千原ジュニアがカッコいいと思う男とは?『新・ミナミの帝王』で13年目の主役。「芸人なので一発本番で」
千原ジュニアが主演する『新・ミナミの帝王』シリーズの新作が、25日に放送される。原作は31年前から連載中の人気マンガで、このドラマも2010年に始まり22作目。主人公の鬼と恐れられる金貸し・萬田銀次郎は、知的で山場では凄みを利かせるのがカッコいい、千原のハマり役だ。お笑いに軸を置きつつ、ライフワークの様相のこの作品や俳優の仕事には、どんな想いで取り組んでいるのか?
無人島で船を作って「どこまで行けるか」という感覚
――千原さんの演技は、1998年に公開された主演映画『ポルノスター』のやくざを刺し殺していく役から衝撃的でした。ご自分でも早くから、俳優業にも興味はあったんですか?
千原 この世界に入った頃に、自分でやりたいとは思ってなかったです。『ポルノスター』の監督の豊田(利晃)が10代からの友だちで、あれが彼のデビュー作で、「お前で映画を撮る」と声を掛けられて始まりました。引き込まれていった感じですね。
――自分で映画やドラマを観てはいたんですか?
千原 人並みには観ていました。今も映画は月に何本かは観ています。最近だと『イニシェリン島の精霊』が面白かった。あと、『エゴイスト』の鈴木亮平さんの演技は凄かったですね。
――ご自身の俳優業では、どこかの時点で意欲が高まったりはしましたか?
千原 最初に映画をやらせてもらったときから、「面白い世界やな」と思いました。無人島で木を切って船を作って、「さあ、これが浮かぶのか? どこまで行けるのか?」みたいなことをやっている感覚で。
――演じること自体にも面白みは感じましたか?
千原 面白いですね。僕らはコントを作ってきて、全然別ものではありますけど、大きな意味では演じるということで通じる部分もありました。落語でも、いわば1人何役もやるわけですから。
テストを重ねると面白くなくなると言われて
――これまで、難しいと感じた役はありませんでした?
千原 僕はリズム感がないので、標準語の役は非常に難しいですね。大阪出身でもスッと標準語をしゃべれる人とそうでない人がいて、僕は完全に後者。台詞が標準語だから断ったことも何回かありますし、「どうしても」と言われて出ると、かなり苦労しました。
――言葉を別にすれば、演じ方に悩んだことはないですか?
千原 それは今のところ、ないですね。
――千原さんは映画『ごっこ』やドラマ『トレース~科捜研の男~』など、狂気や闇を秘めた役の印象が強くて。ご自分でも得意な感覚はありますか?
千原 いや、得意でもないですけど、そういう役に合う残念な顔面で生まれてきたなと思います(笑)。
――でも、あの迫力やゾッとする雰囲気は、練習して出せるものではないですよね?
千原 お笑いの舞台から出てきたので、一発本番みたいなことしかやってこなかったんです。逆に、テストを重ねて練習するのは非常に不得意。芸人の世界では「毎回違うことをやれ」と教わってきたので、真逆なんです。
――なるほど。
千原 『HYSTERIC』の瀬々(敬久)監督には、それを瞬時に察知されました。「役者さんはテストを重ねるごとに上手になっていくのに、キミはどんどん面白くなくなっていく」と(笑)。それで、ほぼ全部ぶっつけ本番で撮っていました。
腹が立つことはなくなりました
――結果的に『HYSTERIC』では、日本映画プロフェッショナル大賞の主演男優賞を受賞しました。いつも役作り的なことはしない感じですか?
千原 いちおう役のそれまでのバックボーンとか、こういうときはこうするやろなとか考えて立ちますけど、基本は現場でやるだけですね。
――13年目になる『新・ミナミの帝王』の萬田銀次郎役ならなおさら、もはや準備は要りませんか?
千原 準備は別にしません。ただ、ひとつの役を13年もやらせてもらえることは、俳優さんでもなかなかないでしょうから。それをイチ芸人がやらせていただけているので、大事にしていきたい想いはあります。
――毎回、切り取りで銀次郎がドスを効かせて、怒りをぶつけるのが見せ場になっています。千原さん自身が普段、急に爆発するようなことはないですか?
千原 もうまったくなくなりました。昔は「何でそんなに腹立っていたんや?」と思うくらいでしたけど、今は本当にないですね。
――銀次郎のそういうシーンでは、ジャックナイフと呼ばれていた頃の名残りも出ていたり?
