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パンダにわく韓国、パンダが泣く北朝鮮…中国からの友好のシンボル、どこに?

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
「福宝」と命名された韓国のパンダ=2020年11月4日(写真:ロイター/アフロ)

 その昔、中国から北朝鮮に、友好のシンボルとして3度にわたってパンダが贈られたことが確認されている。北朝鮮で「中朝友好」に関する行事があれば、ステージに着ぐるみが登場したりすることはあるが、“本物”に関する情報は長らく途絶えている。双子のパンダ誕生でわく韓国とは対照的に、北朝鮮はパンダに関してトーンダウンを続けている。

◇北朝鮮に計5頭

 中国は外交の重要な局面でパンダを贈る「パンダ外交」を展開している。北朝鮮にも、毛沢東(Mao Zedong、1893~1976)時代の1965年以後、数回にわたり、2国間関係の重要性を強調するようにパンダを贈っている。

 中国四川省地方志工作弁公室の「巴蜀史志」によると、中国は1965年6月に「一号(Yihao)」と「二号(Erhao)」、1971年6月に「凌凌(Lingling)」と「三星(Sanxing)」を、それぞれ北朝鮮に贈っている。「一号」「二号」「凌凌」が1972年10月までに相次いで病死すると、北朝鮮側は「三星」とペアになる雄のパンダの贈与を要請し、中国側は1979年3月に「丹丹(Dangdang)」を贈っている。

 ただ、その後のパンダの消息がはっきりしない。中国から贈られたパンダが子孫を残したのかも情報がない。

 北朝鮮情報サイト「NKニュース」によると、朝鮮労働党機関紙・労働新聞が先代の金正日(キム・ジョンイル)総書記時代の2009年、「広々とした、良くデザインされた遊び場では、わが国のヒグマやジャイアントパンダを含む、さまざまな種類のクマが茶目っ気たっぷりに集まり、前足を上げながら、投げられた餌を取っている」と伝えていたという。だが情報に具体性はない。

 金正恩(キム・ジョンウン)氏が最高指導者になった直後の2012年5月27日、国営朝鮮中央通信は、金正恩氏(当時は朝鮮労働党第1書記)が平壌の中央動物園を視察したと伝えた。その際、金正恩氏は「動物の種類を増やさなければならない」「キリンやシマウマのような他国の動物や、世界的に珍しい動物をさらに入れるべきだ」「動物園の入り口に同動物園を象徴する本館を新たに建設し、観覧者の利便性を保ちつつ、動物の特性に合うよう、すべての動物舎を現代的に整えるべきだ」と指示している。ここにはパンダに関する言及はない。

朝鮮中央テレビ「動物百科事典」で取り上げられたパンダ(同テレビ画面キャプチャー)
朝鮮中央テレビ「動物百科事典」で取り上げられたパンダ(同テレビ画面キャプチャー)

 また、国営朝鮮中央テレビは2022年10月30日放送の「動物百科事典」で「パンダ」(北朝鮮では「チャムデゴム」)を取り上げ、「1日に12~16時間も食事をする」「その量は15~30kgに達する」「子どもは1~4頭生まれる」「寿命は最高30年」などと紹介している。だが、国内の飼育実績などは触れられていない。

 NKニュースによると、北朝鮮を繰り返し訪問している写真家で研究者のアラム・パン(Aram Pan)氏は「平壌の動物園でパンダを見たことがない」と語っている。2016年に撮影した動物園の地図には、パンダに関する記述はなかったそうだ。

 ヤング・パイオニア・ツアーズのツアー・マネージャーとして平壌に住んでいたマット・クレッサ(Matt Kulesza)氏は、2016~17年に何度か動物園を訪れたが、パンダは見たことがない、と語っている。

◇高い飼育費用とレンタル料

 そもそもパンダの飼育には非常に高い費用がかかる。NKニュースによると、動物園はパンダのために特別な生息地を作り、綿密な調査や健康状態のチェック、繁殖の手助けができる専門家チームを必要とする。パンダは草食動物で、食事は収穫されたばかりの竹に限られる。また、中国側はパンダの受け入れ側に、高いレンタル料を課している。

 高いコストと偏食のため、パンダを飼うのが難しいと考える動物園もある。

 英国のエジンバラ動物園は今年1月、長年飼育してきたパンダ2頭を10月にも中国に返還すると発表している。人民網は2021年1月5日の段階で、現地報道を引用する形で「新型コロナウイルス感染拡大による財政的プレッシャーから、英国はパンダの中国返還を検討している」と伝えていた。

 韓国もかつてコスト高により、パンダの飼育を断念したことがある。

 現在の「エバーランド」の前身である「龍仁(ヨンイン)自然農園」が1994年、10年間飼育を目標にパンダのつがいを受け入れた。だが、1997年のアジア通貨危機により、レンタル料や維持費が支払えなくなり、1998年には飼育をあきらめ、中国に返還したという経緯がある。

 それから時代が変わり、韓国は今、パンダにわいている。

訪韓中にソウル大学で講演する習近平・中国国家主席=2014年7月4日
訪韓中にソウル大学で講演する習近平・中国国家主席=2014年7月4日写真:ロイター/アフロ

 2014年に中国の習近平(Xi Jinping)国家主席が訪韓したのを契機に、「エバーランド」に楽宝(Lebao)と愛宝(Aibao)が贈られた。2020年7月20日、自然分娩でその子どもの「福宝(fubao)」が生まれ、先月7日には、その妹となる双子姉妹のパンダが誕生し、国内の人気者になっている。

 北朝鮮に贈られたパンダは果たして子孫を残したのだろうか。北朝鮮の国内事情を総合的に判断すれば、北朝鮮は既に「パンダのいない国」になってしまったと考えるのが妥当だろう。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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