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百花絢爛 フランス・ロワールのショーモン城 「開花がアートであるとき」2020開催

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
古城を飾る花装飾(写真はすべて筆者撮影)

新型コロナ感染第二波の拡大が懸念されているフランス。中止になる行事が少なくない状況ですが、健気に開催されるイベントが希望をつないでくれます。

フランス・ロワール地方といえば古城巡りで訪れた方も多いかと思いますが、雄大に流れるロワール河沿いに、歴代の王たちの名城が点在しています。そのひとつ、ショーモン・シュール・ロワール城は、カトリーヌ・ド・メディシス、ノストラダムスなど、歴史に名を残す数々の人々にゆかりのある城。逸話のたくさん詰まった城館そのものが素晴らしいだけでなく、広大な敷地を舞台に30年近く続いている国際庭園フェスティバルでも有名です。

ロワール河を見晴らす高台に建つショーモン城
ロワール河を見晴らす高台に建つショーモン城

さらに昨年からは、「開花がアートであるとき」と題して、城館を花装飾で満たすというイベントもスタート。2年目となる今年も、10月9日から13日まで開催されています。

昨年は国内だけでなく外国からも世界的フラワーアーティストを招聘。日本の東信(あずま・まこと)さんもこの記念すべき初回のアーティストに選ばれ、独創的な世界感が多くの人を魅了しました。

コロナ禍の今年はヨーロッパのフルーリストでも実現が危ぶまれたため、オールフランスの競演となりました。花の世界の大御所の作品をはじめ、パリのフルーリスト養成学校の学生たちによる力作も披露されています。

城内の調度品と花装飾が織りなすイベントの様子は、こちらの動画でご覧いただけます。

城を舞台にしたフラワーアート

数々の饗宴が繰り広げられたはずの会食の間を飾るのは、Gilles Pothier(ジル・ポティエ)さんによるインスタレーションです。ポティエさんは、M.O.F.(フランス最優秀職人章)のタイトル保持者で、世界大会で優勝経験ももつというフランスの花装飾界の重鎮。この空間の重厚な雰囲気をつくっている見事な暖炉やタピスリー、調度品からイメージを膨らませ、バロック調の色彩で大テーブルを彩りました。こっくりとした色を基調にすべくあえてテーブルクロスは使わず、天井に届くような高さのあるオブジェや花瓶を配して「モニュメンタル」なものにという意図を形にしています。

ジル・ポティエさんによる会食の間のインスタレーション
ジル・ポティエさんによる会食の間のインスタレーション
自作の中のジル・ポティエさん
自作の中のジル・ポティエさん

ビリヤードの間を担当したPascal Mutel(パスカル・ミュテル)さんは、イル・ド・フランス(首都圏)のフルーリスト組合の会長で、パリのフルーリスト養成学校長。文字通りパリの花を代表する人物のひとりです。

コロナ禍によって多くの業種が苦戦を強いられている昨今、フランスのフルーリストもまったく例外ではありません。見本市や展示会をはじめとするイベントに花装飾はつきものですが、そうしたイベントが軒並み中止になり、結婚披露パーティーも延期になるなど、フルーリストをとりまく現況は過酷です。

ビリヤードの間のインスタレーションには、この状況に立ち向かうフルーリストとしてのメッセージが込められています。緑青色の地衣類の付いた枝はフランスの冬の森を象徴するものですが、そんな厳しい季節のあとには必ず花が咲き、実り豊かな季節の到来があるということを、枝の間の花、そしてカボチャや果実で表現しています。

ビリヤード台の上で繰り広げられる花の叙事詩
ビリヤード台の上で繰り広げられる花の叙事詩
パスカル・ミュテルさん
パスカル・ミュテルさん

厩舎を飾る花

さしずめ現代なら、運転手付きの超高級車が何台も控えている車庫に例えることができるでしょうか。ショーモン城の見どころのひとつ、厩舎も花装飾の舞台になりました。こちらの担当は、ロワール地方の中心都市オルレアンで2軒の花店を経営するCharline Pritscaloff(シャーリーヌ・プリツカロフ)さん。2011年にM.O.F.のタイトルも獲得している女性です。

フランス語で「不滅」という意味合いのあるキク科の花immortelle(イモーテル)と孔雀の羽根を使って制作したインスタレーションで、馬のいない厩舎という空間に幻想的な世界を作り出しています。天井から花が舞い降りるような構成は、5メートルの糸150本に花一輪一輪を付着させたもの。列柱一つ一つの細工ともども、気の遠くなるような作業の賜物です。

厩舎を幻想的に演出したシャーリーヌ・プリツカロフさんのインスタレーション
厩舎を幻想的に演出したシャーリーヌ・プリツカロフさんのインスタレーション
シャーリーヌ・プリツカロフさん
シャーリーヌ・プリツカロフさん

古城を今に生かす力

このイベントの陣頭指揮をとっているのは、Chantal Colleu-Dumond(シャンタル・コリュー=デュモン)さん。現在ソントル地域圏の公共財産になっているショーモン・シュール・ロワール城と地所全体の支配人を10年以上務めている女性です。彼女は国際庭園フェスティバルの評判を年々高めてきただけでなく、現代アートのインスタレーションを積極的に紹介するなど、シャトーを舞台にした芸術的な試みを次々に推し進めてきていて、その延長上に花装飾のイベントがあります。

ドメーヌ・ショーモン・シュール・ロワールの支配人を務めるシャンタル・コリュー=デュモンさん
ドメーヌ・ショーモン・シュール・ロワールの支配人を務めるシャンタル・コリュー=デュモンさん

「いずれのチャレンジにも共通するのは『excellence(エクセランス=卓越)』。アートの境界線をなくし、ジャンルにとらわれずあらゆる素晴らしいものを紹介してゆきたいと思っています」

フランス全国が対象だったコンフィヌモン(集団隔離)の期間はおよそ2ヶ月にわたって城も庭園も閉鎖せざるをえませんでしたが、2020年の国際庭園フェスティバル(5月16日から11月1日)は予定どおり開催。外国からの訪問者がほとんどないという異例の春夏でしたが、7月の入場者数はフランス人の入場者数だけで例年と同じ数字を叩き出すことができたのだとか。長年の積み重ねが功を奏した結果といえるでしょう。

「新しい企画がこれからもまだまだあるのよ…」とニッコリするシャンタルさん。苦境に負けない彼女の行動力が、現代のシャトーに活力をもたらしています。

世界の作家たちによるインスタレーションが城内のあらゆる場所で印象的なシーンを作り出しています
世界の作家たちによるインスタレーションが城内のあらゆる場所で印象的なシーンを作り出しています
今年は期間限定の花装飾としてではなく、常設のインスタレーションとして東信さんの作品が展示されています。作品名は「ビブリオテック『フラワーボックス』」
今年は期間限定の花装飾としてではなく、常設のインスタレーションとして東信さんの作品が展示されています。作品名は「ビブリオテック『フラワーボックス』」
パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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