千原 自分の中にまったくないものは出せないでしょうから、そういうところはあると思います。
インテリジェンスでやりましょうと
――萬田銀次郎はどんなことを軸に演じていらっしゃいますか?
千原 僕も原作を小さい頃から読んでましたけど、このドラマを始める前には、竹内力さんの映画の骨太なイメージがすごくあって。それとはまったく違う、原作に近い感じの今ドキでインテリジェンスのある萬田銀次郎でやりましょう、となりました。僕自身、『ドラえもん』の声が変わっただけで違和感があるのに(笑)、銀次郎が姿・形から全然違ったら、受け付けない人もいるだろうなと思っていました。いまだにそういう声をたまに聞きますけど、こっちにしたら知ったこっちゃない(笑)。でも、10年以上やらせてもらって、逆に昔のシリーズを知らない若い人たちもそろそろ出てくるかもしれませんし、さらに続けばいいなと期待しています。
――知的な銀次郎を演じるための試行錯誤はありましたか?
千原 ないですね。最初に萬田銀次郎を千原ジュニアがやるのか、やらないのかが大きかっただけ。賛否の否が多くなるのもわかっていました。でも、僕が断ったら誰か違う人がやるんだろうし、それをテレビで観るくらいなら、自分がやったほうがええかと受けました。あとはどうやるか決まっていたので、何の試行錯誤もないです。
――毎回このドラマの撮影に入ると、日常でもちょっと銀次郎モードに入ったりはしませんか?
千原 自分自身では何も感じていません。でも、会った人に「疲れていますね」と言われました(笑)。普段のスケジュールに、これが加わって入ってくるので。
一番高い沸点まで自然に持っていけて
――今までの『新・ミナミの帝王』シリーズで、特にお気に入りの作品はありますか?
千原 お気に入りというか、一番緊張したのは板尾(創路)さんが出られた劇場版ですね。15歳で吉本に入ったとき、いつも板尾さんの後ろを付いていたので。師匠が職場を見に来た感じで、すごく照れもあり、緊張もしました。でも、15歳のときに板尾さんの後を歩いていた道頓堀に、萬田銀次郎として立つのは感慨深いものがありました。
――印象深いシーンというと、どうでしょう?
千原 それでいうと、1作目で道頓堀を歩いたときに、「さあ、始まった」と感じたのはよく覚えています。
――覚せい剤がテーマだった19作目のクライマックスで、証拠をでっち上げていた麻薬捜査官に、長台詞で「1人の人間の人生を何やと思ってるのか! ミナミを荒らすようなことがあったら地獄を見せたるわ」と凄むシーンは強烈でした。
千原 あれも覚えています。スタッフさんがいろいろスケジューリングをしてくれて、ほぼ順撮りになって。自然とあそこに一番高い沸点を持っていけました。
仕上がった作品を観るまでが仕事
――完成した作品は自分でもじっくり観るんですか?
千原 もちろん観させてもらいます。昔は照れくさかったこともありましたけど、今は作品として仕上がるのが楽しみです。編集がわかってない部分がたくさんあって。ここに曲を入れるのか、ここはハイスピードでいくのか……とか、いろいろ観るまでが仕事という感じがします。今はまたありがたいことに、オンエアは関西ローカルでも、いろいろなツールで観られますからね。
――配信もあって。
千原 昔の作品も観られて、放送しっぱなしではなく、作品として残っていく。「昔のを観たよ」と結構言われますから。その分、より丁寧に慎重に向き合わなあかんなと思いながら、やっています。
――自分で観ても満足のいく仕上がりになっていますか?
千原 自分に関してはそんなことないです。反省点はいろいろありますけど、周りを固める俳優さんたちが毎回素晴らしくて、何とか助けていただいている感じです。
ドラマが現実の事件の先を行くこともあって
――22作目の『新・ミナミの帝王 銀次郎の新たな敵は神様!?』の脚本には、どんな印象がありました?
千原 ここ1~2年に社会で起きているニュースが凝縮されている感じがしました。宗教団体のことはなかなか難しいところですけど、よく踏み込んで、しっかり書かれたなと。
――そうした社会問題について、千原さん自身も思うところがあって?
千原 たとえば国際ロマンス詐欺なんて「何で引っ掛かるの?」とクエスチョンが浮かんでいましたけど、他の番組で実際に被害に遭われた方と話したら、向こうは緻密で巧妙。その人に特化したやり方で近づいてきて、結果騙されてしまう。一概に「なぜ?」とは言えない。こういう事件があると、皆さん「まさか私が」とおっしゃるのは、そういうことなんやと感じました。
――このシリーズに出演されていると、世間のニュースに敏感になる面もありますか?
