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辞めた二人よりやらせた側の資質に深刻な問題がある

田中良紹ジャーナリスト

 民進党の蓮舫代表と稲田防衛大臣が相次いで辞任した。二人の辞任は「遅きに失した」と評価されその資質が問題視されているが、そもそも二人とも政党の代表や防衛大臣になる器ではない。問題は器でない人間にやらせた側の資質にある。それが極めて深刻なのだ。

 稲田防衛大臣が誕生したのは1年前の8月3日、第3次安倍内閣の第2次改造による。直前の参議院選挙で自公維3党の議席数が3分の2を超え、安倍政権は衆議院と併せ憲法改正の発議に必要な議席数を確保した。

 安倍総理は「未来チャレンジ内閣」と命名し、長期政権と憲法改正を目的とする改造を行った。しかし私は翌4日に「安定を最優先して不安定の種を播いた安倍人事」と題するブログを書き、稲田氏の防衛大臣起用を「不安定の種」だと指摘した。

 なぜなら防衛大臣は外務大臣と並び国際関係の渦中に置かれ、稲田氏が自らの思想信条として優先にしてきた歴史認識や靖国参拝は封印を余儀なくされる。右派勢力の期待を担う稲田氏がそれをやり切れるか疑問に思ったからである。

 また安倍総理は稲田氏を自分の後継者として将来の総理候補にすることを考え、その布石を打つため日米同盟の一翼を担う防衛大臣にしたが、安全保障や外交問題を勉強したことのない人間をいきなり防衛大臣にするのはあまりにもリスクがある。

 しかも総理候補を促成栽培するための訓練場として国民の命を守る防衛大臣ポストが利用されるなら、安倍総理は国家の安全保障をまるで軽視していることになる。そこで私は安倍総理が稲田氏に徹底した「調教」を施すしかないと思った。

 その「調教」がうまくいくのか、そこに「不安」があった。稲田氏本人は経済産業大臣を希望していたようで最初から防衛大臣ポストには不満を抱いていた。しかも改造直後には稲田氏が例年靖国参拝する8月15日がやってくる。どうするのかと思っていると海外出張することになり稲田防衛大臣は靖国参拝を見送った。

 海外出張は官邸の意向であり、いよいよ「調教」が始まったと思っていると、その後の臨時国会で民進党の辻本清美議員から質問され、稲田大臣は8月15日の靖国参拝見送りと全国戦没者慰霊式典欠席に悔し涙を見せた。「調教」を素直に受け入れてはいなかったのだ。

 そして12月、ハワイ真珠湾で行われた慰霊式に安倍総理と共に出席した稲田大臣は帰国後一人で靖国参拝を行った。私は「調教」を受け入れない意思表示と見た。安倍総理の防衛大臣人事はこの時点で失敗し安倍総理の「調教」もそこで終わったと私は思った。

 それ以降に起きた「日報問題」の主役はもはや稲田大臣ではなく、官邸と防衛省の背広組と制服組との間で調整が行われ、稲田大臣は脇役を務めたに過ぎないと私は思っている。今年に入ってから防衛大臣は事実上不在であったというのが私の見方である。

 稲田防衛大臣に対する制服組の「クーデター」と言われ、私もそのような表現をしたこともあるが、正確に言えば「命がけ」で任務を果たしている制服組と隠蔽を押し付けてくる官邸や背広組との軋轢の中で稲田大臣は右往左往したということではないか。そしてその背後には一昨年の安保法制で自衛隊の任務がより危険になったという事情がある。

 安倍総理は今年の8月15日がくる前に内閣改造を行い稲田大臣を交代させるつもりでいたと思う。そのため、その前に一人だけ代えて注目されるのを避けようとしたが、それがだらだら延命させたと見られ、結果的に稲田氏本人にも安倍総理にもマイナスになった。

 つまり稲田問題は本人の資質より安倍総理自身の資質の問題なのである。それが深刻なのは安倍総理自身が全く大臣をやったことがないのに総理になった経験から、我が国の統治構造の中で促成栽培が可能であると思い込み、さらに選挙はポピュリズムで勝ちさえすれば何でもできると考えていることである。

 政治家も政治も劣化するのは「小選挙区制のせいだ。中選挙区制にしろ」と世界の政治を知らないバカ者が叫ぶのを耳にするが、世界の政治に中選挙区制はない。問題はポピュリズムで選挙に勝ちさえすれば経験がなくとも国家を統治できると思い込む権力者がいることだ。

 それが稲田人事で躓いた。我々は稲田氏の資質を問題にするより、それを任命した安倍総理の資質にこそ目を向けるべきなのである。

 蓮舫氏が民進党の代表に就任したのは稲田防衛大臣就任から1か月遅れの去年9月だった。岡田克也代表が率いる民進党が参議院選挙に敗れ、続く東京都知事選挙でも与党分裂にもかかわらず大惨敗した後を受けての代表選挙で選ばれた。しかしこの代表選挙に注目する国民はほとんどいなかったというのが私の実感である。

 誰も期待していない中での代表就任では長続きするはずがない。権力の側なら最初に期待が薄くとも政策の実績を積み重ねることで支持を高めることは出来る。しかし野党の政策は「絵に描いた餅」で国民に実感させることは出来ない。従って実績になるのは選挙結果でしかない。ところが民進党は選挙に勝とうとしない不思議な政党である。

 小沢一郎氏が率いた旧民主党が07年の参議院選挙で安倍自民党を破り、09年に鳩山由紀夫代表が政権交代を実現させたところまでは日本にも権力を奪取しようとする野党が存在した。

