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原料高騰で注目の総菜は「ギョウザ」 ピンチの「唐揚げ」にはない強みとは?

池田恵里フードジャーナリスト
餃子が今後、注目すべき商品である。(写真:アフロ)

原料高騰、惣菜が並べられない事態に

景気が芳しくないなか、原材料が昨年から高騰しており、食において厳しい状況が続いている。日本の企業物価指数をみてもわかる。

オイルショックで醤油がなくなった!

2022年3月の企業物価指数は9.5%となった。

この数字は、1970年、2度起こったオイルショック以来の高い水準と言われる。

当時、つまり1970年のオイルショックでは、人々はこぞってトイレットペーパーを買い占める事態となったことを記憶されている方もいるかもしれない。しかし、意外に知られていないのが、オイルショックが起こった際、スーパーで醤油が陳列台から買い占められ、醤油工場がフル稼働しても、追いつかなかったことだ。そのため、出来立ての温かい状態で醤油が売り場に並んだという。

2022年4月は、10%超えだ。

これは1960年1月以降では最大で伸び率は80年12月(10.4%)以来、約41年ぶりに2ケタの伸びだ。ロシアのウクライナ侵攻などを背景に世界的に商品価格が高騰したことが指数を押し上げた。前月比では1.2%上昇した。(日経 2022年5月16日)

昨年、話題となったディスカウントストアも暗雲

昨年は、ディスカウントストアが大いに話題となり、日本の賃金が40年間上がっていないことから、顧客にとってありがたい存在となった。

しかしここにきて、これほどまでに原料高騰すると、これまでのような売り場では立ちゆかない。

原料高騰の主たる要因として、地球の温暖化による穀物の不作、ウクライナ情勢緊迫による地政学リスクがあり、このために原油価格が高騰している。このことから物流のコストがアップしているのだ。

その上、日本の食は、中国に依存しているところが多い。現状、コロナによる中国の経済の停滞の余波が日本にも及び、これまで当たり前のように惣菜で使用できた食材も入らなくなってきている。

例えば、中国産のタケノコの水煮は、惣菜の商品を開発するにあたって低原価で、これまでありがたい存在であった。顧客にとっても、タケノコを入れることで食感が生まれ、喜ばれた。しかし価格が急騰しており、タケノコを入れての原価調整ができないのだ。

この他に小麦、油、脂、基本調味料の原料、物流まで円安もあって、あらゆる原料が高騰している今、食品メーカーの多くは、値上げはやむをえない状況となっている。

スーパーの「価格凍結」といったことを一般には言われてはいるものの、実質、実行しているのは1社のみである。

現状、多くのスーパーは「もう価格を上げざるを得ない」と言われている。

しかし安易に価格をアップできないほど、日本は貧しくなっているのも事実である。

より内製化へ 限定的

基本調味料の何もかもが上がっていることから、これまでソースを外注していたスーパーなどが、内製化、つまり自社工場でソースも製造し、何とかコストを下げる動きも出てきている。大手スーパーは、今後、その傾向は強くなっていくであろう。これはある程度の規模のスーパーであること、セントラルキッチンを導入するにあたり、店舗からセントラルキッチンまでの距離を踏まえ物流が可能であること、この2つの条件をクリアしてようやく実現できる。

しかし日本の全国のスーパーの多くは、保有店舗が10店舗にも満たないところがこの図でもわかるように半数以上を占め、セントラルキッチンを導入できるスーパーは限られている。

「2021年 スーパーマーケット年次調査報告書」より引用
「2021年 スーパーマーケット年次調査報告書」より引用

その為、多くのスーパーには、リスキーな食材を最小限にし、現状の定番の商品構成と品揃えの変化が求められていく。

原料1本のリスキーさ

その一つが原料のリスク分散があり、今後、取り組まなければならない火急の件だろう。

つまり1つの原料に頼った商品は、何がしかの問題が勃発すると、たちどころに売り場に並べられなくなるからだ。事実、今、問題となっているのが、昨年、話題となった唐揚げである。唐揚げに使用されるカットされた鶏の供給不足は今もなお続いているのだ。

唐揚げピンチ!

