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Bリーグの課題と未来 大河チェアマンが明かす制度設計と議論の裏側

大島和人スポーツライター
大河正明チェアマン 写真:加藤誠夫

Bリーグの3シーズン目が5月に幕を閉じた。リーグ全体で見れば集客、事業の両面で成長基調は続いている。ワールドカップ自力出場、東京オリンピックの開催国枠獲得といった代表の明るいニュースもあった。一方で足元を見れば疑問、懸念は残っている。そもそも課題と伸びしろは裏表で、Bリーグの次なる成長の「芽」だ。

今回はBリーグの大河正明チェアマンに独占インタビューを行った。リーグの現在地と課題について率直な説明があった。

■オン・ザ・コートルールをどうするのか?

2018-19シーズンを振り返って、ファンから否定的な意見が多く出た問題が外国籍選手のオン・ザ・コートルールだった。2016-17シーズン、17-18シーズンは外国籍選手の登録が3名で、起用は4クォーターで合計6枠だった。それが今季は登録2名、起用制限なしに変わった。

「3人60分」から「2人80分」となれば、必然的に一人あたりのプレータイムは増える。負傷の増加、投資効率の悪化と言ったデメリットが間違いなくあった。

まず来季(2019-20シーズン)のオン・ザ・コートルールをどうするのか?大河チェアマンの回答はこうだ。

「毎年これを動かすわけにはいかないし、あまりないけれど外国籍選手の2年契約もある。だから2年は変えませんという前提です。逆に言うと2020-21シーズンから変えるなら、今すぐ決めないといけません。登録3人であれば、ベンチ入りを3人で考えていいという意見もあります。今まさに20年から変える、変えないの議論はしています」

写真:加藤誠夫
写真:加藤誠夫

■ルール変更による想定外、不信も

チェアマンは今季のオン・ザ・コートルールについて、狙い通りにいかなかった部分があったことを認める。

「3人に分散していた人件費を2人に集中させることで、もっとレベルの高い選手が呼べると想定していた。しかし結局ケガが怖いから、2人しか入ってなかったクラブも3人目を呼び出して、気が付いたらB1は全部3人入っていた」

各クラブの経営者の意見も変化している。

「3カ月ぐらいたって聞いたときは(新ルールに対する賛否が)半々ぐらいだったけれど、終わりの頃はやっぱりベンチ入り3名を主張する意見が多かった」

ファンからの反発が大きかったのは、まず発表の「時期」だった。チェアマンによると「2シーズン目が始まるときに、3シーズン目のルールがこうなりますと出したら、聞いている側が混乱する」というリーグ側の配慮があった。一方で半年以上も正式発表が「お預け」となり、SNS経由の発信が先行することなどで、結果的にファンの不信が高まった。

大河チェアマンはそこについても反省を口にする。

「実は2017年の9月ぐらいにオンザコート2にすること、帰化選手は日本人扱いにすることは決めていた。しかし発表のタイミングが悪かった。(2020-21シーズンのレギュレーションは)19-20シーズンが開幕してから、なるべく早めの発表を考えています」

一方で代表強化を最優先する発想に変化はない。

「『日常を世界基準に』という東野(智弥・技術委員長)の言葉を、少なくともB1は守らなければいけない。B1の日常がインテンシティあふれるものでなかったら日本は強くなりません。195センチの4番の出場機会が減ってしまい、可哀想みたいな考えもあります。でもそういう日本人ビッグマンの給料が高騰してきているとネガティブな意見もあった。何をやっても賛否両論は出ます」

写真:加藤誠夫
写真:加藤誠夫

■地区制、CSの試合数は?

