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官民連携1:厳しい財政状況と迫りくる老朽化対策の狭間に立つ水道事業。問われるPPPの有効性。

足立泰美甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」
(写真:イメージマート)

遅々として進まないライフラインの老朽化対策、官民連携は救世主となるのか。

ライフラインの老朽化は、日本だけでなく世界で重要な課題となっている。我が国では、1950~70年代の高度経済成長期に整備されてきた水道事業の施設が、まさに、老朽化に直面している。厚生労働省「水道の基盤強化に関する参考資料」によると、法定耐用年数40年とされる水道管は、2020(令和2)年度時点で、管路全体の約20.6%にのぼると試算している。この問題を対処するために、予防保全及び設備更新を柱に、限られた予算で効率的に老朽化対策を講じてきた。2024(令和6)年には、感染症対応能力を強化するための組織見直しの一環として、厚生労働省から国土交通省に、水道事業の所管が移行された。そこには、施設整備や下水道運営に加え、災害発生時の迅速な復旧支援や渇水への対応を行ってきた国土交通省に、水道事業における管理の一元化を託すことで、効率的な事業運営への期待が高まっている。国土交通省は、様々な施策に舵を取った。その一つに、官民連携がある。住民のニーズに応えながら、目標を明確に設定して進めることを理想とする官民連携。かつて、複数の個別委託で対応してきた業務を、一括した形態で委託する包括委託が実施されてきている。包括委託の契約期間は、通常、複数年となっており、3~5年間程度とする事例が多い。個別委託を束ねることで包括委託を実施し、その後、さらなる業務範囲の拡大や、より広範な範囲への委託を実施することで、段階的に官民連携を広げていくことを想定している。そうすることで、単年度契約でかつ業務範囲が限られる個別委託に対して、包括委託によるコスト削減の効果に期待が寄せられる。

増え続ける包括委託。委託内容は、業務範囲、対象施設、事業期間は個々に応じて異なる。

実際に、包括委託の事例は、増えてきている。神奈川県企業庁における箱根地区水道事業包括委託をはじめ、広島県の広島西部地域水道用水供給事業、石川県かほく市のかほく市上下水道事業包括的民間委託、北九州市上下水道局の宗像地区事務組合水道事業包括業務委託、熊本県荒尾市企業局の荒尾市水道事業等包括委託等があげられる。その業務範囲は、維持管理業務及び営業業務の複数の個別委託を統括したものから、建設、改良工事等の調査、設計、施工、監理業務や、管理業務ないし経営及び計画業務等を含むものまで、多岐にわたる。対象施設についても、浄水場施設と管路をそれぞれで対応する事業団もあれば、両方を含む包括委託を選択する事業団もある。このように、業務範囲、対象施設、事業期間等が水道事業者等の課題や目的等に応じて、多種多様に設定されているのが実情だ。だが、それによって、リスク分担は個別に応じて、必要な対応を選択していく必要があろう。

図1 民間事業者の実施する主な業務範囲

出典)国土交通省「官民連携の推進」より抜粋

予期せぬ事態、それに対する官と民の適切なリスク分担が求められる。

官民連携は、水道事業の維持管理、計画的な更新、サービス水準向上、必要な人材確保、技術水準向上の手段として注目されている。そこには、自然災害をはじめ予期せぬ事態へのリスクへの備えも検討していく必要がある。そもそも水道法の第三者委託を併用しない場合には、水道法上の責任は移転しない。だが、水道法の第三者委託を併用する場合には、対象範囲に応じて、水道法上の責任が移転される。このとき、第三者委託を活用した場合、入札説明書、事業範囲変更、法令等の変更等は、概ね、水道事業者等負担となる。第三者賠償や不可抗力を除く事故災害、契約不履行は、帰責事由による官と民とで分担することが多い。だが、不可抗力による事故災害や契約不履行は、水道事業者がリスクを負う事例が多く、不可抗力事由による事故発生は、限度額を定めた上で、限度額の範囲内で、水道事業者が負うと定めている仕様書などもある。それ以外にも、財務に関するリスクは発生主体である都道府県、市町村もしくは企業団とされ、物価変動においては一定の範囲以上の変動は対価を変更すると規定する仕様書等もある。そこには、自然災害をはじめ潜在的なリスクを洗い出し、その発生率と影響度を評価したうえで、リスクに対する対応策と計画を盛り込んだ業務仕様書の作成が求められてくるであろう。そして、業務実施後も、定期的にかつ継続的に、リスク管理の効果をモニタリングしていくことが重要であろう。

甲南大学経済学部教授/博士「医学」博士「国際公共政策」

専門:財政学「共創」を目指しサービスという受益の裏にある財政負担. それをどう捉えるのか. 現場に赴き, 公的個票データを用い実証的に検証していく【略歴】大阪大学 博士「医学」博士「国際公共政策」内閣府「政府税制調査会」国土交通省「都道府県構想策定マニュアル検討委員会」総務省「公営企業の経営健全化等に関す​る調査研究会」大阪府「高齢者保健福祉計画推進審議会」委員を多数歴任【著書】『保健・医療・介護における財源と給付の経済学』『税と社会保障負担の経済分析』『雇用と結婚・出産・子育て支援 の経済学』『Tax and Social Security Policy Analysis in Japan』

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