Yahoo!ニュース

「新・ガザからの報告」 (5)(24年6月18日)

土井敏邦ジャーナリスト
(壊滅状態の町/撮影・ガザ住民)

【「イスラエル人人質4人の解放」の現場】

(Q・この1週間で何が起こりましたか?)

 先週、イスラエルの特殊部隊がどうやって4人の人質を解放したかを話しましたが、2日前に現場へ行きました。破壊はひどいものでした。周囲は完全に破壊されていて、多くの遺体がまだ瓦礫から引き出されていません。現場のビデオを撮ろうとしたが、ハマス諜報機関のスタッフがあちこちにいました。だからビデオ撮影はできませんでした。ヌセイラート難民キャンプのマーケットの中心部分です。

 イスラエル軍がどのようにヌセイラート難民キャンプを攻撃したのか、詳しい情報を得ることができました。

 イスラエル軍はアラビア語を話すベドィンやドゥルーズの兵士のグループを現場に送りました。兵士たちは平服姿でした。彼らのある者はマーケットで映画を撮影しているふうをした。またある者はジャムや砂糖の物売りをしていました。数週間、そのようにして様子をうかがっていたのです。

 またイスラエル軍はこの作戦中にたくさんのハマスのメンバーを拘束しました。もちろんハマスは発表しないが、目撃者が証言してくれました。彼らをイスラエル内に連行し、尋問したと思われます。イスラエルの情報機関にとってとても重要な情報源です。それらの情報によってさらにイスラエル人人質の居場所を突き止めるでしょう。

【滞る食料搬入】

 昨日、ガザとイスラエルとの国境、ケロムシャローム検問所が開放され、極少数の支援物資のトラックがガザに入ってきました。調理用のガスや食料、小麦粉、UNRWA(国際パレスチナ難民救済事業機関)の配給物資などです。イスラエル軍はそのトラックを防衛するPC(人民委員会)のメンバーを攻撃し、10人が殺され、負傷者も出ました。

トラックごとに3~5人のカラシニコフ銃を持ってガードが付きます。トラックを襲う住民からトラックを守るためにです。トラックが道路を走っているのを見ると、住民がそのトラックを襲い、食料を奪おうとします。食料が不足しているからです。住民からこの収奪を防ぐために、ハマスはその支持者に、そのガードを依頼しています。昨日、イスラエル軍がそのガードを攻撃したのです。

(Q・なぜですか?イスラエル軍はそのPCハマスの戦闘員だと判断したから?)

 そうです。それが第1の理由です。他の理由は、そうすることで、ガザ内部の内戦を刺激しようとしているのかもしれません。イスラエルとハマスの戦闘の他に、ガザ内部のパレスチナ人同士の内戦でたくさんの人が殺され負傷しています。ファミリーとハマス間の争い、空家を盗んで回っている窃盗団との間の衝突も毎日起こっています。イスラエル軍の銃によってではなく、パレスチナ人同士の銃撃です。

(Q・毎日の生活、食料や水はどんな状態ですか?)

 状況はとてもひどいです。食料がないから人びとの栄養状態は劣悪です。今は「飢餓」とは言えなくても、この状態が飢饉、ほんとうの飢餓状態に繋がっていくと思います。

 ガザの大半の住民はテントや避難所で暮らしています。24時間にほとんど1食です。それは身体のエネルギーのためには十分ではありません。

 ケロムシャローム検問所が昨日開かれましたが、入ってきたトラックはとても少ない数です。

 毎日、パラシュートで食料が空から投下されています。しかしそれは住民の助けにあまりなっていません。食料が投下されると、それが着地する場所に住民が走り寄ります。しかしそれが全部住民に渡るのではありません。現地に何百人というハマス戦闘員がいます。彼らも毎日の食料が必要です。

 住民はイスラエル軍の銃によってだけでなく、窃盗団やファミリー、ハマスの銃撃によってたくさん死んでいます。そのパラシュートの食料を確保するためにです。だから空からの食料投下は問題を起こして、社会の頭痛になっています。住民のほんとうの支援になってはいません。ただ問題を起こし、パレスチナ人の間の衝突を招き、多くの人が殺されたり負傷したりしています。

 またアメリカによる海からの食料搬入もありますが、これはとてもまずいやり方です。多くの場合、天候不良、強風などで船荷の移送ができない。また機械、設備が故障し機能しない場合もある。だからこの手段もあまり生産的ではありません。

(Q・トラックの荷物は誰が管理しているのですか?)

 2つあります。1つは国際機関です。UNRWA(国際パレスチナ難民救済事業機関)やアメリカの慈善組織など国際機関。もう1つは商人でし。2ヵ月前にイスラエルはガザに商品を輸入することを許可しました。ガザの商人が中国の工場に注文し、それをガザに輸送することを依頼します。それをアシュドットを経由して受け取ることができます。2ヵ月前から物資を輸入できるようになりました。ガザのマーケットで売るために輸入しているのです。ただ商人たちは、大半をヨルダン川西岸から輸入しています。輸送費用が安くあがり、しかも早く手に入るからです。注文してから2~3日後には手に入ということです。

 だからガザに入る物資は、1つは国際機関によって、もう1つは商人によって入ってきています。

 (Q・ラファからトラックは入ってきていますか?)

