神戸弘陵が春に続き甲子園でも優勝 2年連続連覇達成 『第28回全国高等学校女子硬式野球選手権大会 』
第28回全国高等学校女子硬式野球選手権大会は3日に最終日を迎え、阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で決勝戦が行われ、神戸弘陵(兵庫)が初優勝を狙う花巻東(岩手)を3対0で下し、2年連続4度目の優勝を果たした。神戸弘陵はセンバツ大会でも2連覇しており、史上初の2年連続春夏連覇を達成した。
◆決勝 神戸弘陵-花巻東
神戸弘陵 000 002 1 = 3
花巻東 000 000 0 = 0
▼バッテリー
【神戸弘陵】 阿部(6回2/3)、伊藤 ー 田垣
【花巻東】 千葉(5回1/3)、菅澤 — 平尾
0対0で迎えた6回、神戸弘陵(兵庫)は安打で出た8番・小池美結(3年)を二塁へ送ると、1番・田垣朔來羽(そらは・3年)の内野ゴロ悪送球の間に生還し先制。二塁へ進塁していた田垣を2番・矢島莉々果(2年)が左適時打で帰し2点目を挙げた。7回にも1死三塁から9番・津田美波(3年)のスクイズで1点を加え試合を決めた。投げては、今大会絶好調の阿部さくら(2年)が好投、走者を背負う場面もありながら粘り、相手に得点を許さなかった。
花巻東(岩手)は、終盤までもつれる展開をつくったが、6回に失策がらみで2点を献上、7回は安打と小技の連続攻撃を止められず追加点を許し力尽きた。
大会前から決まっていたストーリー
王者の風格というやつか。走者を許しても変わらぬ投球、集中力が切れなかった守備、勝機を逃さなかった攻め。最後まで浮き足立つことのなかった姿勢。極めつけが最終回だ。
3点リードで迎えた7回裏、花巻東の攻撃を2死としたところで、神戸弘陵・石原康司監督は、先発の阿部に代えて伊藤まこと(3年)をマウンドに上げた。思い描いていた通りの光景。優勝へのストーリーが完結した瞬間だった。
ユース、センバツ、選手権と高校3大大会三冠を達成した昨年度チームからエースを務め、昨夏の優勝投手だった伊藤。今年のセンバツ優勝にも大きく貢献した。その伊藤は、センバツ時から違和感のあった肘のケガでしばらく治療に専念し、スローイング再開が6月中頃と復調しきらないまま今大会を迎えた。準決勝後、石原監督は「『伊藤をもう一度、甲子園のマウンドに立たそう』。それを合言葉に選手たちは戦ってきた。(打者)1人でもいい、2人でもいい。何とか投げさせてやりたい」と話していた。
先発していたのは、この夏、急成長を遂げた2年生投手、阿部さくら。相手投手に無安打に抑えられ延長タイブレークに持ち込まれた1回戦で、ならばこちらもと相手打線に安打を許さず、8回を一人投げ抜いた。以来、大黒柱として決勝まで牽引、この日も最速117キロの速球を武器に相手打線を押していた。野球は最後のアウトをとるまで何が起こるかわからない。3点のリードがあっても油断はできない。優勝だけを考えれば、ここまで4安打に抑えいい流れを作ってきた阿部でいくのが王道だ。
しかし、試合終了まであと1人のところで石原監督は審判に投手交代を告げるとマウンドへ向かい、集まる野手陣におだやかな表情で話しかけた。それは「さあ、いよいよ、我々が演じたかったクライマックスが始まるよ、準備はいいか?」と問いかけたように見えた。選手たちも「待ってました」と言わんばかりの顔つきだ。阿部も、決勝前に「伊藤さんが投げるまでしっかりゼロで抑えたい」と話していた通り、自分の役割を果たした充実感を滲ませていた。
伊藤が最後の打者を打ち取り、かくして神戸弘陵は優勝した。石原監督は、この代のチームにとって、優勝の瞬間にマウンドにいるのは伊藤でなければいけないことを十分にわかっていた。難しいストーリーが書かれたシナリオを完璧に演じきったチームの総合力。神戸弘陵は、優勝すべくして優勝した。
最後のマウンドに立ち、深々とおじきをした伊藤まこと
石原監督が投手交代のためにマウンドに向かうと、神戸弘陵ナインの表情がほころんだ。伊藤の登場を待っていたからだ。伊藤もこの時を待っていた。試合中、ベンチ内でも「伊藤を投げさせるよ」という言葉が飛び交っていた。仲間たちがつないでくれたマウンドに「みんなの気持ちが本当に嬉しくて。最後を自分に託して下さった監督さんにも感謝しかなくて」思わず感極まった。伊藤は、そんな気持ちを込めて、マウンド上で深々とおじぎした。
いつもの大きく足を振り上げるダイナミックな投球フォームから投じた3球は、全て直球。変化球をうまく使いながら直球を投げ込むのが伊藤スタイルだ。打者と相対した瞬間「ストレートでいこう」。3年間培ってきた自分らしい投球を表現し、最後の打者を打ち取った。
優勝を勝ち取る覚悟を示した神戸弘陵・田垣朔來羽