「鶏がない」と言われだしたのが2021年後半、特に10月以降からスーパーにとって死活問題となった。

唐揚げ用に加工された鶏の主な輸出元はタイ産である。約50万トン、2500億円相当がタイから輸入されているという。加工された鶏の全体の6割がタイ産なのである。

それが昨年の8月ごろからタイでもコロナの感染者が拡大し、鶏の加工工場の従業員の感染により、人手不足に陥り、工場内での感染拡大を防止するため、稼働停止、もしくはフル稼働しなくなったのだ。そのため輸入が滞り、タイ産の加工鶏の価格が急上昇した。

11月ごろには、スーパーは12月のクリスマス商戦に向けて、必要な加工鶏を集めるべく、代替えとしてブラジル産も検討された。しかし、カットの違いから唐揚げに使用しづらいといった問題もあり、各社どうすべきか悩んでいる間にブラジル産さえも瞬く間に価格が上昇してしまったのだ。

現状

今、海外より国産のほうが供給も安全なため、切り替えを始めているスーパーもある。国産鶏をかき集め、自社工場でカットし、何とか1キロ1000円で抑え込む形で販売しているのだ。とはいえ、国産を使用しているため、唐揚げが儲かる惣菜ではなくなりつつある。

主原料が1本の唐揚げのリスクからの脱却

そのように考えると、一つの原料が主体の「唐揚げ」のような商品の代わりになる商品を同時進行で売り場に並べる必要が出てくる。

そこでこの図を見てもらうことにしよう。

惣菜白書2022年から筆者作成
惣菜白書2022年から筆者作成

これは過去4年間(2018年から2021年)の惣菜ベスト10で、3回以上購入した人々の推移をみると、増加しているのがギョウザ、そして麺類のみであった。

麺類は、確かに上昇している。しかし小麦の高騰から積極的に販売することが難しくなる。10位内に入っていないが、近年、定番となったピザなども小麦を多く使用する商品に該当する。

ピザは、ディスカウントストアの中で出来立て感を打ち出し、450円以上の価格設定にしているところも多く、ディスカウントストアの弁当価格200円台後半より高く設定し、粗利を生み出してきた。

しかし今後は、売り場構成も変更せざるを得ないかもしれない。

いろいろな原料で原価調整が可能、それがギョウザ!

そこで定番のギョウザに注目した。

ギョウザは上の図のように定番中の定番である。

ギョウザの具材を見ると、単一原料(唐揚げ、焼き鳥、とんかつ)ではなく、野菜、そしていろいろな具材をミックスして成り立つ商品である。確かにギョウザの皮は、小麦を使用している。しかし、中具との比率から、具材の調整のいかんで原価を調整することがまだ可能なのである。つまり原料のリスク分散ができる。

ギョウザはその上、冷凍技術の発達もあり、商品のレベルもアップしており、冷凍に向いている商品と言える。

既にスーパーの多くでは、冷凍した状態で店に届けられ、店舗内で焼かれる。

唐揚げのプリフライ(揚げた状態で冷凍されたもの)はあるものの、衣がどうしても不自然になりやすい。

冷凍されたギョウザは、野菜の旨みを瞬間冷却することで封じ込め、長時間、保持ができ、むしろおいしいのである。当然のことながら人件費も大幅カットできる。

昨年は唐揚げのブーム到来であまりギョウザについて話題に上がらなかった。しかし、昨年あたりから餃子は多様化しているのだ。そこで他の業態、外食、コンビニ、ドラッグストア、そして自販機によるギョウザの現状を見てみよう。

自販機の出現

この数年で全国に自販機によるギョウザの販売が増えている。

人手不足が深刻になり、コロナで人との接触を避けるようになったことから、よく見かけるようになった。

なかでものギョウザの無人販売店「餃子の雪松」は有名で、全国展開をしており、36個入り1000円(税込み)となっている。「餃子の雪松」は1940年創業の中華料理店で、ギョウザの自販機での販売を手掛け、年中無休である。

全国でブームの火付け役となったのはYES(本社東京都)が運営する「餃子(ぎょうざ)の雪松」。群馬県で80年続くギョーザの名店「雪松食堂」の味を冷凍ギョーザにし、2019年から無人販売を始めた。現在376店に急拡大し、福井県では3月中旬に敦賀市でオープンした。YESマーケティング部の高野内謙伍部長は「敦賀での売れ行きは好調。今後、福井でも店舗数を増やしていく」と力を込める。(読売新聞 2021.11.30 東京朝刊)

