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住宅購入の誤解を解く(2) マイホーム購入に踏み切れない人に共通する、ただ1つのこと

櫻井幸雄住宅評論家
高額化する都心マンション。宝くじに当たったら……と考える人は多い。(写真:イメージマート)

 東京23区内の新築マンション平均価格が1億円を超えた。そこまで高くなると、出てくるのが「宝くじにでも当たらなければ買えない」の声。1等賞金で3億円とか5億円が当たれば、1億円の2LDKでも1億5000万円の3LDKでも余裕で買えそうだ。

 では、3億円とか5億円の賞金を手にしたとき、賃貸マンションを借りる選択肢はないのか。

 宝くじに当たったら、という前提で「賃貸か分譲か」を考えてみたら、あることに気がついた。

 「賃貸か分譲か」で迷ったとき、じつはある要因が多くの人の決定を左右していたのだ。

 言い換えれば、マイホーム購入に踏み切れない人に共通することがあった。それは何か……「住宅購入の誤解を解く」シリーズの2回目として、解説したい。

賃貸も分譲も生涯の居住費はだいたい同じ

 宝くじで大金を手に入れたら、1億5000万円の新築マンションをキャッシュで購入できる。それなら、賃貸を借りる人はいないでしょう、と考えがちだ。「だって、賃貸は損」ともいわれそう。しかし、賃貸を借りるのは、必ずしも損ではない。

 23区内で1億5000万円の新築分譲マンション(70平米程度の3LDK)を買う代わりに、同じレベルの高級賃貸を借りたら、どうなるか。23区内で新築賃貸マンションの場合、70平米で月額家賃は30万円くらいから探すことができる。

 家賃30万円の賃貸に住めば1年で360万円ほどの家賃出費だ。その家賃が上がらなければ、40年住み続けて総額1億4400万円を払うことになる。1億5000万円の分譲マンションを買ったときと同じくらいの出費である。

 ただし、家賃補助が出る会社に勤めていれば、賃貸の家賃負担は軽減されるし、家で仕事をしている人は家賃の一部を経費計上できるという利点がある。

 さらに、子育てが終わったら小さな賃貸住宅に移り、会社勤めが終わったら、郊外や地方に移るといった住み替えを繰り返せば家賃出費が抑えられるので、宝くじで得た賞金を基に賃貸を選んでも損はない。

 東京23区ではなく、郊外の駅に近い場所で新築分譲マンションを買った場合と、同条件の賃貸マンションを郊外で借りた場合も同様だ。

 首都圏郊外でも駅に近く便利な場所の新築分譲マンションは、70平米程度の3LDKで7000万円くらいする。同条件の賃貸マンションは家賃15万円以上だ。

 家賃15万円の賃貸マンションを借りた場合、1年の家賃総額は180万円。その家賃が変わらなければ40年で7200万円の出費となる。賃貸のほうが総額が大きくなるのだが、家賃補助や家族構成、ライフスタイルの変化に合わせて住み替えすればよいので、問題にはならない。

 以上は大雑把な計算で、実際には賃貸の家賃は年月の経過とともに上がるし、分譲マンションの場合は毎月の管理費と修繕積立金、それに毎年の固定資産税が発生する。

 それらをすべて計算に入れたとしても、賃貸と分譲で住宅にかかる費用はそんなに大きく変わらないという試算がこれまでいくつも行われてきた。

 宝くじに当たったとき、賞金で分譲マンションを一括購入してもよし、賞金から毎月家賃を出して賃貸暮らしをしてもよしなのだ。

 ただし、分譲購入(持ち家)の場合は、50年後、60年後でも、売却したり、人に貸して家賃収入を得ることができる。超巨大地震でエリアが消滅でもしない限り、分譲ならば価値が残るわけだ。

 一方、賃貸暮らしでは、高齢化すると借りにくくなるという問題もある。

 そこまで考えると、宝くじで当選して大金を得たとき、将来の安心を重視して「分譲」を選ぶ人が多くなる。

 宝くじで大金が得られたとき、「賃貸か分譲」の結論は出やすい。分譲派優勢となるだろう。

 しかしながら、現実の世界で宝くじで大金を得る人は極めて少なく、住宅購入に際しては、住宅ローンを利用するのが普通。住宅ローンの利用前提で考えると、分譲派優勢とはいえなくなる。それほど、マイホーム購入において、住宅ローンは大きな問題になる。

 「賃貸か分譲か」を考えるとき、住宅ローンの問題が大きく絡んでくる。そのことが、「宝くじに当たったら……」と考えることで明確になったわけだ。

半世紀以上続いている、「賃貸か分譲か」の論争

 家は借りたほうがよいか、それとも買ったほうがよいか、つまり「賃貸か分譲か」は何度も雑誌やサイトの記事で取り上げられてきた。

 私が編集者になり、記事を書き始めた1970年(昭和45年)代から繰り返されているので、少なくとも半世紀以上論争が続いていることになる。

 前述したとおり「宝くじに当たったら」と考えると、結論は出やすい。分譲の利点が明確であるからだ。しかし、「住宅ローンを組む」という前提で考えると、問題が複雑になる。

 マイホーム購入に際し、大半の人は大きな金額の住宅ローンを組む。この「ローン」が嫌いだったり、怖かったりしてマイホーム購入をあきらめる人が少なからずいる。自分には住宅ローンは組めない、と初めからあきらめている人もいる。

 そもそも、好きで住宅ローンを組む人はいない。住宅ローンの契約書に判を押すときに背中に嫌な汗が流れたという人は多く、不安に耐え、勇気を出してローンを組むのが普通だ。

 「それほどの思いをしてまでローンを組むのは嫌だ」という人は賃貸を選ぶ。ローンの審査に落ちたらどうしようとの不安が強い人も同様だ。

 つまり、「一生賃貸でよい」という人の中には、賃貸好きだけでなく、「ローンが苦手な人」も含まれている。本当は分譲がよいのだが、ローンを組むくらいなら、賃貸でよい、という人がいるわけだ。

 だから、ローンを組まなくてもよい状況、たとえば「宝くじに当たったら」という前提で「賃貸か分譲か」を考えると、分譲派が多くなる。でも、住宅ローンを組むのなら、話は別……それが、「賃貸か分譲か」論争に隠れていた大きな問題。つまり、マイホーム購入に踏み切れない人の多くに共通するのは、「住宅ローンは嫌だ」という思いだった。

 「ローンが苦手」という人にとって、今は困った時代である。便利な場所に建設されるマンション、一戸建ての価格は新築も中古も値上がりを続けているし、住宅ローンの金利は今後上昇する可能性が指摘されている。住宅ローンに対する不安が増すばかりであるからだ。

 とはいえ、「一生、賃貸」はわるいことではない。そのほうが快適という人には最高の選択であり、まわりがとやかくいうべきことではない。

 ただし、妻がマイホームに憧れ、夫が住宅ローン嫌いというような場合は少々面倒。ローン嫌いの夫を妻が説得するのは至難の業(わざ)であるからだ。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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