試合後、「主将としての一年間は、本当にしんどかったです」と、優勝して安堵の表情を浮かべながらもポロリと本音をこぼした田垣。昨年、三冠を遂げた直後の、田垣を主将に迎えた新チームでのユース大会のベスト8は大きな責任を感じたことだろう。また「私よりも言いにくいことを選手たちに言ってくれるし、野球ノートを見てもそこまで完璧を求めなくてもいいのにと思うくらい」(石原監督)野球に対し厳しかった。
その重責は、思い切りが持ち前の打撃に響いた。今大会ではポイントどころで何度も打点をあげながらも、少し物足りなさが残っていた。自身も試合ごとに「今一つ調子に乗り切れていない」と話していた。
しかし、この日は凡退した打席で一度も下を向かなかった。遊ゴロで倒れた一打席目、勢い余って一塁ベースの先で転びながらも力強く顔を上げて立ち上がった姿に、戦い抜く覚悟を見た。6回の相手野手の悪送球を誘い、2点目につながる攻めの走塁などにも表れていた。田垣は決勝戦で今大会初めて無安打に終わったが、チームを鼓舞する意味では一番の打撃を見せた。
3年間の思いが一つになった瞬間
優勝の瞬間、田垣と伊藤はマウンド上で抱き合った。2人は1年生のときからベンチ入りし、長くバッテリーを組んできた。伊藤は「1、2年生の時は、よくぶつかっていた」と振り返るが、センバツ頃から「仲良く投げられるようになりました」と話す。ともに成長してきた2人の今大会への思いは、自分たちの代でも日本一。
大会前から「田垣は『まことを絶対に甲子園で投げさせるから』とずっと言ってくれていました。キャプテン業もあるし、他の投手のことも考えないといけなくて大変だったと思うのに引っ張ってくれた」と感謝でいっぱいだと話した。そんな田垣と「優勝を一緒に喜びたくて」思わず抱きついた。
高校最後の決戦が終わった今、伊藤は、田垣への思いを語った。「チームメイトとして出会えたこと、バッテリーを組めたこと、ボールを受けてもらえたことが本当に良かったと思います。私は幸せ者です」。
「自分らしいピッチングはできた」花巻東・千葉穂乃果
終盤まで神戸弘陵に得点を許さず接戦に持ち込んだ花巻東だったが、惜しくも初優勝とはならなかった。先発した千葉穂乃果(3年)は、速球を中心に、要所でスライダーが低めに決まり、相手打線を苦しめた。試合後、「甲子園のマウンドは凄く緊張しましたが、失点するまでは自分らしいピッチングができたと思います」と胸を張った。5回には二塁走者をサインプレーで牽制死させるプレーは、記者たちから何度も質問が飛ぶほど見事だった。最も警戒していた神戸弘陵、田垣を無安打に抑えられたことは「チームの実力を見せられたと思う」と笑顔になった。大声援も力になった。「(声援は)聞こえていたし、自分へだと思ったら本当に嬉しかった。遠くからたくさんの方に来てもらい、ありがたかったです」と感謝を述べた。
千葉、菅澤陽向(3年)を好リードした、捕手の平尾美空乃(3年)。先発した千葉へのリードは、まっすぐ勝負。準決勝での好投も速球中心だった分「配球を変えようと思いましたが、ブルペンで今日も伸びていたので。相手も押されていたと思います。『千葉、凄いな』って受けながら感心していました」と千葉を称えた。2番手の菅澤は、昨春のセンバツ決勝で神戸弘陵と対戦した際もリリーフ登板している。その経験から「菅澤の変化球を狙ってくるはずだから、まっすぐをうまく使いながら」緩急をつけた。結果的には得点を許したが「失点したことよりも、自分たちが1点も取れなかったことが悔しい」と打線への反省を口にした。それでも3番打者として、チーム全体で4安打のうち2本を放った。「一巡する間に、変化球はタイミングをずらす為に投げてくる程度」とみて速球に狙いを絞って打ち返した。
神戸弘陵はやはり強かったと思う。「二塁にランナーを置いて1ヒットでホームに帰れなかった部分や、各打者が初球からバンバン振ってくるのに対して、自分たちはできていなかった」ところに差を感じたという。「攻める姿勢、勢いが足りませんでした」。あと一歩で届かなかった日本一。後輩たちには「チャンスに強い選手になって、一戦必勝でまた決勝へ上りつめて欲しい。そして次こそは、監督を優勝監督に」と願いを込めた。
神戸弘陵・石原康司監督の談話
「強豪チーム相手に接戦、熱戦となる中、辛抱強くよく勝った。大会前は一戦必勝という気持ちで臨み、その延長線上での優勝、連覇だと思う。私の日頃の厳しさに耐え、自主的に取り組んできた3年生たち、それについてきた下級生たち、部員91人全員の一日一日の積み重ねが勝利へ導いたのだと思う。阿部の成長も大きかったし、最後に伊藤に投げさせられて言うことない」
花巻東・沼田尚志監督の談話
「私は、女子野球の監督になって2年目です。彼女たちは野球を愛していることを全身で表しながらいつも笑顔で明るくいてくれて、女子野球に携わるようになってはじめて野球の指導が楽しいと思えた。野球の魅力を教えてくれた3年生たちには、ここまで連れてきてくれて本当にありがとうと言いたい」
(撮影もすべて筆者)