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亡くなった赤ちゃんの撮影依頼はタブーか?そのテーマの先に見えた、残された側がどう生きていくかの問題

水上賢治映画ライター
「初仕事」より 主演も兼ねている小山駿助監督

 写真館でアシスタントをする、まだ駆け出しのカメラマンが、初めて撮影の仕事を任される。

 それは、赤ん坊の遺体撮影だった、という、ちょっとドキッとするところから物語がスタートするのが映画「初仕事」だ。

 ただ、こういう題材を興味本位に取り上げた作品では決してない。

 避けることのできない死と、真摯に向き合った作品になっている。

 なぜ、遺体撮影という行為を題材にし、そこでなにを描こうとしたのか?監督・脚本・主演を務めた小山駿助に訊く。(全五回)

『やはりそういう話が出てきたか』と正直思いました

 本作は、<東京国際映画祭2020>に正式出品され、<第21回TAMA NEW WAVE>ではグランプリと主人公の山下を演じた澤田栄一が主演男優賞を受賞した。

 その際には、Q&Aなどあったと思うが、印象に残った反応はあっただろうか?

「ある上映後のトークで、南米に住んでいた方が感想を寄せてくださったことがありました。

 このお話が印象に残っています。

 その方は第一声で『おもしろかったです』と言ってくださったんですけど、こう話を続けられたんです。『ところでわたしは南米に住んでいたことがあるのですが、そこでは死体の顔を映すことはそこまで特別なことではありませんでした。日本ではダメなことなのでしょうか?』と。

 このときは、『やはりそういう話が出てきたか』と正直思いました。

 ただ、文化圏によってはたいしたことではないという地域も当然あるだろうとも思っていたんですね。

 そういった行為をタブー視しない地域を具体的に調べたこともあるんですけど、制作時は私自身がどう感じるかを正直に出すことの方が大事だと考えたので、そこまで気にしませんでした。

 ですが、いざ実際にそのご質問をきいた時、とても間が抜けたドラマに見えてしまったのではないかと心配したんですね。観る側がまったくタブー視しないとなると、『この人たちは何をそんなに思い悩んでいるんだろう』ということになると思っていました。

 ですから、この話をきいたときは、『そうですよね、国によっては普通のことですよね』といった感じで、ちょっと記憶が確かではないのですが、現代の日本ではあまり受け入れられない行動だと思うとお答えしたと思います。

 今思うと、その方のお話の姿勢は丁寧で、離れた文化に対する率直な興味や関心から発せられたご質問だったのだと思います。少なくとも作品を受け入れられないという硬直した態度ではなかった。

 自分自身、西部劇やインド映画など、離れた文化圏の作品を見るのが好きなのにもかかわらず、自分の文化圏のことを話すということに対して少し勇気がいったのは事実です。内容が内容ですし。

 ですが、海外の方に、『自分達があまり意識しない感覚を知りたい』という方がいらっしゃることもまた事実です。

 そう考えると、東アジアの日本という国で育った自分達の感覚も、世界の中で固有のものとして当然あるので、その感覚で正直に作られたものはあっていいのだと思えました。

『こういうことを描いたらまずいんじゃないか』という意識が僕の中にはあったわけですけど、描いて問題ないという補強材料をひとつもらった気分でした」

「初仕事」より
「初仕事」より

わたしの青春が丸々とつまった作品に幸か不幸かなってしまった

 最初に作品作りを始めてから8年後に完成、それからさらに2年を経て公開を迎えた。このことをどう受けとめているのだろうか?

「ここまでかかってしまったのは作り手としては誇れたことではない。なので、あまり表立って『これだけかかって作りました』とは正直言いたくないです。

 ただ、ある意味、わたしの青春が丸々とつまった作品に幸か不幸かなってしまったんですよね。

 もちろんずっと映画のことだけをやってこうなっているというわけではないのですが、僕という1人の人間の20代から30代までを注いだ作品になりました。

 わたくし事になってしまいますけど、自分の成長がみえる気がします(笑)。

 ですけど、みなさんにはそういうこと関係なく観ていただければなと思っています。難しいことは何も考えずに、ただ画面を見ていれば良い作品だと思っています」

大事なのは、残された側がこれから先、どう生きていくか

 今回、遺体撮影というひとつのテーマに臨んでいま、こんなことを考えているという。

「遺体の撮影ということをテーマに置いたわけですけど、その中で主軸として浮かび上がってきたのは『死の周辺』について、だった気がします。

 死をテーマにした映画というのはそれこそ数えきれないほどあります。たとえば大切な人を亡くした人の悲しみや喪失、故人に何もしてあげられなかった後悔などは、映画やドラマでよく描かれる。

 『喪失』が消費されることは、人生の一大事ですからある意味で真っ当だと思いますし、その消費も昔から行われてきたことです。

 それはそれでいいと思うんですけど、僕自身は『初仕事』を作って『死』ということと向き合ってみて、むしろ自分なりの『死の周辺』や『その先』を描きたいと思いました。

 遺された人がその先、どういう人生を歩むのか。

 大事なのは、残された側がこれから先、どう生きていくかで。

 そちらの方に目を向けたいと思いましたね。亡くなった方と全く同じくらい、残された側も大事な人生であることは確かなので。

 そして、『その先』を描いた作品も、実はいっぱいあるんですよね。その中でも例えばですが、大切な人を亡くした、だから優しくなれたというような、非常に大雑把な『喪失』の捉え方は、ちょっと省略され過ぎている。

 優しくなれたという人もいれば、ダークサイドに陥るといいますか、負の感情を周囲に撒き散らす人もいて、それに困る人も、それを無視する人も、さまざまな反応がある。

 自分がこれからどういう映画を作るかはわからないですけど、遺された者のその先を、もっと具体的な、今までのフィクションらしさを更新するような、具体的な状態が映された作品があってもいいんじゃないかと感じました。その方が、アニメートされた、より生き生きした人間が映せるような気がします」

【小山駿助「初仕事」インタビュー第一回はこちら】

【小山駿助「初仕事」インタビュー第二回はこちら】

【小山駿助「初仕事」インタビュー第三回はこちら】

【小山駿助「初仕事」インタビュー第四回はこちら】

「初仕事」ポスタービジュアルより
「初仕事」ポスタービジュアルより

「初仕事」

監督・出演・脚本・絵コンテ・編集:小山駿助

出演:澤田栄一 小山駿助

橋口勇輝 武田知久 白石花子 竹田邦彦 細山萌子 中村安那

撮影:高階匠 照明:迫田遼亮 録音:澤田栄一 

メイク:細山萌子 衣装:細山貴之 美術:田幸翔

音楽:中村太紀 助監督:田幸翔/逵 真平

プロデューサー:田幸翔 角田智之 細山萌子

新文芸坐にて10月27日(木)20:00~レイトショー

※上映後舞台挨拶あり

【登壇者】小山駿助監督、澤田栄一、橋口勇輝、武田和久、白石花子

写真はすべて(C)2020水ポン

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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