史上最年少!39歳の新時代リーダー、ノーベル平和賞委員長に輝く
ノーベル平和賞の受賞者を選出するノルウェー・ノーベル委員会の新委員長が誕生した。今年2月に選出が発表された新委員長は、39歳。史上最年少の委員長の誕生となった。
ヨルゲン ・ヴァトネ・フリドネスさん(Jørgen Watne Frydnes)は、オスロ大学で政治学の学位を、イギリスのヨーク大学で国際政治の修士号を取得している。2021年から委員を務め、2024年からは自身を含む5人の委員をまとめる委員長となった。委員長と副委員長を選出するのは委員である。
ノーベル委員会の委員長のイスは、世界的にも最も権威と影響力がある座のひとつだ。
ノルウェーの元首相や大臣など、歴代の委員長の名前には、ノルウェーでは誰もが知るような有名な元政治家などの名前が並ぶ。政治家などのキャリアにひとまず満足し、人生の後半に「座りたい」とノルウェーの権力者が「夢見るイス」といっても過言ではないのがこの委員会のトップの座だ。
だから、政界などで経験を積んだ高齢者が委員長として選出されることが多かった。そこで39歳の男性が選ばれたというのは画期的だ。
ヨルゲンさんはノーベル委員長を兼任しながら、本業である国際ペンクラブの「ノルウェー・ペン」の事務局長の仕事も続ける。ノーベル平和賞の受賞者を選ぶ5人は、誰もが本業をもちながら、委員会メンバーを副業として勤めている。
最も若い委員が「同僚のランチを買う」伝統は続行
ノーベル員会には「ある伝統」がある。
それは、「最も若いメンバーが、スタッフのランチを買いに行く」というものだ。今でも5人の中で最も若いメンバーであるヨルゲンさんは、委員長でありながら、同僚にサンドイッチなどのランチを購入する担当を続けることになる。
代表者の顔触れに若い世代がいるのは当たり前
「ノーベル委員会で史上最年少の委員長」という肩書は、これからも彼のプロフィ―ルが語れる時に常にセットとなるだろう。特に国際メディアでは。
しかし、本人は年齢というものをさほど気にしていないという。
「世界人口のおよそ60%は、そもそも私より若い。だからこそ、委員会の代表性に若い人がいること、『代表の顔触れに若い人がいる』ことを社会に強調することは重要だと考えています」
同氏は「ノーベル平和賞は政治的なもの」とハッキリと口にした。北欧と比べて日本では、「若いと、政治のことを十分に知らないから」と、政治や選挙に距離をおくこともある。
そのことに対して、ヨルゲンさんは、「自分だって何も知らない」と、このようなメッセージを日本の若い世代に送った。
「自分だってまだ知らないことはたくさんある」
「ノーベル委員会の建物にある図書館に行けば、平和や外交政策に関する素晴らしい蔵書が数多くあります。その部屋にいると、いかに自分が何も知らないことを痛感するでしょう。本に書かれている知識の量は、膨大であり、『自分は十分に知らない』という感覚を生み出すでしょうね」
「委員会の部屋にはこれまでの受賞者の肖像画が飾られています。その中にはマララさんの肖像画もある。若くても、どのようにロールモデルになれるのか。どのように立ち上がれるのか。どのように手を差し伸べることができるのか。マララさんをぜひ素晴らしい例として、参考にしてみてください」
若者にリーダーのイスを譲る北欧社会
実は、筆者はもう何年も前に、まだノーベル委員会の委員ではなかったヨルゲンさんに出会ったことがある。
彼はウトヤ島で民主主義と平和を伝えるためのリーダーとコーディネーターをしていたのだ。2011年に極右思想のテロリストによって77名の命を奪った事件では、ウトヤ島で労働党の青年部の夏合宿に参加していた若者たちが銃乱射事件の標的となった。
悲劇の場となったウトヤ島では、それから平和と民主主義を共につくるための活動が始まり、ヨルゲンさんはそのリーダーを務めていたのだ。筆者はその取材で彼に出会った。その時の人が、まさか史上最年少のノーベル委員長になるとは驚きなのだが、いかにノルウェーという国が、若者にリーダーシップをとるチャンスを与える国なのかを改めて感じもする。
「物事を決定する責任あるリーダーに」
平和と民主的な対話のために活動をしてきたヨルゲンさんは、「責任をとる」委員長でありたいと何度も繰り返した。
ノーベル平和賞というのは、時にオバマ元大統領など、物議となる受賞者を生み出すこともある。受賞後に、本人が誤った道をいくこともある。それでも、平和賞を与えた歴史は「撤回できない」。
「選出を後悔している受賞者はいるか」は、歴代の委員長が記者たちから何度も問われる質問だ。
「私たちは間違いをおかすこともあります。それでも、その時にベストだと思われる、平和を導くと思われる受賞者を選ぶ。『勇気をもって決定するリーダー』で、私はありたい」とヨルゲンさんは答えた。