もう一つファン、経営者からの「異論」を聞くテーマが地区制、そしてチャンピオンシップの試合数だ。

大河チェアマンはまず現行の地区制度の背景、評価をこう述べる。

「NBAと一緒で、ポストシーズンの露出が増えるスポーツ文化にしたい。平等にホーム&アウェーで戦ってしまったら、そこから何でまた1位、2位、3位と決め直すのか?という議論になる。敢えて平等に当たらないけれども、18チームのうち8つを拾い上げて、チャンピオンを決めようという考えです。最初は東西(2地区制)で考えたんだけれども、B1が18に増えて、3で割れるから日本ではユニークな東、中、西でやってみようという発想でした。アウェーの集客も見込みやすいし、当時は今よりも事業規模が小さかったから交通費も節約できるということで、今のシステムが始まっている。(地区ごとの)強弱を別にすれば基本的にはまあワークしている仕組みなのかなとは思っています」

チャンピオンシップは今季からクォーターファイナル、セミファイナルの試合数が実質的に増えた。2シーズン目までは基本的に土日で第1戦、第2戦を行い、1勝1敗で決着がつかなかった場合は2戦目終了後に10分間の第3戦を行っていた。しかし今季は別日にフルゲームで第3戦を行う仕組みになった。

2季目まではこんな懸念があり、3戦目の開催を回避していたのだという。

「3試合目が急に決まってもチケットが売れない懸念と、アリーナのキャンセルコストの問題が一番引っ掛かっていました。B1は3試合目をやっても、1日~2日で売り切れる力が付いてきた、アリーナのキャンセル料も払えるということで、3シーズン目から3試合目を10分の試合では無くしました」

 

10分ゲームが残っているのはB1残留プレーオフで、これはまだ意見が分かれている

「チケットを売るモチベーションが湧きにくいというクラブが半分ぐらいある。積極的な賛成が多いかというとそうでもない」

B1残留プレーオフは「3日目」がない 写真=B.LEAGUE
B1残留プレーオフは「3日目」がない 写真=B.LEAGUE

■ファイナルの試合数を増やすには?

ファイナルは初年度から「中立地一発勝負」が続いている。野球の日本シリーズのようなホームアウェー方式を望む声はある。またBリーグの頂点を極める大一番を3戦先取、4戦先取でじっくり決着をつけるべきという主張もある。

チェアマンはこう答える。

「ホーム&アウェーをやるには(集客的に)勿体ないアリーナとなってしまう可能性がある。3,000人規模で毎回やったら、4試合やって横浜アリーナと同じです。しかも移動があって、テレビ中継(地上波)の付かない可能性も高い。そのどちらがいいのということです」

一方で試合数の増加についてはこう述べる。

「今は横浜アリーナで土曜日一発勝負ですが、土日火とか金土日というふうに2戦先勝にできないか?というのは検討課題です。当然1戦目より2戦目のほうが注目度は上がるけれど、じゃあ1戦目が白けているかというとそうはなっていない」

ただし、首都圏に限らず日本では深刻な大型アリーナの供給不足が起こっている。Bリーグのファイナルを開ける規模の会場は限られるため、予約が難しい。

大河チェアマンはこう現状を明かす。

「横浜アリーナを1週間ぐらい借りないといけなくなってしまうんで、これもまた難易度が高い。3年先くらいまで、今から決めておかないといけない」

高校野球は甲子園、大学野球なら神宮球場という「聖地」がある。ラグビーも秩父宮ラグビー場で主要な試合の大半を開催している。一方でバスケットボールは優先的に使える会場がなく、代表戦の開催地探しにも苦労している現状がある。

クラブはもちろんリーグ、協会が「夢のアリーナ」を自前で用意できれば理想的だろう。もちろん適地と相応の予算は必要だが、バスケの施設は屋外スポーツに比べて建設費が低く、採算性を確保しやすい。会場の使用料、設営コストはむしろ削減できる。試合がないときはコンサート、展示会などに貸し出せばいい。そういう環境が整えば、チャンピオンシップの試合数も増やしやすくなる。

バスケ界は走りながら考えているーー。そんな現状も強く感じたインタビューだった。確かに新しい取り組みや制度変更は、往々にして別の課題も生み出す。しかしBリーグは一定の安定性は保ちつつ、なお変化に挑戦し続ける姿勢がある。

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スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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