全国学力テストは税金のムダ遣いになっている
今年も4月16日に全国学力テスト(全国学力・学習状況調査等)の実施が予定されている。国・公・私立学校の小学6年生と中学3年生の全児童・生徒を対象にして、国語と算数・数学の2科目で行われることになっている。
その全国学力テストが「教育基本法に違反している」という高橋哲・埼玉大学教育学部准教授の主張は前回の記事で紹介した。その高橋准教授は、全国学力テストのために投入される費用にも疑問を呈している。
全国学力テストは文部科学省(文科省)が自ら運用までを行うわけではなく、総合評価落札方式による一般競争入札によって決定する業者に委託することで実施されている。今年(2020年)の委託事業を落札したのは、小学校部門が教育測定研究所で、落札額は16億6760万円となっている。そして中学部門は内田洋行で、落札額は18億4690万円である。
この落札額にも疑問がないわけではない。小学校部門でいえば、2007年から行われているなかで最高額は、2016年で23億7060万円である。ちなみに、この額で落札したのはベネッセコーポレーションだ。中学部門でも最高額は2015年の28億円で、落札したのはJPメディアダイレクトである。
今年の落札額と比較すると、かなりの差があることが分かる。入札なのだから差があっても当然という見方もあるだろうが、同じ試験をやっているにもかかわらず、こんなにも差がでてしまう理由が分からない。入札額が落ちることで、テストの質そのものに影響はないのか、きになるところだ。
ともかく、高橋准教授が問題にしているのは、今年にかぎっても小中合わせて35億円以上もの巨額な費用が投入されているという点である。もちろん、これは税金によってまかなわれるものだ。
「現在の全国学力テストは、悉皆方式で行われています。小学校6年生と中学3年生の全児童・生徒を対象に行われるわけで、そのための費用が35億円以上というわけです。この金額自体が妥当かどうかという問題もありますが、これが全員参加の悉皆方式にかかる費用だとするなら、抽出式にすれば、もっと安くなる可能性があります」
これが、高橋准教授の主張だ。全員を対象にする悉皆方式に対して抽出方式は参加人数を減らしてやるわけだから、採点や集計の手間は大幅に削減することができる。そうなると、かかる費用も削減できるというわけだ。高橋准教授が続ける。
「そもそも、悉皆方式でやる意味などまったくない。PISAで日本の読解力での順位が落ちたというので大騒ぎになっていますが、あれだって悉皆方式ではなくて、抽出方式です」
PISAとは、OECD(経済協力開発機構)が参加国を対象に行っている国際的な学習到達度調査のことである。昨年(2019年)12月3日、2018年に15歳を対象に実施した結果が発表されると、マスコミをはじめ大騒ぎになったことを記憶されている方は多いとおもう。日本が「読解力」で15位となり、前回の15年調査の8位から大きく後退したからだ。
PISA結果に対する日本の関心ぶりは「異常」ともいえるもので、いわゆる「ゆとり教育」が逆方向に振れるきっかけになったのもPISAでの順位が下がり、「学力不足」が問題にされたからだった。それが妥当だったのかどうか、今回の読解力にしても順位で大騒ぎする必要があるのかどうか、それは別にして、繰り返すが「異常」なまでの関心を示している。
そのPISAは、高橋准教授が指摘するように悉皆ではなく、抽出で行われている。その結果を信じて大騒ぎするにもかかわらず、全国学力テストについては悉皆に執着している。そのために巨額の資金、税金を投入しているのだ。
そもそも全国学力テストも「調査」なのだから、抽出方式でじゅうぶんなはずである。にもかかわらず、余計に費用がかかる悉皆方式でやっている理由が分からない。わざとムダ遣いしている、と言いたくもなる。
「全国学力テストを現在の悉皆から抽出にするだけで、かなりの費用が節約できるはずです。そもそも、悉皆でやることに意味はない」
と、高橋准教授はいう。全国学力テストそのものに問題はあるのだが、せめて、税金のムダ遣いを止めるためにも、まずは悉皆方式を抽出方式に変える必要はありそうだ。そして、必要なところに予算をまわす、健全な教育行政が実施されることを望みたい。