甲子園決勝は神戸弘陵-花巻東 『第28回全国高等学校女子硬式野球選手権大会 準決勝』ダイジェスト前編
第28回全国高等学校女子硬式野球選手権大会は、2連覇を狙う神戸弘陵(兵庫)と花巻東(岩手)が初の決勝進出を決め、8月3日に阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で日本一を懸けて戦う。2校が決勝進出を決めた準決勝の模様と選手たちのコメントを紹介する。準決勝は7月28日につかさグループいちじま球場(兵庫県丹波市)で行われた。
◆準決勝 第1試合 花巻東 対 東海大翔洋
花巻東 011 100 5 = 8
東海大翔洋 000 000 0 = 0
▼バッテリー
【花巻東】千葉 ー 平尾
【東海大翔洋】石野(5回)、垣崎 ー 宮
◆本塁打 花巻東:尾形、三塁打 花巻東:尾形、二塁打 花巻東:天久
最終回に花巻東が5得点の猛攻
花巻東が快勝。花巻東は2回に1死一、三塁から8番・小川夢乃(3年)のスクイズで先制すると3、4回にも1点ずつを加えて迎えた7回、長打が続き一挙5得点と試合を決めた。投げては千葉穂乃果が、6回まで相手打線を無安打に抑える好投で完封した。
東海大翔洋(静岡)は、ここまで3試合に登板、2試合完封と好調の石野七星(1年)が先発したが、序盤からつかまり失点を重ね劣勢に立たされた。打線は1安打に抑えられ、最後まで好機をつかむことができなかった。
攻撃のバリエーションが豊富な花巻東
一番乗りに乗っているチームだろう。花巻東打線は、何番からでも1本が出る打力と機動力、小技を決める堅実さがあり、それらを事も無げに成し遂げ相手を翻弄させる。
先制点は、打力と小技を掛け合わせ得点した。左前打で出塁した5番・天久花音(3年)を6番・神山桃実(1年)が犠打で二塁へ進めると、7番・尾形ハル(3年)が右前打でつないで1死一、三塁にして8番・小川がスクイズを成功させるという具合。2点目は一転、内野安打で出塁し二盗を決めた2番・佐々木秋羽(3年)が、3番・平尾美空乃(3年)の内野ゴロの間に三塁へ進塁すると、4番・三浦葉月(2年)の左適時打で生還と、機動力と打力を駆使した。
本領発揮したのが最終回だ。先頭打者の1番・赤井梨音(3年)が四球で出塁すると2番・佐々木への初球で二盗を決める。無死二塁から佐々木が相手の不意をつく犠打を試み悪送球を誘うと、赤井が二塁から一気に生還。続く3番・平尾が安打でつなぐと4番・三浦に犠打をさせて確実に進塁させたところで5番・天久が二塁適時打を放ち、2点を追加した。その後2死二塁となるが、7番・尾形の走塁本塁打で止めを刺した。
「自分たちの野球をすることだけを考えた」と花巻東・沼田尚志監督が語る通り、あらゆる攻撃パターンを成功させて終わってみれば8対0と快勝。今のところ、攻撃陣に死角なしのようだ。
打線に厚みをもたらす下位打線の好調
4打数3安打と猛打賞の活躍を見せた7番・尾形。相手先発の石野から初打席で左安打、2打席目には三塁打、4打席目には2番手・垣崎瑠依(2年)から走塁本塁打を放った。「みんなでデータをとって、配球を頭に入れて。ストレートに絞って叩きつけるイメージで打った」結果の猛打賞。日頃、つなぐことしか考えていないというが、本塁打の場面は「2アウトだったので『ランナーを帰す』と強く思いながら、自分のスイングを心がけて」放った1本だった。打線に厚みのあることを示す恐るべき7番打者だ。
「覚悟を決めてやろう」花巻東・沼田尚志監督の談話
「(相手投手を打ち崩したことについて)特に対策はなく自分たちの野球をすることだけを考えた。試合前、選手たちには『相手はすごくいいチーム。覚悟を決めてやろう』と話した。練習試合で負けている相手に、普段以上の力を出してくれたので最高ですね。打線が繋がって、1点ずつジャブ、ジャブ、と行けて。3点じゃ苦しいなという時に5点取ってくれた。あれが大きかったですね。 (千葉投手は)制球がよかった。普段から“緊張しい”なので立ち上がりが少し心配でしたが、 『覚悟できてるか?』と聞いたら『大丈夫です』って素直な笑顔だった。それで今日は行けるかもしれないと勝手に思っていました」
「負けてホッとしているかもしれない」東海大翔洋・弓桁義雄監督
日本一への夢が、あと一歩のところで途絶えた。「悔しいですね。(相手投手の)千葉さんが良くて、崩すことができなかった。まっすぐに勢いがあったし、気持ちも乗っていたのに対し、うちの打線は受け身に回っていたように感じた。どこかで1本が出れば策を講じられたけれど、終盤に1本だけで成す術がありませんでした」と完敗を認めた。
石野については「これまでの試合にはなかったプレッシャーもあっただろうし、疲れもあったと思う。経験値の差だろうと思う」とかばった。センバツで準優勝したことでにわかに注目され、選手たちは「夏こそは日本一」という周囲から期待される中で過ごしてきた。「ある意味、負けてホッとしているんじゃないかな」と選手らの胸中を思いやった。「走り続けることってすごく苦しいわけなんで。そんな経験をしたことのない若いチームだったから余計に。十分によくやってくれました」
「勝っても喜べない自分たちがいた」東海大翔洋・宮茉夢主将
主将、そして捕手としてチームを牽引してきた宮茉夢(3年)は、試合後、泣きはらした目をして「チーム内の問題を消化しきれず準決勝に挑んだことを後悔しています」と苦しい胸の内を語った。
準優勝したセンバツでは、チームの雰囲気は勝ち上がるごとに純粋に喜びを感じられていたのに、春以降、いつの間にか「勝つことだけが正しいと思い込み、勝たなければいけない」に変わっていた。今大会は勝っても安心するだけで、喜びを感じられなくなっていた。主将として「(準優勝の)結果は出せたけれど、自分たちに大した実力はない。常に挑戦者だよ」と何度も口にしたが、意識を変えきることは難しかったと振り返る。
下級生の投手陣への責任も感じている。「(石野)七星に『今日も頼むよ』ではなく、『自分たちが引っ張るからね』と言ってあげられたらよかった」と悔やんだ。2番手で投げた2年生投手垣崎へも思いは及ぶ。センバツで活躍して以降、調子が上がらない中で1年生の石野が台頭してきた。「いろいろと思うところがあっただろうに、もっと早くその気持ちに寄り添っていれば」と反省は尽きない。
「後輩たちには、二度とこんな悔しい思いをしないように、周りを見て声掛けしていって欲しい」。チームはどうあるべきだったのか。宮主将を中心に3年生たちがもがき苦しんだ姿は、真の強いチームとなるための置き土産となるだろう。
(撮影はすべて筆者)