「自作の曲を演奏できなかった作曲家、JASRACに敗訴」の背景情報
「自作の曲を演奏できなかった作曲家、JASRACに敗訴」というニュースがありました。見出しだけ見ると、JASRACが理不尽にも自作曲の演奏を禁止したかのように見えますが実際はもっと複雑な話なので、背景情報を含めて解説します。なお、同じ事件を扱った弁護士ドットコムの記事も合わせて読むと理解が深まります。
流れとしては、
ということです。このライブハウスは当時JASRACと訴訟中であったファンキー末吉さんが経営に関与していたライブハウスです。こちらの裁判はJASRAC勝訴で終わりましたが(関連過去記事)、2016年5月の時点ではまだ判決が確定していませんでしたので著作権使用料の清算は当然に終わっていませんでした。なお、上記に「自分で作詞・作曲したオリジナル曲を含む12の楽曲」と書いてあるように、利用を申請したのは自作曲だけではなく他人の曲も含まれていたと思われます。自作曲だから許諾されなかったというわけではありません。また、言うまでもなく、わざわざ係争中のライブハウスでやらずに、別のライブハウスで演奏する分には何の問題もありません。(追記:その後、別のライブハウスで普通にJASRACの許諾を取ってライブを実行できています、また、その際に支払った著作権使用料が作曲家たるのぶよしさんに支払われていない(JASRACの著作物管理は不適切である)との訴えも行なわれていたのですが、JASRACはちゃんと音楽出版社に支払いを行なった証拠を提出しています)。
さて、大前提の話として、JASRACのような著作権管理団体には応諾義務という法律上の義務が課されています。所定の料金を払いさえすれば、利用者は自由に音楽作品を利用でき、JASRACはそれを拒むことはできません。ライブハウスで、J-POPだろうが洋楽カバーだろうが自由に演奏できるのは店舗が演奏者に代わってJASRACに著作権利用料を払ってくれているからです。
ここで、ライブハウスのJASRACへの利用料金の支払い法には、月額の包括許諾(サブスクのような方法)と個別の曲ごとの許諾があります(通常は前者が使用されます)。そして、包括契約の月額料金が未払いの場合には、個別曲の許諾はしない(しなくても応諾義務違反ではない)というのがJASRACの運用です(これが許されてしまうと、真面目に月額料金を払っている店に対して不公平だからという理由です)。
実は、この件については、提訴の時点(2019年)に記事を書いていました(「所定の料金を払っても演奏を許諾しないJASRACについて」)。そこでは、
と書いたのですが、まさにその通りの流れだったようで、のぶよしじゅんこさんは第三者なのでその個別許諾要求を拒否するのは応諾義務違反で違法であり許されないという原告側主張に対して、裁判所は、
との判断枠組みを示し、
ということのようです。要は、裁判所は、のぶよしさんは「第三者」ではなく、ライブハウス側の人間であり、ライブハウスに代わって演奏利用を申し込んだのだと判断したと言うことになります。この判断については訴状を読まないとコメントしにくいです。
なお、今、JASRACの作品データベース(J-WID)で調べると、のぶよしさんは自作曲全曲の管理をJASRACから引き上げているようです(いつ引き上げたのかは不明)。NexToneのデータベースにも登録がない(そもそも、現時点で、NexToneは演奏権を管理していないですが)ので、自己管理の状態になっていると思われます。ゆえに、自作曲を自分で利用する分には自由に行なえる状態になっています。作詞家・作曲家にとってJASRACと契約することは別に義務ではありませんので、JASRACと契約しないことも本人の自由です。自作曲のマネタイズが難しくなる面はありますが、それは致し方ありません。