 ところが10年に菅直人代表が参議院選挙に敗れ、12年に野田佳彦代表が衆議院選挙に敗れて自民党政権を復活させた後は、13年参議院選挙、14年衆議院選挙、16年参議院選挙と国政選挙で負け続けている。もはや「万年野党」状態だ。

 「万年野党」とは55年体制下の旧社会党のことをいうが、権力を奪取しない旧社会党を私は野党とは認めていない。野党に必要なことは何が何でも権力を奪取して自分たちの政策を実現することである。それがなければ政治に緊張感は生まれず、政府与党に慢心が生まれ、政治の私物化が始まり、政治全体が劣化する。

 ところがこの政党は選挙敗北の総括も分析もおざなりで、代表に責任を取らせることもしない。私は昨年の参議院選挙で敗北し、続く都知事選挙で惨敗した岡田克也代表の敗因分析と国民に対する謝罪を聞いた記憶がない。

 参議院選挙では「敗北を一定程度食い止めた」という都合の良い総括だった。都知事選挙では誰も責任を取らなかった。そのうえで「これから生まれ変わる」と言って代表選挙を行っても誰も期待しないのは当たり前である。

 舛添要一前東京都知事が辞任に追い込まれた時、真っ先に候補に名前が挙がったのは蓮舫氏である。参議院東京選挙区で毎回トップ当選を果たしていたからだ。立候補すれば東京都知事になることは確実だった。小池百合子氏も立候補は断念していたはずである。

 ところが蓮舫氏は野田佳彦氏と相談して立候補を断った。国政でやりたいことがあると言い、ヒラリー・クリントンに自らを重ね合わせて「ガラスの天井を破る」と発言した。要するに「総理を目指す」というのである。

 私は「騙されたな」と思った。総理になる器ではないのに「将来の総理」と言われて都知事選立候補を断念し、民進党の代表選に立候補することにしたが、それは野田氏が党内で自分の地歩を復活させる狙いに利用されるだけだと思ったからである。

 案の定、自民党復活を許した張本人である野田氏は民進党幹事長となって大復活を遂げた。そして野田幹事長は性懲りもなく12年に無謀な解散総選挙を行って政権を自民党に譲り渡した時のボンクラぶりを再び全開にするのである。

 就任直後の10月に行われた3つの選挙で負け犬となった。10月16日に行われた新潟県知事選挙で自公が推す候補を連合新潟も推薦すると民進党は自主投票にし、共産、自由、社民などが推す反原発候補の応援を行わなかった。しかし反原発派が優勢となり、最終局面で蓮舫代表がかろうじて応援を行うという醜態をさらす。

 23日に行われた衆議院東京10区と福岡6区の補欠選挙では2つとも民進党候補は惨敗した。その裏側では自民党の二階幹事長が東京10区では小池都知事と手を握り、また福岡6区の分裂選挙でも勝った候補を公認する形にして、とにかく勝ちにこだわったのに対し、野田幹事長も蓮舫代表も勝つ気がまるで見えなかった。

 これでは何のための新体制か分からない。代表選挙で「生まれ変わる」と言ったことがまるで果たされていない。そして新潟では共産党と自由党と社民党が市民を巻き込んで知事選に勝利する新しい流れを作ったのに民進党は見ているだけだった。この時私は「民進党がある限り政権交代は二度と起きない」と題するブログを書いた。

 従ってその後の民進党には関心が向かわない。なぜいつまでも蓮舫―野田体制が続いているのか不思議なだけだった。それには民進党の国会議員や地方議員だけでなく党員・サポーターの責任もあると思う。なにせ代表選挙で選ばれる代表が菅直人氏以来選挙に負け続けているからだ。

 とりわけ驚いたのは10年に参議院選挙に敗れて「ねじれ」を作った菅直人氏を代表選挙で再選させた時である。私の知る限り参議院選挙に敗れた総理が辞めなかったのは歴史上第一次政権の安倍晋三氏と菅直人氏の二人しかいない。あとはみな即日辞任を表明した。

 続投を表明した安倍晋三氏の場合、辞めなかったために代表選挙は行われず、しかし1か月半後にはぶざまな退陣に追い込まれた。世間では体調を崩したと思われているが私は見方が違う。当時の二階国対委員長が8月に国会を開会させなかったことが安倍総理を退陣に追い込んだ。

 自民党には一言も「辞めろ」とは言わずに総理を「辞めさせる」政治のテクニックがある。それに引き換え、参議院で敗れた菅総理に対し旧民主党は代表選挙を行い、菅氏が小沢一郎氏を破って代表に再選され、総理の続投を正式に認めた。私には旧民主党員が政治の責任を知らず、また「ねじれ」で早晩辞めざるを得ない総理を続投させる不思議な集団に思えた。

 その後、3・11が起きたため菅政権は予想より長続きすることになるが、それが果たして日本にとって良かったのか、民主党員・サポーターは自身の胸に手を当てて考えるべきである。

 民主政治は自分が正しいと思うことを実現するためだけにあるのではない。様々な考えの人間がいる中でなるべく中心から外れぬよう政治を運営していくことである。そのためには権力を時々交代させてバランスを取ることがどうしても必要だ。

 現在の安倍政権が一方に寄り過ぎていると思えば、それを変える政策の中身がどうであるかより、変える動きをどう起こすのかが野党の仕事である。それがないと日本の政治は深刻なことになる。

 稲田氏も蓮舫氏も舌鋒鋭く相手を批判することだけで人気を得てきたが、それだけで政治が出来る訳ではないし、いわんや総理になれるわけでもない。この二人の辞任で国民がそのことに気づき、同時に二人にやらせた側の問題に目が向けばまだ救いがあると私は思う。

ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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