餃子の雪松の外観

餃子の雪松の外観 きわめて昭和スタイルでお賽銭箱に1000円を入れて、自らギョウザを冷凍ショーケースから取り出す(筆者撮影)
餃子の雪松の外観 きわめて昭和スタイルでお賽銭箱に1000円を入れて、自らギョウザを冷凍ショーケースから取り出す(筆者撮影)

フライパン調理してみると、きれいに焦げ目もつき、良い仕上がりになった(筆者撮影)
フライパン調理してみると、きれいに焦げ目もつき、良い仕上がりになった(筆者撮影)

1個あたり27.77円(税込み)

フライパンで実際、調理するときれいに仕上がる。

キャベツの旨みも冷凍することで封じ込めている。

次にそれぞれの業態のギョウザの取り組み(調査期間2022年2月から4月)を見てみよう。

ちなみに1個あたりの単価(税込み)も見てみる。

コンビニのギョウザ 1個23円から54円(税込み)

セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマート、ミニストップを取り上げる。

価格設定は1個あたり、23円から54円。

ローソンが最も1個あたりの単価が安く23円。

アイテム数では、最も多いのがセブン-イレブンで3種類。

冷蔵1種類、冷凍2種類と最も多い。

ローソン、ファミリーマートは冷凍、そしてミニストップは冷蔵である。

最も賞味期間が長いのは、ご存じのように冷凍であり、その次にパックの中に窒素を入れることが1週間ほど持つ窒素充填となる。

コンビニにとって人手不足から近年、窒素充填、冷凍を品揃えを充実させており、

冷凍技術の発達から餃子が多く見受けられる。

セブン-イレブンは、その冷凍、冷蔵、いずれも陳列させ、ワンストップショッピング、つまり1か所で買い物を済ませる傾向が強くなった顧客ニーズに合わせている。

窒素充填のセブンーイレブンのギョウザ270円(税込み)1個50.84円(税込み)(筆者撮影)
窒素充填のセブンーイレブンのギョウザ270円(税込み)1個50.84円(税込み)(筆者撮影)

窒素充填と同時に、普段使いの冷凍ギョウザは1パック149円(税込み)という低価格で勝負している。

 セブンーイレブンの商品力の高さを感じる商品 149円(税込み)1個29.8円(税込み)(筆者撮影)
 セブンーイレブンの商品力の高さを感じる商品 149円(税込み)1個29.8円(税込み)(筆者撮影)

スーパーのギョウザ 1個26.75円から56円(税込み)

関西(阪急オアシス、万代、ライフ、光洋、平和堂)そして関東(サミット、オーケー)、イオン、ヨーカドー、そしてベニマルを扱った。

単価は幅広く、1個あたり26.75円(税込み)から56円(税込み)となっている。

ちなみに最も低価格が関西展開している万代26.75円(税込み)である。

午前中に来店。2時以降に焼かれるという。特別に焼いていただいた。万代では1種のみ1個あたり26.75円(税込み)(筆者撮影)
午前中に来店。2時以降に焼かれるという。特別に焼いていただいた。万代では1種のみ1個あたり26.75円(税込み)(筆者撮影)

さてスーパーでアイテム数が多いのがヨークベニマル3種類である。

工場製造のものは冷蔵ケース1種類、そしてそれ以外は常温2種類である。

ヨークベニマル「自社製焼き餃子(5個入り)235円(税込み)」1個47円

自社製焼き餃子(5個入り)218円235円 税込みで1個47円(税込み)筆者撮影
自社製焼き餃子(5個入り)218円235円 税込みで1個47円(税込み)筆者撮影

地方で人口が減少していくなか、いかに1回の来店で購入してもらえるかよく考えての商品となっている。

スーパーのギョウザ、野菜がキー

このところ、にんにくあり、なしといった商品を2種類陳列することが多く、次なるステップとして、野菜を謡ったスーパーが見かけられるようになった。

中には具材の8割が野菜とうたった商品もある。

ヤオコー 「野菜の旨みギュッ!」214.92円(税込み)1個42.98円(税込み)

野菜餃子214.92円(税込み)1個あたり38.8円(筆者撮影)
野菜餃子214.92円(税込み)1個あたり38.8円(筆者撮影)

