教育無償化で最大の敗者は子供を持たないサラリーマン
選挙前に、筆者は以下のように述べました。
【参考リンク】消費税引き上げ見送りや増税分バラマキで何が起こるか
要約すると、消費税を引き上げない限り、社会保険料としてサラリーマンの天引きが増えるだけだぞ、という警告です。早速、政府は社会保険料3千億円分の引き上げを財界に要請し、経団連等の財界も受け入れを了承したとの報道がありました。選挙からひと月ほどで上記の警告は早くも実現してしまったことになります。
【参考リンク】経済3団体、3千億円拠出受け入れ方針 首相要請の政策
ただし、正確には総理は「社会保険料の事業主の拠出として企業に負担してほしい」と要請し、経団連らもそれを受け入れたという形になっています。これをもって多くの人は「政府が財界に3千億円を負担させてくれた。痛みを伴わずにすんだ」とホッとしているようにも見えます。果たして今回の措置で実際に負担をするのは誰でしょうか。
事業主負担という隠れ蓑
結論から言えば、事業主(会社)の負担であっても、そのほとんどを実際に負担するのは従業員です。会社は従業員にかかるコストすべてを込み込みで人件費ととらえているためです。たとえば、あなたがお掃除代行会社とお掃除一回1万円で契約中だとします。政府が「お掃除代行を使う場合に10%の保険料を徴収するものとする」という法律を作った場合、あなたは「しかたないな、一万円とは別腹で千円負担するか」と両者を切り分けて考えるでしょうか。
ほとんどの人は「お掃除一回分に1万1千円分の価値があるか」とセットで考えるでしょう。企業も従業員に対して同じように判断することになります。きっと来年以降のあなたの昇給やボーナスには3千億円分の下押し圧力がかかることでしょう。
そういう意味では、政府も財界もうまく仕事をしたとも言えるかもしれません。政府は表面上は有権者に痛みを感じさせず、財界も「日本社会のために我慢します」と頑張ってるアピールできたわけですから。でも世の中にただ飯は無いのです。
自民党への投票は誤りだったのか
社会保険料引き上げに加え、給与所得控除の見直し(サラリーマンに絞った実質的な所得増税)等、政府は選挙後に矢継ぎ早にサラリーマンをメインターゲットにした負担増プランを打ち出しています。“サラリーマン増税地獄”と呼んでもいいくらいの状況です。ではサラリーマンの自民党への投票という選択は誤りだったのでしょうか。
いえ、サラリーマンに負担を押し付けることに成功した自営業はもちろん、当のサラリーマンでさえ(負担という点に絞れば)自民党という選択は正しかったというのが結論です。
増税に反対であれば、ポジション的には歳出カットであり、中でも年一兆円以上増え続ける高齢者向けの社会保障見直しは不可避です。その点を踏まえ税に対するスタンスを順位付けすると、現役のサラリーマンにとっては以下のようになります。
1.消費増税しない、代わりに社会保障見直しはする
2.全国民で負担する消費税は増税するが、社会保障見直しはしない(以下社会保障見直しは一切しない)
3.一応、消費増税するけど一部教育無償化にまわし、不足分は「取りやすい人たち」からこっそり取る
4.消費増税しない、全部「取りやすい人たち」からこっそり取る
残念ながら1番2番は不在です。3番に辛うじて自民公明の現与党が顔を出しますが、野党はすべて消費増税には反対の立場であり、4番です。野党の中には最初から政権なんて取る気の無い人たちがいて綺麗ごとしか言いませんが、実際に与党になれば現政権以上に「取りやすい人たちからこっそりがっつり取る」のは確実です。「取りやすい人たち」が誰かは言うまでもありません。
まとめると、自民党が勝利してサラリーマン増税地獄が始まったのは事実ですが、地獄と言ってもまだまだ地獄の一丁目であり、仮に野党が勝利していればサラリーマンは地獄の3丁目か4丁目くらいにまでは追い込まれていたということです。
民進党が死んだワケ
ここ20年ほど税を巡って行われてきた議論は「増税するかしないか」というものではなく、実際には「誰に負担をおしつけるか」というものでした。その中で高齢者や自営業者の側に立つ政党はあっても、サラリーマンの声を代弁する政党はなく、結果的に消費税は10%未満と国際的にみても非常に低い水準に抑えられる反面、社会保険料は30%超という水準に膨張してしまったわけです。
これから先も、自身で確定申告を行うような意識の高い人たちはことあるごとに「消費税引き上げ反対」を唱えるでしょうが、それが歳出カットにも社会保険料にも言及しないものであるなら、その真意は「サラリーマンからとれ」と思って間違いないでしょう。サラリーマン自身が上記のような構図を認識し、声を上げない限り、この流れが変わることはありません。
余談ですが、旧・民主党というのはもともと都市部の無党派層、つまりサラリーマンを主な支持基盤としてスタートした党でした。本来であれば彼らこそ現状の流れに待ったをかけるべき存在だったはずです。彼らが凋落した理由は、本来の支持基盤であるサイレントなサラリーマンの声を一向に代弁することなく、政権を取る気など無い野党と歩調を合わせることで、結果的に「取りやすい人たちからこっそり取る」路線に足を踏み入れてしまったことだと筆者はみています。
今、サラリーマンという大きな票田は代弁者のいない空き城のようなものです。先の分裂により誕生した新党のどちらかが空き城に依って立ち、古臭いイデオロギーの代わりにサラリーマンの利便を説けば、政策でも政局という点でも政治は今よりずっと面白くなるに違いないと筆者は考えます。