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アマゾン「ふるさと納税」始まる 手数料競争は期待できるか

山口健太ITジャーナリスト
「Amazonふるさと納税」のWebサイト(筆者撮影)

年末の「ふるさと納税」駆け込み需要がピークを迎える中、アマゾンの参入が話題になっています。

ふるさと納税には地方活性化につながるメリットがある一方で、自治体が負担する手数料が高いという問題がありました。果たして手数料の引き下げ競争は期待できるのでしょうか。

中小事業者を支援するアマゾンの存在

ふるさと納税にはいろいろと制度的な問題も指摘されているものの、最も大きな恩恵を受けていると考えられるのは全国の中小事業者です。

中小事業者が広告宣伝やマーケティングにかけられるコストには限界がありますが、ふるさと納税を利用すれば、節税につながるおトクな返礼品を求める人が労力を惜しまず商品を見にきてくれるわけです。

ただ、人手不足に悩む中小事業者にとって、EコマースやSNS活用といったデジタル化が必要と分かっていても、なかなか手が回りません。その支援に乗り出しているのがアマゾンで、セールなどでも優遇しています。

消費者にとって、アマゾンのようなECサイトには商品が並んでいるだけに見えますが、水面下ではさまざまな支援が広がっています。競合となる楽天はもちろん、最近ではPayPayなどの決済事業者もそこに加わっています。

こうした中小事業者の商品はアマゾンが販売する商品の50%以上を占めているとのこと。アマゾンが何年もかけて中小事業者との関係を作ってきた経緯を踏まえると、ふるさと納税に参入するのは自然な流れといえるでしょう。

アマゾンのようなEC事業者に頼らずとも、自治体が自前でポータルサイトを運営することもできます。ただ、セキュリティ対策や集客にかかるコストを考えれば、サイト運営に実績のある事業者と組むほうが無難です。

アマゾンはふるさと納税参入にあたって、「お客様はすでにお持ちのAmazonアカウントから、使い慣れたサイトで、より便利にそして気軽に、ふるさと納税を通じた地域への貢献や地元に根差した企業を応援していただける」(ジャスパー・チャン社長)とコメントしています。多くの人が使い慣れていることも、アマゾンの魅力といえます。

手数料競争は起きるか

アマゾンの参入にあたって注目されているのが、自治体が負担する手数料の引き下げ競争です。

ふるさと納税には、返礼品の割合は寄付金額の3割以下、手数料などを含めた経費全体では5割以下という制限があります。しかしポイントやギフト券の還元競争が激化しており、本来の趣旨とずれてきたことを総務省は危惧しています。

ただ、総務省がポータルサイト事業者を直接規制することはできません。そこで2025年10月からは、「ポイントなどを還元する事業者を使ってはいけない」という形で、自治体の側に制限を課すことになりました。

ここで気になるのは、ポイントを禁止したからといって、本当に手数料は安くなるのかという点です。もしポイント還元がなくなっても手数料が変わらなければ、ポータルサイトの取り分が増えるだけで終わってしまいます。

そこで期待されるのがアマゾンです。アマゾン側は公式にコメントしていないものの、安い手数料を提示されたという自治体の声が報じられており、同じ返礼品でもアマゾンのほうが価格が安いものがあるとして話題になっています。

返礼品の割合は3割で変わらないため、必ずしも価格が安くわけではありません。しかし筆者が調べた範囲では、大手のポータルサイトで「2万2000円」の返礼品が、アマゾンでは同等品と思われる内容で「2万円」となっているものがありました。

このように、単にポイントを禁止するだけでは先行きが不透明だったところにアマゾンが参入したことで、ポータルサイト間での競争を促し、手数料引き下げに向かう流れができつつあるのが現状といえます。

アマゾンを利用するのは全国に1700以上ある自治体のうち約1000とのことですが、競争によってポータルサイト各社がサービス向上や手数料引き下げの圧力を受けるとすれば、アマゾンを使わない自治体にとっても恩恵がありそうです。

各社のアマゾン対抗策にも期待

こうして始まったAmazonふるさと納税ですが、実際に使うにはまだ不便に感じるところがあります。

ふるさと納税の寄付自体は通常の買い物と同じようにできますが、ワンストップ特例の申請や寄附金の使い道を指定する場合は、注文してから24時間以内に専用のフォームに入力する必要があるようです。

注文を終えた後、フォーム入力を求められる(アマゾンのWebサイトより)
注文を終えた後、フォーム入力を求められる(アマゾンのWebサイトより)

アマゾンに登録した個人情報とは連動していないなど、現時点では既存のシステムに後付けしたような印象を受けます。

支払い手段としては使えるのはクレジットカードとデビットカードのみに限られています。アマゾンのギフトカードやポイント、キャリア決済やアプリ決済も使えるようにしてほしいところです。

検索結果では、通常の商品とふるさと納税の返礼品は分けられているようです。楽天市場のように両者が混在して出てくると選びやすくなると考えられるものの、広告も多いことから、見た目が複雑になりそうです。

サイト内でふるさと納税は目立つ位置に置かれているが、カテゴリとしては独立しており、通常の検索とは分けられている(アマゾンのWebサイトより)
サイト内でふるさと納税は目立つ位置に置かれているが、カテゴリとしては独立しており、通常の検索とは分けられている(アマゾンのWebサイトより)

確定申告の際に便利な、寄付の証明書を1つのファイルにまとめる機能には対応していません。一方、楽天ふるさと納税ふるさとチョイスは2025年1月から「即時発行」に対応する構えです。

一方、物流についてはアマゾンの強みを活かしている印象です。アマゾンの倉庫から商品を発送できる「フルフィルメント by Amazon(FBA)」では「冷凍品」にも対応。なお「冷蔵品」は既存の配送業者を利用するようです。

ポイントについて、ふるさと納税に特化したポイント還元はないものの、アマゾンのポイント還元はAmazon Mastercardによる2%還元と、dアカウント連携によるdポイントの還元があります。

クレジットカードなど決済手段によるポイント還元については、10月以降もOKと総務省が認めています。dポイントの還元がどうなるかは気になるところです。ただ、他社より安い返礼品が増えれば、ポイント以上の魅力になりそうです。

2025年10月以降はポイント還元がなくなることで、ポータルサイトごとの特色を出しにくくなると予想されます。そこで注目されるのが「限定品」です。

アマゾン限定の返礼品としては、グルメなどの特産品のほかに、石川県七尾市と共同開催する能登半島の復興支援ライブイベントのチケットが用意されています。

Amazonふるさと納税限定の返礼品も(アマゾンのWebサイトより)
Amazonふるさと納税限定の返礼品も(アマゾンのWebサイトより)

最近では寄付先の自治体で使える「体験型」の返礼品が増えており、楽天トラベルの「ふるさと納税クーポン」、PayPayの「PayPay商品券」などが人気を博しているようですが、ここにアマゾンも絡んでくるのは面白い動きといえるでしょう。

「旅行券・チケット」のカテゴリには、体験型の返礼品が並んでいる(アマゾンのWebサイトより)
「旅行券・チケット」のカテゴリには、体験型の返礼品が並んでいる(アマゾンのWebサイトより)

「返礼品なし」と入力して検索すると、さまざまな地域の活動を支援できる寄付の選択肢が出てくる(アマゾンのWebサイトより)
「返礼品なし」と入力して検索すると、さまざまな地域の活動を支援できる寄付の選択肢が出てくる(アマゾンのWebサイトより)

今後はアマゾンもサービス向上を図りつつ、独自色を強めてくる可能性があるだけに、ポータルサイト各社は遅れを取らないよう対抗策を練っていく必要がありそうです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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