Yahoo!ニュース

2018年、日本は本当の格差社会に突入する

城繁幸人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

2018年というのは、雇用的にいろいろな節目の集中する年です。まず2013年施行の改正労働契約法で誕生した「有期雇用5年経過で本人が希望すれば無期雇用に転換しなければならない」という5年ルールがいよいよ作動する年です。それを受け、さっそく雇い止めの動きが活発化しています。

【参考リンク】車大手、期間従業員の無期雇用を回避

【参考リンク】<東北大雇い止め>対象1140人 9割が雇用期間5年超

「5年も雇ったんだから引き続き雇用できるはず」と単純に考える人もいるかもしれません。でも、もし来年もの凄い不況になった時にみんな無期雇用だと非常に問題があるわけです。である以上、組織はリスクの芽を今から摘んでおくしかありません。悪いのは景気には波があるということを理解せず規制で何でも実現できると信じる頭の固い人たちの方です。恐らく上記の現場はこのままずっと働いて欲しいと思われている人たちが少なくないでしょうが、組織としても泣く泣く雇い止めにしているのでしょう。

特に、大学等の研究機関には有期で働く研究職が大勢いますから、筆者はこの5年ルールは日本の長期的な競争力に計り知れないダメージを与え続けることになるとみています。能力的にピークアウトした人材が定年まで保護される一方、能力があってもポストの無い人材は数年ごとに現場を漂流し続けるわけですから、ノーベル賞など夢のまた夢となるはずです。

ちなみにこの5年ルールは、日弁連が最初に提言し、共産党や社民党が支持、民主党が政権与党時代に法制化したものです。これから社会問題化した際には上記の朝日新聞記事のように企業批判につなげようとするメディアも出るでしょうが、はっきりいって荒唐無稽な法改正の責任です。改正前から多くの識者が危惧し続けたことが現実になっただけの話です。

これから春先にかけて日本中で雇い止めになる非正規雇用の人が続出するでしょうが、そうなったら「ああ、民主党が6年前に仕込んだ時限爆弾のおかげだ」と諦めてください。

それから、2015年の派遣法改正の節目も2018年に到来しますね。従来は上限の無かった専門26業務を含めたすべての派遣労働者が上限3年とされ、超過すれば派遣先で直接雇用に切り替えるか、派遣元が無期雇用にする等の措置を講ずることが義務付けられています。この3年ルールでもそれなりの規模で雇い止めが発生すると思われます。

また派遣会社との間でも5年ルールは成立するため、派遣会社も派遣労働者を5年で雇い止めにすることも増えるでしょう。まとめると、来年から非正規雇用労働者は数年ごとにあちこちの現場をぐるぐる漂流しはじめることでしょう。

これは冷静に考えるととても恐ろしいことです。あなたが部長だとして、正社員と「数年でいなくなることが確定している契約社員」に仕事を割り振る時、どういう割り振りにするでしょうか。付加価値が高くノウハウの学べる仕事は正社員に、誰でもできるような付加価値の低い仕事は契約社員に任せるでしょう。

現政権は働き方改革の柱として、同一労働同一賃金の確立を掲げています。同じ仕事をしていれば雇用形態に限らず同じ賃金を払おうというものです。でも、たとえば正社員が契約社員の3倍の給料をもらっている会社があったとしても、「だって正社員は非正規の人たちの3倍の価値のある仕事をしていますから。あの人たちは誰でもできる単純作業しか経験していないから自己責任です」と労使に言われたら返す言葉もないわけです。

要するに派遣の3年ルールや民主党政権の作った有期雇用契約5年ルールというのは、「付加価値の低い業務しか触らせてもらえないまま年を重ねる非正規雇用労働者を量産するシステム」だということです。そして、それが本格始動するのが来年から、ということですね。

ただし、正社員の側がすべて恵まれているというわけでもありません。教育無償化コスト3千億円の社会保険料への押し付けを見ても明らかなように、政府は取りやすいサラリーマンの保険料を引き上げ続けるでしょう。

【参考リンク】教育無償化で最大の敗者は子供を持たないサラリーマン

高収入の職を保証されるけれども負担感の強い正社員と、不安定雇用に押しとどめられるものの低負担の非正規雇用労働者は、利害の一致する点がほとんどない集団として分断され、社会は社会保障や労働市場に関する本質的な議論がなされないまま“漂流”し続けるのではないでしょうか。

人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。08年より若者マニフェスト策定委員会メンバー。

城繁幸の最近の記事