集団調停の申し立て 旧統一教会と弁護団との交渉のなかで明らかにされる5つの争点 青森の恐喝事件とは?
全国統一教会被害対策弁護団は司法記者クラブで会見を行い、7月31日に東京地方裁判所に集団調停の申し立てをしたことを明らかにしました。
団長である村越進弁護士は「本日、第1次~第4次の集団交渉の通知人のうち108名が、集団調停の申し立てを行い、統一教会への賠償請求金額は、約35億7774万円になります。これまで統一教会に対して、集団交渉の申し入れを行いましたが、一言でいえば、不誠実なものに終始してきました。被害者は高齢化して生活に困窮される方もおります。そこで土俵を裁判所に移して、裁判所の適正・迅速な管理のもとで交渉を加速化して、早期解決を図るために調停を申し立てたものです」と話して、教団側には被害事実に真摯に向き合い誠実に対応することを求めます。
「過去の民事裁判の結果は本件とは無関係です」との旧統一教会の回答も
阿部克臣弁護士からは、これまでの集団交渉の経過報告などの説明がありました。
弁護団から通知書を送り、旧統一教会からの回答書を受け取るやりとりのなかで、「統一教会本体からだけではなく、個別の信徒会が対応するということで、個別の回答書も来ております。バラバラに信徒会代表を名乗るものからきている状況です。弁護団としては統一教会本部が責任を認めて対応するべきであり、これは不誠実な対応」と指摘します。
弁護団が送った通知書への旧統一教会の回答には「過去の民事裁判の結果は本件とは無関係です。たとえ、過去の特定の裁判で『被害』が認定されたケースがあったとしても、それは本件通知人らが『被害』を受けたかどうかとは全く別の問題です」や「各地の信徒会関係者が進めている調査では、当法人による『違法行為』や『組織的不法行為』などどこにも見当たりません」「貴弁護団と当法人が面談したところで、せいぜい世間向けのパフォーマンスになる程度で、本件紛争の早期解決に向けた実質的な進展にはつながりません」というものがあったといいます。
それに対して、同弁護団は7月21日に出した通知書(5)のなかで「弁護団は本件の依頼者である通知人らの利益を最優先に考えているからこそ、金銭授受の客観的資料の開示を求めているものであって、何ら『世間向けのパフォーマンス』ではありません」と反論しています。
川井康雄弁護士は「統一教会の今までの対応で考えると、不誠実な対応をすることはわかっていましたが、解散命令請求の前なので誠実な対応をすることを期待しました。しかし結局は平行線でした。それどころか『世間向けのパフォーマンス』とまでいっている。第三者を入れて話を進めなければ、もうらちがあかない」といいます。
阿部弁護士も「調停という形で間に裁判官に入ってもらうことで、きちんと統一教会本部にこの問題に向き合ってもらうという意味があります。また、被害者の中には古い被害の方もおり、消滅時効(20年)をすることがあるので、調停によりそれが中断することにもなる」とも話します。
5つの重要な論点
弁護団は旧統一教会との集団交渉における、5つの重要な争点をあげます。
1つ目は、「献金記録の開示」です。旧統一教会側は「開示しない」としています。しかし「調停でも、献金の記録をきちんと出すように求めていきます。公益法人たる宗教法人として記録を開示するのは、当然である」(阿部弁護士)としています。
2つ目として、統一教会側は「除斥期間・消滅時効にかかったものは不当な請求であり、応じられない」としていますが、弁護団は「各通知人には請求できなかった事情があること等を考えると、権利行使できないとすることは著しく正義に反する」などとして「除斥期間・消滅時効は主張すべきではない」としています。
3つ目として、旧統一教会が「各地の信徒会が個別に対応する」としている点について、山口広弁護士は「多くの裁判で、統一教会は信徒会が(勝手に)やったと主張していますが、信徒会なるものは、教義の実現、組織の目的のために動いているのは明らかで、裁判でも統一教会の使用者責任を認める判決が繰り返し出されている。それでも今も言い続けている」といいます。
弁護団としては、信徒会は責任回避のための実体のない組織と考えており、個々の「信徒会代表」に任せる対応は不適切であり、統一教会本部が対応すべきとしています。