千原 ドラマのほうが先を行って、撮影中に同じような事件が起きたこともありました。たとえば(18作のテーマの)バイトテロなんて、本当に表に出ただけの話なのかなと、いまだに思ったりもします。ちょけた高校生が動画を回してアップしただけなのか。他の企業が人を送り込んで動画を集めたら、株でなんぼでもやりようがあるし。一方の側面でしか報道されてないから、逆側の目線はどうやねんとか、やっぱり考えますね。
いつも真っ赤に燃えていたのが今回は青い火に
――今回はホームレスが宗教団体の教祖となる話で、銀次郎はワケありな中学生とも関わります。
千原 萬田銀次郎としては今回は薄味ですね。クライマックスに向けて高まっていくのはいつものセオリーですけど、銀次郎よりは舎弟の竜一(大東駿介)のほうが前に出ていて。今までは真っ赤に燃えるところまで向かっていく感覚だったのが、今回はそういう場面がなく、青い火のような感じがします。こういうのもいいなと思いながら、撮っていました。
――先ほど出たように、このシリーズの銀次郎は知的で、キメるところは凄みがあって、何だかんだと人情味もある。観ていてカッコいいキャラクターですが、千原さん自身の美学が反映されている面もありますか?
千原 どうですかね。竹内さんがやられていた萬田銀次郎とはビジュアルから何から全然違っていて、僕にはあんな厚みも深みもない。それなら知的な部分で線の細さをカバーするしかないと、やり始めました。僕自身、体育会系というより、かなりの文化系で、そういう意味では、自分を反映させているかもしれませんね。
ひとつのことを突き詰める人はカッコいい
――千原さん自身がカッコいいと思っている人はいますか? 実在の人物でも、マンガや映画のキャラクターでも。
千原 ひとつのことを突き詰めている人は、どんな職業でもカッコいいなと思います。お笑いでも、料理人、大工さん、農家の方でもそうやし。萬田銀次郎も金というものを突き詰めている、ということで作っているキャラクターです。
――千原さんはボクシング好きでらっしゃいますが、ボクサーでもそういう人はいますか?
千原 ボクシングのことだけを考えて生きているボクサーは、やっぱり見ていてカッコいいですね。今、期待しているのは重岡兄弟。本当に突き詰めていて、今度2人揃って世界戦に挑みますけど、頑張ってもらいたいなと思っています。
――では最後に、『新・ミナミの帝王』で萬田銀次郎を13年にわたって演じ続けていることで、千原さんに人生レベルの影響はありますか?
千原 郷(力也)先生が命を懸けて原作マンガを描かれていて、ファンの方もめちゃくちゃおられる。その主人公ですから本当に丁寧に、失礼のないように演じていこうと。でも、自分なりに自由にやらせてもらってもいます。まさか10数年も続くとは思っていませんでしたけど、せっかく演じさせてもらっているからには、ここからさらに盛り上げるくらいでいけたらなと思います。
Profile
千原ジュニア(ちはら・じゅにあ)
1974年3月30日生まれ、大阪府出身。
1989年に兄の千原せいじとお笑いコンビ・千原兄弟を結成。1994年に「ABCお笑い新人グランプリ」優秀新人賞、「上方漫才大賞」新人賞を受賞。俳優としての主な出演作は、ドラマ『深く潜れ~八犬伝2001~』、『ぼくの妹』、『新・ミナミの帝王』シリーズ、『トレース~科捜研の男~』、映画『ポルノスター』、『HYSTERIC』、『ごっこ』など。ドラマ『新・ミナミの帝王 銀次郎の新たな敵は神様!?』(カンテレ)が3月25日に放送。『にけつっ!!』(読売テレビ・日本テレビ系)、『千原ジュニアのヘベレケ』(東海テレビ)、『千原ジュニアの座王』(カンテレ)、『ゴゴスマ』(CBC・TBS系)などに出演中。
『新・ミナミの帝王 銀次郎の新たな敵は神様!?』
3月25日(土)14:57~17:00/カンテレ(関西ローカル)
TVer、カンテレドーガで見逃し配信予定
出演/千原ジュニア、大東駿介、赤井英和、若月佑美、塩野瑛久、夙川アトムほか