 全く閉鎖されています。イスラエル軍はフィラデルフィア回廊(エジプトとラファとの国境沿いの帯状の地帯)を完全に封鎖しています。ケロムシャロームから地中海まで、すべてが閉鎖されています。軍事地区に指定されていて、誰も近づけません。だからエジプトからはまったく入ってきません。

(Q・エジプトとラファの間の地下トンネルはどうなっていますか?)

 イスラエル軍はそれを捜すために地下を深く掘っています。実際、たくさんのトンネルが発見されています。それをイスラエル軍が破壊します。たくさんのトンネルが破壊されました。とりわけラファ東部の地域です。軍事的なトンネルからはたくさんの武器が発見されています。他は食料などを運ぶ商業用のトンネルです。

(Q・ハマスの銃弾の不足はそのためですか?)

 そうです。トンネルはたくさんの食料、燃料なども運んでいました。しかしそれらは検問所からも入ってきます。しかしフィラディルフィア回廊のすべてをイスラエル軍が支配し、それがストップしてしまいました。今は厳重な軍事閉鎖地区になっています。

 一方、イスラエル軍はパレスチナ側のラファ検問所のすべての建物を焼き破壊しました。パレスチナ側のラファ検問所すべてです。

(食料の配給/撮影・ガザ住民)
(食料の配給/撮影・ガザ住民)

【停戦案を拒否するハマス指導者への怒り】

(Q・人びとの生活はどうですか?精神的な状態は?)

 状況は同じです。人びとはハマスにとても怒っています。停戦を受け入れないからです。バイデン大統領の停戦案は、交渉においてハマスの指導者ハニーヤたちによって拒絶されました。それに住民はとても怒っています。その拒絶にとても怒っているのです。とりわけテントで暮らしている人たちです。テントの中の高温に苦しんでいて、今のままテントに留まることが困難になっています。子どもたちは1日に1食しか食べられない。もしそれがまだ存在するなら、彼らは家に戻りたがっています。解決を求めています。人びとはハニーヤが停戦案を受け入れると期待しました。しかしハニーヤがこれを拒否したと知ったとき、彼をひどい言葉でハマスの指導者たちを罵り攻撃しました。外の指導者たちは贅沢なホテル暮らしをしています。私たちの惨めな生活、苦難を彼らはまったく感じていません。我われはテントの中の燃えるような場所で暮らし、期限切れの缶詰を食べ、乾燥した食べ物を食べている。ここで飢えています。人びとは金切り声を上げて叫んでいるのです。しかし外の指導者たちはエアコンがある美しい住居で暮らしている。贅沢な食べ物を食べている。ハニーヤたちはいい生活を送っている一方、私たちは死にかけています。彼はそれを気にもかけないのです。

(Q・人びとはハニーヤではなく、拒絶した責任者であるシンワールを非難しているという情報がありますが?)

 人びとは双方を50を超える国、世界全体のハマスの政治指導者です。

 人びとはハニーヤとシンワールの両方を非難しています。ハニーヤはとりわけメディアに、「我われはアメリカ案を受け入れない。イスラエルがこの戦争を全面的に停戦するという保証が必要だ」と言っています。この停戦のあと、戦争が続くことを望まないというのです。つまり「一時的な停戦は受け入れない、この戦争が完全に停戦になることを求める」と。

 またシンワールも地下トンネルからアメリカの提案に対するコメントの声明を出し、「我われはイスラエルに降伏しない。最後まで戦う。勝利を手にするまで。この戦争はパレスチナ解放の最初となる。人びとも挑戦を続ける。我われはガザに新たなカルバラ(シーア派の宗教的な都市)を創る」と言いました。ムハマドの孫フセインはシーア派のシンボルで、この町で殺されました。シーア派はフセインをヒーロー、殉教者とみなしています。カルバラはそのシンボルとなっています。シンワールは「ガザがもう1つのカルバラになるまで闘う」と宣言したのです。

(Q・この声明が出されたのはいつですか?)

 私たちは「イード・アル・アドハー」(イスラム教の「犠牲祭」)に入りました。羊や牛をいけにえに捧げる日です。この日にシンワールがスピーチをしました。第一にアメリカ提案への回答、第二はパレスチナ人民衆へのスピーチです。

(Q・シンワールは「民衆の犠牲は必要なものだ」という声明を出したが、人びとの反応はどうですか?)

 人びとはとても怒っています。そして彼を罵り、激しく攻撃しました。

【泣き叫ぶ子ども】

(Q・あなたのいる地域は安全ですか?)

 私たちはデイルバラ町の東部で暮らしています。イスラエルとのボーダーに近い。私たちの頭痛の種はイスラエル軍の火砲です。とてもうるさくて、苦痛です。2週間前に私たちの家が砲撃されました。家の屋根が砲弾に破壊され、窓がいくつも割れ、家具の一部も壊れました。しかし幸い、家族の誰もけが人はいませんでした。

(Q・あなたの両親や子どもたちの健康状態は?)

 身体はいい状態です。しかし精神状態はとてもひどいです。私たちの子どもたちはとても神経質になり、眠っている間に叫びます。悪夢を見ているのでしょう。夜尿もコントロールできない状態です。周辺で聞こえるイスラエル軍の砲撃音にいつも泣いて叫んでいます。この戦争が終われば、子どもたちはセラピーを受けるために精神科の医者にかかるべきだと考えています。(続く)

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

土井敏邦の最近の記事