『SLAM DUNK』の桜木花道。入部前の「フンフンディフェンス」に、そのすごい才能が描かれていた!
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
5月第1週の映画ランキングで『THE FIRST SLAM DUNK』が第5位!
『ザ・スーパーマリオブラザース・ムービー』や『名探偵コナン 黒鉄の魚影』などの話題作がひしめくなか、2022年12月に公開された『SLAM DUNK』がこれほど観られているというのは驚異的だ。
映画の舞台は、原作で描かれた最後の試合「湘北高校vs山王工業高校」だが、主人公は桜木花道ではなく、宮城リョータ。
試合の展開はもちろんマンガと同じだけれど、新たに描かれている要素もある。
劇中、宮城をはじめ湘北メンバーのエピソードが随所に紹介され、原作マンガを読んでいなくても楽しめる。
そして、マンガを読んだことのある人は、もう一度読み返したくなる!
筆者ももちろんそうで、映画館から戻ってくるなり、『SLAM DUNK』を冒頭から読み返してしまった。
宮城リョータが登場する第50話あたりから読もうかと思ったけど、でも最初から味わい直したかったのだ。
――すると、ややっ、最初のほうにモーレツに楽しい描写を見つけてしまった!
◆フンフンディフェンスがすごい!
『SLAM DUNK』は、全編を通してリアルなスポーツマンガで、荒唐無稽な必殺技が出てきたりはしない。
だが、マンガの第5話に出てくる「フンフンディフェンス」はちょっとすごい。
そのワザが出たのは、主人公・桜木花道がバスケット部に入る前。
バスケ部キャプテンの赤木剛憲に向かって、花道は「玉入れ遊び」と言ってしまい、彼を激怒させた。
その結果、2人は「赤木がシュートを10本決める前に、花道が1本でも決めれば、花道の勝ち」という変則ルールで勝負をすることになった。
当然、勝負は一方的になり、赤木はたちまちシュート9本を決める。
そして、彼が10本目のシュート体勢に入ったとき、花道が見せたのが「フンフンディフェンス」だった。
「フンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフン」と叫びながら、体を上下左右に激しく動かして、あらゆるシュートコースをふさぐ!
劇中でも友人たちが「まるでカベだ!」「あれは花道の人間ばなれした体力と瞬発力があってこそできる技だ!!」「まさに神技!!」と感動していた。
花道はこれをきっかけに、ドタバタしながらもシュート1本を決め、赤木に素質を認めさせることになる――。
ややギャグめいた表現ではあるものの、空想科学で考えると、このワザから花道の恐るべき素質を読み取ることができる。
◆「フンフン」は19回!
「フンフンディフェンス」を表現したコマには、7人もの花道が描かれている。
それぞれ違ったポーズを決め、表情も変化している。
筆者の印象で紹介すると、それぞれ次のような花道たちだ。
① 額や頬にうっすら汗をかいた花道
➁ 歯をむき出した花道
➂ カッと目を見開いた花道
➃「思ったよりキツイ」と言いたそうな花道
⑤ 目を閉じて歯を食いしばる花道
⑥ 気合いを入れ直して赤木を睨みつける花道
⑦ 疲れ果て、ギブアップしそうな花道
疲労が蓄積していくプロセスが伝わってくるように感じたので、その順番で書きました。
では花道は、これだけのポーズと表情の違った防御を、どれだけのあいだに行ったのか?
マンガなので、時間経過がわからないが、それを解き明かすカギは、花道の叫び声「フンフンフンフン」にあると思う。
全身に力を込めるために発せられたのだろうから、一回の「フン」で一つのポーズを決めたのでは……?
ここでは、そう仮定して考えてみよう。
数えてみると花道の「フン」は全部で19回。
これをできるだけ短時間で口にするには何秒かかるのか、ストップウォッチを片手に「フンフンフンフン……」と19回発声してみた。
何度かトライした結果、最短で言えたのは「3秒62」。
花道の肺活量はもっとすごいだろうが、ここではこれと同じスピードで「フンフン」を言ったと考えてみる。
すると「フン」1回あたりの所要時間は0秒19だ。
◆高度22mまで跳んでいく!?
「フンフンディフェンス」の瞬発力のすごさを、数字で明らかにしてみよう。
このワザを発動したとき、マンガのコマでは、花道の頭は赤木の頭より高い位置にある。
赤木の身長は197cmで、花道の189.2cmより高いから、すると花道は跳躍しながら、この分身ディフェンスを行ったのだと思われる。
ジャンプ高度は50cmくらいだろうか。
その場合、一つのポーズを決めるまでに、彼は次のような過程をたどったことになる。
まず体を沈め、床を蹴ってジャンプする。
一つのポーズに使える時間は0.19秒だから、半分の0.095秒でジャンプしてポーズを決め、残り0.095秒で着地。
腰を50cm落とした状態から、片道0.095秒の半分を使って足を伸ばして離陸するとしたら、その瞬間のスピードは時速76km。
これを実現するには、体重の45倍の脚力が必要だ。
ウサイン・ボルトは100mの世界記録9秒58を出したレースで、最初の1歩で時速16kmに達している。
別のデータも合わせて計算すると、この瞬間にボルトの脚が出した力は、体重の4.5倍だ。
これらを比較する限り、桜木花道の瞬発力はボルトの10倍……!
これはモーレツにすごい。
この瞬発力を爆発させて「時速76kmでジャンプしてはピタッと止まる」という動作を繰り返せば、作中の「フンフンディフェンス」も可能……あ、いや待て。
時速76kmでジャンプした人間は、地上50cmでピタッと止まることなどできない!
どうやっても、その勢いのまま跳んでいく。
垂直に跳んだ場合、その高度は22m!
時速76kmの跳躍とは、それほどスゴイことなのだ。
恐るべし、桜木花道。
『THE FIRST SLAM DUNK』でも、山王の河田に「こいつは跳ばしちゃダメなんだ」と言われていたが、まったくそのとおり。
花道の跳躍力は本当に驚異的だ。
そしてその才能は、入部前の「フンフンディフェンス」のときに垣間見えていた。
こういう発見があるから、再読は面白い。
皆さんもぜひ、もう一回『SLAM DUNK』を読んでみて!