新たな世代の潮流。バルサのカンテラーノ、ヤマルの台頭と大胆不敵なプレー。
まだ、16歳だ。それでも、堂々の代表デビューを果たした。
スペイン代表は、EURO2024予選グループA第5節でジョージア代表と対戦した。この試合で、バルセロナに所属するラミン・ヤマルがA代表デビューを飾っている。
ヤマルはジョージア戦で後半方途中出場。終盤には、ニコ・ウィリアムスのアシストからゴールまで奪っている。16歳57日でのA代表デビューと得点で、スペイン代表の記録を塗り替えた。
■最初に集めた注目
ヤマルはバルセロナのカンテラーノ(育成組織出身選手)だ。モロッコ人と赤道ギニア人の両親を持ち、バルセロナ郊外のジョブレガットで生まれ、マタロで育った。7歳でバルセロナのカンテラに入団している。
ヤマルが最初に注目を集めたのは、スペインの世代別代表にいた頃だった。しかし、原因はピッチ内でのパフォーマンスではなかった。
今年の3月、スペインUー17代表のフレン・ゲレーロ監督が発表したメンバーに、ヤマルの名前はなかった。2月の代表合宿でダニ・ムニョス(アトレティコ・マドリー)、ヘスス・フォルテア(レアル・マドリー)と共に「規律違反」を犯したとされ、代表から外されたのだ。
だがそれは大事にはならなかった。より大きな出来事が、ヤマルに起こったためである。
■バルセロナで史上最年少デビュー
2023年4月23日。リーガエスパニョーラ第30節、バルセロナ対アトレティコ・マドリーの試合に向け、シャビ・エルナンデス監督はヤマルを初招集した。
その試合では出番がなかった。だがリーガ第32節、バルセロナ対ベティスの一戦で、その時は訪れる。83分、ガビに代わり途中出場を果たして、ヤマルは15歳9ヶ月16日でトップデビューを飾った。
ヤマルはビセンク・マルティネス(16歳9ヶ月5日)、アンス・ファティ(16歳9ヶ月25日)、ボージャン・クルキッチ(17歳)、ガビ(17歳24日)といった選手たちより若くデビューを果たして、クラブ史上最年少記録を更新している。
ヤマルは左利きのアタッカーである。卓越した技術、ボールコントロール、大胆なプレーでチームの攻撃に活力を与える。
ヤマルは【4−3−3】の右WGを基本ポジションとしている。シャビ監督のチームでは、WG(少なくともワンサイドのWG)にはワイドで開いてパスを受け、仕掛けていくことが求められる。ボール保持の際、左利きのヤマルは右サイドで「中」と「縦」に行けるドリブルと突破力で対戦相手の脅威となる。
シャビ・バルサにおいてヤマルの役割は重要だ。シャビ監督は昨季途中から偽WGを試すようになった。左WGにガビやペドリ・ゴンサレスを配置し、中盤で数的優位をつくれるようにした。
その時、逆サイドのウィンガーには突破力が必要になる。左サイドを「創造」だとすれば、右サイドは「破壊」だ。そこで、ヤマルの1対1の強さが重宝されるのである
■デンベレの移籍
またヤマルがバルセロナで存在感を増しているのには、もうひとつ理由がある。ウスマン・デンベレの退団だ。今夏、移籍金5000万ユーロ(約80億円)のオファーがパリ・サンジェルマンから届き、デンベレの移籍が決定した。
デンベレは2017年夏に移籍金固定額1億500万ユーロ(約160億円)でボルシア・ドルトムントからバルセロナに移籍した。バルセロナでは、度重なる負傷に苦しめられた。だがロナルド・クーマン前監督、シャビ監督からの信頼を得て、蘇った。
とりわけ、シャビ監督からの信頼は厚かった。シャビ政権で、デンベレは公式戦66試合に出場して10得点22アシストをマーク。2027年夏までの契約延長をデンベレに準備していたバルセロナだが、それにサインをする前に、デンベレがPSG移籍に傾いた。
かくして、デンベレは花の都へと去った。そして、その移籍でチャンスを得たのが、ヤマルである。
「意識することなく、大胆に動ける。新しい世代の特徴だ。トレーニングで、ヤマルは素晴らしいプレーをしていた」
「ヤマルは時代を築くような選手になるかもしれない。しかし、落ち着かなければいけない」
「私の期待は大きい。彼は、監督の気まぐれで、スタメンを張っているわけではない。彼のピッチ上での判断は、ほとんど完璧に近い。本当に素晴らしく、インテリジェントだ。長く、バルサでプレーし続けてほしい」
これはシャビ監督の言葉だ。
スペイン代表でも、先のジョージア戦で見せたように、ヤマルは大胆なプレーを続けていた。
ヤマルには臆するところがない。それは若さゆえ、だと言い換えることもできる。しかし、それこそが、いま、バルサに、スペイン代表に、必要なものだ。