4つ目の「物品被害」について、教団側は「統一教会は対応せず、販売会社に問い合わせるべき」としています。
山口弁護士は「販売会社は信者が組織的な教義に基づいて、幹部信者が代表者や責任者になって運営されている実態がある」と話します。
筆者自身も、信者として中にいた頃にも見てきているのでわかりますが、教団の関連団体である販社(販売会社)に行く(人事異動)ことは、自分で希望して自由に決められることではありません。教団の上からの指示で行くことになります。私の所属した青年支部から、献身(出家)した信者が教団の販売会社などへ異動となった例を多く見てきています。
有罪判決が下された新世事件
山口弁護士は、東京地裁で平成21(2009)年11月10日に有罪判決が下された新世事件をあげて「新世という会社は、統一教会の組織的な資金集めのために設立され、運営されると推認できるとされています。刑事事件として霊感商法の判例が出ても、30年前と同じことを今もいっているという対応です」と指摘します。
弁護団の通知書のなかでも、新世事件の判決について「有限会社新世の役員・社員全てが貴法人の信者であること、印鑑販売の手法として、信仰と渾然一体となっているマニュアルや講義が作成され実践されていたこと、印鑑販売が、貴法人の信者を増やすことも目的として行っていたことなどが認定された上で『相当高度な組織性が認められる継続的犯行の一環』と断じられている」としています。
そして、こうした一連の事態をあえて無視して「『当法人に関連の販売会社は存在しません』などと否定し続ける貴法人の姿勢は、顕著な反社会性を象徴するものであることを認識するべき」と弁護団は厳しく断じています。
1984年の青森の恐喝事件とは
紀藤正樹弁護士は、販売会社の問題は、新世事件だけでなく、昭和59(1984)年1月12日に青森地裁弘前支部における、貴法人の関連法人「有限会社グリーンヘルス」の従業員信者3名が恐喝罪で有罪判決を下された事件でも明らかになっているといいます。
これは信者である販売員らが、先祖や水子の霊の恐怖で脅して、中年女性に印鑑、壺、高麗人参茶などを売りつけた霊感商法事件です。
「1984年青森の恐喝事件においても、当時から、統一教会と販売員との関係性について、判決のなかで認定されている。統一教会は責任を取りたくないので、信徒会とか販売会社を使い分けて、その責任を負担させようとしていることを繰り返している」(紀藤弁護士)
5つ目は「海外での献金の責任について」です。
これは、韓国・清平での先祖解怨のための献金被害で、教団側は「献金被害というもの自体ありえない」としていますが、弁護団は「先祖解怨では、不安・恐怖を煽って献金させてきた実態があり、献金の勧誘は日本の信徒によりなされていて、不法行為を行っているのは日本である以上、貴法人の不法行為責任もしくは使用者責任が認められるべきことは明白」として「統一教会が責任をもって調査し回答すべき」としています。
山口弁護士も「日本の教会でお金を出した被害もいる。日本の統一教会は関係ないから、韓国にいってくれという対応している。先祖解怨などは、日本の教会で説得してるケースもある。逃げ口上で責任転嫁している」といいます。
信徒会対応と物品被害が問題の本質
紀藤正樹弁護士は「信徒会対応と販売会社による物品被害が、統一教会の責任を考えるうえでの本質になります。統一教会は信者を駆使して伝道と経済活動をこれまで行ってきています。これを教団は認めてしまうと、組織的に違法とみなされるような行為に対する、統一教会側の責任が社会的に認められてしまうことになるので、絶対に争ってくる。ここを突破しなければならない」といいます。
さらに「統一教会は公益法人で、税務上の恩恵を受けている。その団体が生活保護を受けるまで、信者からお金を収奪すること自体、そもそも公益法人としてどうなのか。(多額の献金により、しかもお金が返金されないことで)結局、生活保護を税金から補うことになる。法令遵守の観点から、和解交渉に応じてもらいたい」ともいいます。
今後について、弁護団は調停が不成立になる場合、提訴を検討するとともに、さらなる第5次の集団交渉も行う予定としています。