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森保ジャパンの「解答」。久保建英はカタールW杯で活躍できないのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

パラグアイ戦は快勝したが…

 パラグアイ戦、森保ジャパンは4-1と快勝だった。

 代表復帰の鎌田大地(フランクフルト)、代表デビューの伊藤洋輝(シュツットガルト)の二人は、特に称賛を浴びた。鎌田はインサイドハーフとして攻撃をけん引し、得点やアシストだけでなく、ボールキープ一つをとっても違いを見せた。伊藤も先制点につながるフィードをし、左サイドバック、左センターバックと前後半でポジションを変えながら可能性の高さを見せている。

 また、代表に戻ってきた堂安律(PSVアイントホーフェン)も、右サイドアタッカーとして攻撃を活性化した。カットインした時の鎌田とのコンビネーションの良さは際立っていた。PK失敗は「愛嬌」と言えるほどの活躍ぶりだった。

 しかし、小さな違和感は残る。

 サッカーの華やかさを感じさせた試合は、「1軍半」という布陣だった。前半が終って、吉田麻也(サンプドリア)、遠藤航(シュツットガルト)をベンチに下げた後、Bチーム感が強くなっている。終盤、4-3-3から4-2-3-1で鎌田をトップ下に置いた布陣が最も攻撃力も高まった。ただ前後半でプレーした選手は、ブラジル戦での先発はない。

「チームの底上げ」とも解釈できる。しかし、そもそも今の戦い方がベストなのか。その答えを見つける必要がある。

鎌田、伊藤、堂安の活躍にある違和感

 鎌田、伊藤、堂安の活躍は、どれもこれも驚きには値しない。

 今シーズン、鎌田はEL優勝の原動力となっている。左ウィングバックのフィリップ・コスティッチとの連係は大会屈指で、ゴールもELチーム最多。ベティス、バルサ、ウェストハムを”葬った”試合は、オールラウンドで攻守両面で異彩を放った。

 伊藤も、ブンデスリーガ年間最優秀新人賞候補になっている。世界的にも希少なサイズのある左利きセンターバック。フィード力も高く、シーズンを通して定位置を守った。

 しかし、前者は代表招集を受けなくなり、後者はようやく代表デビューとなっている。どちらも、プレー時間を与えられているのが当然の二人だ。

 また、堂安も変わらない。東京五輪で力を使い切ってコンディションが上がらず、ケガで出遅れたが、カップ戦を含めて二けた得点を記録。使い方次第で「切り札」になるアタッカーである。

 森保ジャパンでも、3人は「レギュラーチーム」とは違う奥行きを作ることができるはずだ。

「石橋を叩いて渡る」

 森保一監督の信条なのだろうが、序列意識が強すぎ、新陳代謝を生み出せてこなかった。4-3-3も凡庸の域を出ない。自らが見出した「守備を分厚くし、切り替えのスピードを重視した形」にはめ込もうとした。結果、どうにか勝利は収めても、代表不人気にまでつながった。

「結果を出した選手にポイントをつけ、その順番で起用している」

 そこまで揶揄されるほどの序列重視だ。

 例えば、活躍したように映った伊藤だが、弊害を受けている。招集されない限りポイントは積むことができなかったし、ようやく招集されたと思ったら、本職ではない左サイドバックでの起用だった。絶賛の声は多いが、攻撃面で良さは出したものの、慣れないサイドバックでポジション取りは不安定だったし、それは誤った判断にも出た。後半、センターバックにポジションを移したが、失点につながる自陣でのパスミスは目を覆うものだった。

「これだけ招集を躊躇い、いきなりサイドバック起用で後半はセンターバック」

 これはシゴキに近い。ルーキーには、一番輝ける場所で適応させる機会を与えるべきだろう。これで失敗続きだったら、トラウマ化していたかもしれない。丁稚奉公のような起用はやめるべきだ。 

序列が下がった久保 

 パラグアイ戦を評価するのは、実は難しい。

 相手は数人の主力が不在で、ひどく凡庸なチームだった。3度ワールドカップ出場を逃しているのも不思議でなく、各ポジションに人材を欠いている。昔はホセ・ルイス・チラベルト、カルロス・ガマーラ、フスト・ビジャール、パウロ・ダ・シルバなど守備的ポジションに有力選手がいたが、現在はパワーダウン。その上、長旅による疲れと時差で、時間を追うごとに疲弊は明らかになった。

