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ディカプリオ、やはりキミは現在最高の演技者だ

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』1月31日(金)公開

原作どおり演じてくれれば、という期待は見事に…

観ている間、至福の時間に身を任せてしまう…。

そんな映画と遭遇するのは、年に何回もあるものではない。メリハリの効いた演出と、俳優たちの的確な演技が完璧なケミストリーを起こしたとき、そんな至福の時間は訪れるのだが、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の3時間は、まさにこの体験だった。

あれは、まだ映画が完成する前のこと。

ジョーダン・ベルフォート著「ウォール街狂乱日記ー『狼』と呼ばれた私のヤバすぎる人生」を読んで、もしこの通りにレオナルド・ディカプリオが主人公を演じきったら、彼の代表作になると感じた。すでに役に決まっていたレオをイメージしながら原作を読み進めるうちに、あちこちで最高の演技が想像できたのである。しかし映画が完成後、その期待は見事に裏切られることになる…。スクリーンのレオは、こちらの想像を超えるレベルの名演を披露していたのだから!すみません、見くびってました、レオ様。

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は、俳優レオナルド・ディカプリオの集大成になったと言っていいだろう。

金と欲望にまみれた過激な人生を熟成演技で体現

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ジョーダン・ベルフォート。

26歳で証券会社を設立し、年収は4900万ドル(約49億円)。

証券詐欺で逮捕された彼の人生は、絵に描いたようなハチャメチャぶりだった。1回に200万円超えのディナーや、ヘリコプター装備の大型クルーザー所有など超金持ちライフにも驚くが、このあたりは想定内。彼の場合、金銭的な大成功を収めながら、ドラッグでハイになっていないと気が済まない生活が、常人の感覚を超えている。そして、あり余ったエネルギーを、あらゆる欲望に向けてしまう。ここまでカゲキな主人公像は、レオならずとも、演技者なら誰もがチャレンジしたいと思うはず。

『ギルバート・グレイプ』の知的障害をもつピュアな少年から、『タイタニック』での純愛と献身に殉ずる演技を通過して、『アビエイター』、『ブラッド・ダイヤモンド』、『J・エドガー』での眉間に深いシワを寄せての熱演、さらに『ジャンゴ 繋がれざる者』での狡猾な悪役と、過去のキャリアで培ったさまざまな表現力。そのすべてが、ジョーダン・ベルフォート役で熟成をとげていた。

まず、過剰な熱演の部分。

株を買わせようと、金持ちをそそのかす。社員にやる気を起こさせるため、派手なパフォーマンスで演説する。これらのシーンでは、ジョーダンの特異な才能に、レオの演技者としての才能がカンペキに憑依

さらに一目惚れした女性への執拗なアプローチと、その後の過激なセックスの数々には、肉体をさらし、全身で欲望を表現する。極めつけは、ドラッグに溺れるシーンだ。基本的にハイになって仕事をするのが日常であるジョーダンは、その摂取もどんどん過剰になるのだが、ある強烈なクスリが効き、肉体のコントロールができなくなるシーンでの、全身をのたうちまわっての表現には、スター俳優の面影はない。何だか、人間ではない生き物を見ているよう。これぞ、役者魂の極限か。

因縁もあるアカデミー賞の判断は?

こうした熱演部分は、過去の作品の場合、時折、やり過ぎと感じられることもあった。しかし今回のレオは違った。

過去、何度かウザいと感じた、眉間のシワが…気にならない!

先輩に極意を教わるシーンや、証券詐欺で捜査され、社員の前で辞意を表明しようとするシーンなど、ここ数作にはなかった、初期のピュアな表情が宿っているのだ。ジョーダンという男は、お世辞にも人生の見本になる人格ではない。同時に、突出した才能の持ち主であることは間違いない。観客に嫌悪感をもたらしそうなキャラに、要所で絶妙な“共感誘うテクニック”を盛り込むのは、選ばれた演技上級者にのみ与えられてた才能だろう。今回、レオはその才能をマックスに働かせたのだ。

監督のマーティン・スコセッシとは、5回目のタッグ。最初の作品『ギャング・オブ・ニューヨーク』から10年以上にもおよぶ信頼関係があったからこそ、現代ハリウッドにおける最高の演技が達成されたのも事実だ。

ちょっと大げさだけど、すばらしい俳優と同時代に生きられた幸せを実感させてくれた『ウルフ・オブ・ウォールストリート』。

なぜかレオはアカデミー賞会員の評判がよろしくなく、『タイタニック』ではノミネートもされずと、過去に何度も苦渋をなめてきた。しかも今年は主演男優賞部門が例年にない強豪ぞろい。現地時間16日のアカデミー賞ノミネート発表で、どんな評価が下されるのかが楽しみになってきた。

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『ウルフ・オブ・ウォールストリート』

1月31日(金)全国ロードショー

(c) Paramount Pictures. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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