんの家族が避難先で苦悩に打ちひしがれ、心が痛んだとジャベール記者は話す。(2019年5月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)

<シリア>化学兵器攻撃を受けた町は今

私と妻、両親、弟3人は、避難民キャンプに暮らす友人を頼りました。しかし、大人7人にテントは小さく、特に妊娠中の妻には過酷すぎたため、7月に入り、イドリブ市内へ移動しました。

今のところ、イドリブ市内に限って言えば攻撃はありません。店も開いていて、一見普通の町に見えます。反体制派の武装した人たちの姿もあまり見かけません。武装組織が多くいるのは、イドリブ南部方面の前線地域のようです。自由シリア軍やシャム解放機構(HTS・旧ヌスラ戦線)が、政府軍の侵入を阻止しようとしていると聞いています。

現在のイドリブ市内。いつまた戦闘が激化するかわからず、市民は不安と隣り合わせ。(2019年8月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)
現在のイドリブ市内。いつまた戦闘が激化するかわからず、市民は不安と隣り合わせ。(2019年8月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)

<シリア>政府軍によるイドリブ奪還戦 県民のおよそ半分が郊外へ避難か

住民のほとんどは生活に困窮しています。それぞれが日雇いなどの限られた仕事をして、わずかな収入を得る程度ですが、その仕事がいつまであるかもわかりません。多くが、月に100ドルぐらい(約1万円)でやりくりしなければなりません。それでは家族を養えません。私は記者の仕事をしているので、不安定ながらも少しの収入があります。それでも厳しさに変わりはありません。

イドリブ市内。長期におよぶ内戦で、住民生活は困窮している。(2019年8月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)
イドリブ市内。長期におよぶ内戦で、住民生活は困窮している。(2019年8月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)

<シリア>イドリブ県での化学兵器攻撃~現地病院医師が惨状伝える

◆「シリアはなぜこんなことに...」

現在、学校は夏休みですが、その前は砲撃などで学校は閉鎖されていました。電気供給はなく、一日に2~4時間、発電機をまわします。今の季節、35度を超えるので、電気なしでは、とてもつらいです。水は一週間に一度だけポンプが使え、蛇口から出します。それを携行缶10杯に貯めて、家族7人分の一週間分の料理や、体を洗ったりするのに使います。料理にはプロパンガスを使いますが、ひとつが5600シリアポンド(約1300円)と、高くてなかなか手が出せません。

今日の晩ご飯は、パンとイワシの缶詰でした。薄暗い部屋で家族が食卓を囲みます。以前であれば、今日起きた話などをしたものですが、もうそんな気力もなくなってしまいました。誰も何も話しません。恐怖と絶望が人びとの心を覆っています。それでも家族のために、生まれてくる子どものために生きていかなければならない。シリア人どうしが対立し、政府が自国民の子どもを爆撃で殺す。シリアはなぜこんなことに。悲しみでいっぱいです。

(つづく)

<シリア>反体制派拠点イドリブ 現地記者語る(2)「仲間の記者がロシアの爆撃で」(最新写真8枚)

シリア政府軍は8月1日、反体制派と「停戦合意」するも5日には攻撃再開。写真はHTS公開のハーン・シェイフンでの政府軍・民兵の砲撃。着弾し、煙があがる。(2019年8月・HTS映像)
シリア政府軍は8月1日、反体制派と「停戦合意」するも5日には攻撃再開。写真はHTS公開のハーン・シェイフンでの政府軍・民兵の砲撃。着弾し、煙があがる。(2019年8月・HTS映像)
アジアプレス・映像ジャーナリスト

東京生まれ。デザイン事務所勤務をへて94年よりアジアプレス所属。中東地域を中心に取材。アフガニスタンではタリバン政権下で公開銃殺刑を受けた女性を追い、04年ドキュメンタリー映画「ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性」監督。イラク・シリア取材では、NEWS23(TBS)、報道ステーション(テレビ朝日)、報道特集(TBS)、テレメンタリー(朝日放送)などで報告。「戦火に苦しむ女性や子どもの視点に立った一貫した姿勢」が評価され、第54回ギャラクシー賞報道活動部門優秀賞。「ヤズディ教徒をはじめとするイラク・シリア報告」で第26回坂田記念ジャーナリズム賞特別賞。各地で平和を伝える講演会を続ける。

玉本英子の最近の記事