第27回 全国高等学校女子硬式野球選手権大会決勝は、神戸弘陵が史上初の三冠達成で幕
史上最多の58チームが参加した『第27回 全国高等学校女子硬式野球選手権大会』は、8月1日に決勝戦が阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で行われ、神戸弘陵が8-1で岐阜第一を下し2年振りの優勝に輝いた。神戸弘陵は、新チームとなって最初に行われるユース大会、春の選抜大会に続く高校女子野球3大大会すべてに優勝し、史上初の三冠を達成した。決勝戦には、今年の選抜大会に続き、秋篠宮家の次女、佳子様がご観覧され、選手たちの熱いプレーに拍手を送られていた。
神戸弘陵 300 320 0 8
岐阜第一 001 000 0 1
【バッテリー】
神戸弘陵 樫谷、伊藤-田垣
岐阜第一 桒澤、上條-今井
神戸弘陵は岐阜第一先発の桒澤明里さん(2年)の立ち上がりを攻め、5番・飯島弥沙音さん(2年)の適時打などで初回に3点をあげ主導権を握ると3回に1点を返された直後の4回と5回に追加点を奪い、岐阜第一に圧勝した。飯島さんは、1点を返された直後の4回、2死満塁から走者一掃の適時打を放ち計5打点をあげる大活躍だった。
先発の樫谷そら(3年)さんは、毎回走者を出しながらも落ち着いて3回1失点に抑えると、4回から救援した伊藤まことさん(2年)は、球威と制球力を以て相手打線を全く寄せ付けなかった。それでも弘陵ベンチは、最終回、2死をとってから伝令を送る徹底ぶりで優勝を手にした。
粘りの投球で決勝進出へけん引してきた岐阜第一先発の桒澤さんだったが、配球を研究してきた神戸弘陵打線につかまり8失点、6回からは上條優奈さん(3年)にマウンドを譲った。
「選手を誇りに思う」。神戸弘陵・石原康司監督コメント
「三冠という夢のようなことを成し遂げてくれた選手に本当に感謝している。現3年生たちには高校最後の大会で優勝ができて良かったと思うと同時に、公式戦無敗の選手たちを誇りに思う。今日は、昨年の3年生とその保護者の方々も応援に来てくれていた。この優勝を自分たちのことのように喜んでくれていると思う」
三冠をとって見返したいと決意。 三村歩生主将コメント
「自分たちは史上最弱世代と周囲に言われ続け、『絶対に三冠を取って見返す』と決意して臨んだ一年間でした。チーム力があって、応援してもらえるチーム作りを目指し、選手間で何度もミーティングを重ねてきました。大会前にチーム力が落ちた時期もありましたが、本音をぶつけ合うなど辛抱強くミーティングを重ね、最後はチームが真の一つになれ三冠を達成でき、本当に嬉しい」
樫谷-伊藤、最後の継投。
樫谷さんにとっては初の甲子園のマウンド。「(マウンドに)立った瞬間は緊張していて覚えていません。緊張をほぐすために笑顔を作りながら投げました。調子そのものは悪くはなかったけれど、速球が浮いてきた3回に1点を取られてしまいました」とも反省の弁も。これまで幾度となく、樫谷さんから伊藤さんへの継投で勝利してきたが、それもこの試合が最後。「自分よりも力のある伊藤が後ろにいたから、いつも安心して投げることができた」と後輩への感謝を口にした。樫谷さんから譲り受けて4回から登板した伊藤さんは「樫谷さんの分もやってやるぞ、という気持ちでマウンドに上がりました。最終回に伝令が来たときは、「2者連続三振がとった直後で、あのまま投げていたら力んでボール先行になっていたと思います。一呼吸おけたことで、自分らしい投球ができました」と振り返った。
選抜大会決勝の東京ドームに続いて甲子園でも優勝投手に。「自分なんかで良いのかな」という思いもあったが、「3年生はじめいろんな人に助けられ支えて貰っているので、優勝へ貢献できてよかった」と喜びを口にした。自分たちの代になる新チームでは、スタミナと制球力をつけて「誰にも負けない投手になります」と決意していた。
新チームでも三冠目指す。田垣朔來羽さん
これまでの試合と変わらぬ1番らしいチームに勢いづける活躍。初打席を安打で出塁、先制ホームを踏んだ。「相手投手は速球中心と聞いて狙っていましたが、実際は変化球が多く、切り替えて」中安打と、さすがの打撃を見せた。守っては、樫谷、伊藤両投手を好リード。「樫谷さんは、変化球に合わせられると長打もあるので、どう速球を混ぜようか」と考えて配球した。伊藤さんについては「準決勝よりもさらに調子が良かった」と、どんどん押した。優勝の喜びに浸っている間もなく、3週間後のユース大会へ向けてすぐに新チームづくりが始まる。いよいよ自分たちが引っ張る番だ。「偉業を成し遂げた後だけにプレッシャーはあります。でもこの勢いを止めるわけにはいきません。これから苦しいことも待っていると思いますが、逃げずに、全員が連続三冠を目指すチームにしていきたい」と、抱負を語った。
神戸弘陵は隙がなかった。岐阜第一・小久保志乃監督
試合後「あっという間だった」と語った岐阜第一、小久保志乃監督。甲子園という広大さや聖地であるがゆえの威圧感が先立ち、「選手たちにせっかくの舞台を楽しむ余裕がなかった」と振り返った。内容について「桒澤が投げると負ける気がしない」と言わしめるほどの絶対的エース、桒澤さんが、神戸弘陵打線につかまり思わぬ失点を喫した。「甘い球を見逃さないところや隙を見ての走塁と、とにかく隙のないチーム」と今回は完敗。が、「点差は開いたが、最後の一球まで食らいついてくれた」と選手たちを労った。
「優勝だけを目指して練習を積んできた」と話すチームは、昨年のベスト4を上回り準優勝した。あと一歩だ。「桒澤に頼りきりではなく、3点取られたらうちは4点取る、8点取られたら9点取り返す。そういうチームを作らないと」(小久保監督)。来年こそは頂点を目指す。
「全力を尽くしてくれた後輩たちへ、ありがとう」今井実主将
相手の左腕2人に対し、逆方向に強い打球を打つことを意識したという岐阜第一打線。今井実主将は「その通り打てていましたが相手のポジショニングが良く、アウトにされた」と振り返った。そんな中でも、1得点した3回は「好機を逃さず打線がつながった」と、自分たちらしさが出た場面だと語った。大会中、4番を任されてきた。準決勝までの4試合で1安打と振るわなかったがこの場面で5番・桒澤さんにつなぐ安打を放ち、主砲らしい働きができた。
守りでは、捕手として桒澤さんを支えてきた。浮き気味だったという投球だが「懸命に投げてくれた。桒澤で打たれるなら仕方がないと思っていた」と話した。先発メンバーは桒澤さん含め4人が2年生。新チームに期待がかかる。後輩たちへ「まず、3年生の分まで全力で戦ってくれてありがとうと言いたい。どの大会も最後にみんなの笑顔を見たいから、三冠を目指して欲しい」という言葉を残した。
「相手が上手だった。悔しい」上條優奈さん
初戦から当たっていた1番・上條優奈さん。初回の打席で「何とか塁に出てチームに勢いをつけたかったですができませんでした。狙い球を絞っていたけれど、相手が上手でした」と悔しがった。5回には中安打で出塁、6回からは決勝ラウンド初戦の島根中央戦に続き2試合目の救援としてマウンドへ。懸命に腕を振り、得点を許さなかった。活躍は十分。
(撮影はすべて筆者)