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この夏の最新サメ映画は女性がヒーローになる!?

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
冒頭はサーフィン映画で始まる「ロスト・バケーション」

楽しいはずのサーフィンが一転、サメの餌食に!!

過去最高の猛暑が予想される今年の夏。すでに海開きした各地のビーチが週末毎に賑わい始めたこの時期、タイミングよく公開される見た目"サーファー映画"、転じて強烈な"サメ映画"がある。「ロスト・バケーション」、略して「ロスバケ」だ。

ヒロインのナンシーは医学生でサーファーでもある。ある夏、同じくサーファーだった亡き母が生前訪れたことがある、知る人ぞ知るメキシコのサーフスポットにやって来た彼女は、早速、Tシャツをウェットスーツに着替え、ボードにワックスをかけて、勢いよくパドリングを始める。やがて、何度か波をとらえた後、沖で出会ったサーファー仲間たちが浜辺に引き上げ、1人になったナンシーが再びテイクオフした瞬間、強烈な衝撃を受けて水中に引きずり込まれる。サメに襲われたのだ。鋭利な牙で引き裂かれ、鮮血が滴る太股を庇う余裕もなく、水上を浮遊していた同じサメに襲われたであろうクジラの死骸の上(!!)に逃れたナンシーは、必死でサメの攻撃をかわしながら、さらに近くの岩場へと移動。そこで一昼夜過ごすことになる。

ビーチから200メートルなのに誰も気づかない!?

「ロスバケ」のオススメ・その1は、同じジャンル映画の金字塔「ジョーズ」(75)が遙か洋上を決戦の舞台にしていたのとは異なり、主人公が応戦するのはビーチからはほんの200メトールに位置する岩の上である点。浜辺からも視界範囲内なのに、呼んでも微妙に声は届かずスルーされてしまうというもどかしさは、大海原を漂うこと以上に孤独の極み。観客をも苛立たせる巧い演出だ。

そして、オススメ・その2は、頼みの岩場もやがて満潮と共に水没し、その途端、ナンシーはサメの餌にされてしまうという天文学的なタイムリミットが設定されている点。潮が満ちるまで100分という刻々感が、ダイバーウォッチの液晶画面で大きく表示される一方で、偶然ゲットしたヘルメットカメラが最終的な交信手段になる等、 デジタル時代の利便性を生かしたアイディアも買いだ。

さらに、オススメ・その3(←ここが最大の目玉!)は、ナンシーが女の子らしいツールを利用して自ら患部を治療する部分。冒頭からやたら目を惹く耳たぶに沿う半月状のピアスを針に、ネックレスのチェーンを糸代わりに使って、ぱっくりと開いた太股を縫合したり、ペンダントの角でウェットスーツを切り裂き、壊死しかけた脚を圧迫する等、ガーリーなアクセと医学生的スキルが合体した場面は、痛々しくも力強く、過去にサメと格闘したどの俳優たちより健気で強靱である。

サーファーギャルに見えるブレイク・ライブリー

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オススメ・その4(←最大の見せ場PART2)は、ナンシーを演じるブレイク・ライブリーの、いかにもサーファーギャル然としたスリムなボディと、顔に点在する染みも隠そうとしない堂々たる主演女優ぶりだ。さすがにサーフィンシーンは実力世界ナンバーワンのジュニア・サーファー、イザベラ・ニコルスがスタントダブルを演じてはいるが、パドリングする姿はいかにも乗り慣れている感ありあり。ハリウッド随一のファッショニスタは、スポーツウーマンにも化けられる素養の持ち主だったのだ。噂では撮影当時、夫、ライアン・レイノルズとの第二子を妊娠していたかも知れない彼女。勿論、太股の怪我はメイクアップだが、クライマックスでナンシーがブイに飛びつくシーンでライブリーは鼻を殴打し、出血するというアクシデントもあったとか。役も演じる女優も血みどろになってサメと戦った「ロスバケ」で、さらにヒートアップ必至の歴史的猛暑は乗り越えられそうな気がする。

「ロスト・バケーション」7月23日(土) 全国ロードショー

配給 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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