具材内の野菜構成比率が80%以上と明記されている。

ドラッグストア 圧倒的な価格、最安値!1個8.6円、食卓シーンも多様

今回は食品比率が57.7%(当第二四半期連結累計期間(自21年6月1日から至11月30日)と業界内でも最も高い数値のコスモス薬品を取り上げる。

圧倒的な低価格で3種類売り場に冷凍ギョウザとして販売。

そして何と言っても群を抜いた低価格である。

スーパーの半値で、なかには1個8.6円で販売されているものもある。

肉餃子 258円 1個8.6円(税込み)(筆者撮影) 
肉餃子 258円 1個8.6円(税込み)(筆者撮影) 

30個入りでいろいろな顧客層を狙っていることがわかる。

パッケージに書かれている「365」とは、「365日、高品質でできるだけ安く」というのをモットーしているという意味。プライベート商品でメーカーと共同開発して作られた商品である。確かに、できるだけ安くは、他の業態からみても明白である。

これ以外に1個9.8円(税込み)、19.8円(税込み)のギョウザがあり、いずれも20円をきる安さである。

外食 目的購入が今後のポイント

自販機販売のリンガーハット1個29.16円(税込み)。  

そして丸源、魁力屋、リンガーハット、餃子の王将(京都)を取り上げた。

コロナ禍で出店力が強かった企業、もしくはギョウザ専門店、そして自販機販売を行っているリンガーハットを取り上げた。リンガーハットは外食の中でも自販機での販売であるがゆえに1個29.16円(税込み)と値ごろである。

店舗の前に置かれている自販機、ここからギョウザ380円(税込み)を購入(筆者撮影)
店舗の前に置かれている自販機、ここからギョウザ380円(税込み)を購入(筆者撮影)

餃子の王将 主役であるが故の底力 1個39.5円(税込み)

餃子の王将(京都)は今回、テイクアウトを購入。テイクアウト餃子を求めて顧客がぞくぞくと来店。駐車場のないところでこれほどテイクアウトするのかと驚く。店舗内売り上げの回復もさることながら、テイクアウトが高いことで増収増益(2022年3月期決算短信〔日本基準〕(連結))であることが理解できる。

餃子の王将(京都)237円(税込み)1個39.5円(税込み) ニンニクあり、なしの2種類で同価格。きれいな焼き上がり。(筆者撮影)
餃子の王将(京都)237円(税込み)1個39.5円(税込み) ニンニクあり、なしの2種類で同価格。きれいな焼き上がり。(筆者撮影)

多くの外食では、どうしても店舗内の味付けになっている。

例えばラーメン店だとギョウザはあくまでも脇役の存在でそのような味付けになってしまうのだ。

しかしテイクアウトは、顧客が一旦、自宅に持ち帰ると、ギョウザをメイン料理として食べる時もある。高齢化、コロナによって、1か所で買い物をすます、つまりワンストップショッピングの傾向が強まった。このことから、いろいろな食卓シーンを考慮するとともに、外食は生鮮三品がないため、独自のギョウザを作り上げることが大切になってくるのではないだろうか。外食はたとえ同商圏であったとしても、価格はどうしても他の業態より高い。今後のインフレから、よくよく考えてテイクアウト商品を作り上げる必要がある。

ギョウザの今後

ギョウザは定番商品であり、複数原料を使用することで柔軟な対応ができ、原価調整がしやすい、その上、冷凍に適している。その一方で真摯に開発を手掛けると非常に難しい。中具の野菜の収穫する時期、そして部位によって糖度が変わり、塩分を入れるタイミング、ミキシングの回数、中具を入れた後の熟成時間、そして物流の温度など少しずつ作り上げてようやく商品が出来上がる。ほんの少しでも変化があると味のバランスが一気に崩れる繊細な商品なのである。

今回、真剣にギョウザに取り組んでいる企業はすでに進化を遂げ、アイテム数、価格設定と他の企業との差が開いてしまっているのも事実である。これは企業の大小、地方や都会だからといった理由ではない。むしろ地方だからこそ、人口減、高齢化問題が深刻であり、限られた商圏での戦いで生き残れるか、ギョウザを通して真剣さが透けて見えた。これは今後の日本の社会的状(高齢化、人口減)、他国に依存してしまっている原料を考えると、ギョウザはまさにより深く掘り下げて取り組むべき商品ではないだろうか。

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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