 森保ジャパンは、勝つべき相手に勝ったに過ぎない。

 ただ、一つの真価も見せた。

 パラグアイ戦、森保ジャパンは高い位置でボールを回し、それぞれの選手が連係し、ボールを動かし、インスピレーションを感じさせた。サッカーの面白さを伝える勝利だった。それは試金石の一つになるはずで、「能動的な試合展開を可能にできる選手がいる」という証左だ。

 例えば、エース候補だった久保建英(マジョルカ)だが、その序列は昨年夏の東京五輪の頃と比べると、かなり下がっている。世間での評価も落ちた。昨シーズンは東京五輪の連戦が祟ってケガで出遅れ、所属クラブでは一時期、巻き返しを見せるも監督解任を救えず、最後は先発を失った。

「レアル・マドリードに戻れる可能性は低い」。現地メディアはそう伝える。

 今回のパラグアイ戦、久保は「Bチーム」のスタメンにも入れていない。

 では、久保はW杯で活躍できないのか?

 安易な結論付けはするべきではない。

久保という選択肢を最後まで探るべき

 久保が、右サイドから中央にかけたプレーで得点に絡む攻撃能力が高いことは事実である。それは序列が下がった今も変わっていない。ボールが足元に入れば、1対1ではアドバンテージとなり、コンビネーションを使うことで攻撃力を倍加できる。足し算ではなく、掛け算の攻撃ができるというのか。左足で放つラストパスやシュートは精度も高い。

「リーガエスパニョーラでポジションを取れる」

 その実績・実力は伊達ではない。それだけで、ベルギーのベストイレブンとほぼ同等の力量と考えるべきだろう。それほど、高いレベルで経験を積んでいるのだ。

 久保はパラグアイ戦も交代出場し、流動的にポジションを取りながら攻撃で異彩を放った。右で幅を作って、サイドバックの山根視来(川崎フロンターレ)の上りを引き出し、決定機につなげていた。また、前田大然(セルティック)へ絶好のクロスを送った(あるいは、その裏を走った選手に出したか)。堂安に近いプレーだが、実は二人同じピッチに立つと東京五輪のように、左利き独特の相性の良さも見せる。

 攻撃的編成をした場合、久保は堂安、鎌田、三笘薫(サン=ジロワーズ)、上田綺世(鹿島アントラーズ)、古橋亨梧(セルティック)、田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)など、相手を惑わすコンビネーションは作り、脅威を与えられるはずだが…。

森保監督の解答

 問題は、森保監督が「負けないための人選」になる傾向にあるだろう。必然的にスピード、ハードワーク、献身を第一とした選手を好む。慎重さな布石だが、例えばトップレベルの相手に猛烈なプレッシングや一発のカウンターは通じない。能動的に戦えるオプションをもっと高めないと、消耗後に仕留められる。それがオチだ。

 事実、先日は韓国がブラジルを相手に1-5と完敗している。ポゼッションする時間も作り、カウンターも繰り出したが、ボールを運ぶ「武力」で劣るため、じりじりと消耗した。一時は同点に追いついて、屈強なハードワーカーを揃えて「塹壕化」したが、一瞬で突き崩す力の差を見せつけられ、結果、2本のPKを献上。打つ手はなくなっていった。

 ブラジルは精神的優位に立ち、肉体的な消耗も最小限だったと言えるだろう。ネイマールのPKの蹴り方を見るだけでも、とてもリラックスしていた。攻められてもストレスがなく、90分では差がつくのは当然だ。

 これだけの相手を攻めるのは難しい。しかし攻めに出ないと、ゆっくり飲み込まれる。

 日本はW杯でブラジルと同等の強豪であるドイツ、スペインと同組で、守るだけでは末路は決まっている。守備に追われれば追われるほど、相手に時間とペースを与える。日本の選手たちは体格的にも屈強とは言えず、じり貧となるのは必定。高い技術や瞬発力、コンビネーションは持ち味で、それを生かすしかない。GKも含めてつなげるところはつなげ、果敢に仕掛け、攻める比重を増やすべきだ。

 ブラジル戦は、森保ジャパンがW杯に向けてどこへ舵を切るか、その解答の一つが出る。 

 韓国が一矢を報いた同点弾は、一つのヒントだろう。しつこくボールをつなげ、一気の縦パスをゴール前で受けた受けたストライカーが振り向きざまに一撃を食らわせた。ブラジルは決して無敵ではなく、攻め筋を作ったら、ゴールネットを揺らせる。

 無失点は難しい。しかし田中碧、鎌田はボールプレーヤーとして対抗できるし、久保、堂安、三笘の崩しも武器になる。そして南野、上田、古橋のゴールに期待だ。 

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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