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「新・ガザからの報告」(20)(2024年10月11日)ー後編・45台のトラックが消えた!ー

土井敏邦ジャーナリスト
(テントで暮らす子どもたち/撮影・ガザ住民)

【2つの学校への空爆で多数の犠牲者】

 先週、2つの大きな事件がありました。2つの学校に対する空爆です。

 1つはジャバリアの学校、もう1つはデイルバラ地区の学校に対する空爆です。ジャバリアの学校は3日前に標的とされました。この学校では約20人が死亡しました。この20人の中には、ハマスの戦闘員13人と、イスラム聖戦の戦闘員1人が含まれています。合計で14人です。残りの6人は完全に民間人であり、子供や女性も含まれています。3日前にジャバリアで発生しました。この空爆は、第162師団によって実施されている地上侵攻の開始時、あるいはその前日に行われました。

 2回目の攻撃は、昨日デイルバラ町の西部に位置し、海から数百メートルしか離れていないルファイダと呼ばれる学校に対して行われました。30人が死亡し90人が負傷しました。

 この空爆では多くの犠牲者が出てびといます。なぜなら、空爆は重要なタイミングで行われたからです。ある組織が学校内にいる人々にパンや調理済みの食べ物を配給していました。その最中に空爆が行われたのです。人びとは配給物資や食料、パンを受け取ろうと集まり、学校は混雑していました。そのため、犠牲者が非常に多く出てしまったのです。死亡した30人の中には、ハマスの戦闘員として指名手配されていた12人が含まれています。負傷者は18人です。ほとんどがベイトハヌーン地区からの避難民でした。

【45台のトラックが消えた!】

 現地の社会情勢についていくつかお知らせします。ほぼ1週間、イスラエルからは物資は何も届いていません。イスラエルから来たトラックは1台もないんです。

 市場では物資、食料が大幅に不足しています。これが物価を高騰させています。食料品を買おうと思ったら、2倍、時には3倍の値段を払わなければなりません。

 今日、あなたと話す前に、私は市場に行きました。値段を尋ねてみました。タマネギ1キロが35シェケル(1400円)です。じゃがいも1キロは45シェケル(1800円)、トマト1キロは70シェケル(2800円)です。

 物資を積んだトラックの搬入がないのです。イスラエルが宗教的休日のためガザ地区とヨルダン川西岸地区との国境は完全に閉鎖されていました。

 しかし、2日前に国境が開かれ、45台のトラックが南部(ケロムシャローム検問所)から入りました。しかし、何が起こったのでしょうか?ラファとハンユニスの間で、ギャング集団がトラックの隊列を襲撃し、トラックをすべて連れ去ったのです。45台のトラックをわからない地域に運び、略奪をしました。トラックに積まれていた食料、スープ、薬品を略奪したのです。45台のトラックの物資をです。

 この戦争中のガザ地区のパレスチナ人の道徳観、倫理観について報告したことを思い出してください。想像できますか?この泥棒が、飢えに苦しみ、1日1食しか食べられない人びとの食料を略奪していることを。もしあなたが世界のどこかに行ったとして、泥棒にも一種の倫理観があるでしょう。しかし、ここガザでは、彼らには慈悲の心などありません。食料や物資がひどく不足している中、彼らはトラックを略奪していたのです。これは、非常に大きな事件でした。もちろん、SNSでは、人びとは叫んでいました。「パレスチナ人の倫理観や道徳観はどこにあるのか!」と。

 残念ながら、この戦争はパレスチナ人の現実を浮き彫りにし、真の倫理観を明らかにしました。人びとはSNSで、「人の盾を作ってトラックを盗賊から守る人びとが必要だ」と叫び始めました。もちろん、それは現実的な提案ではありません。トラックを守るために何千人もの住民を道路に連れて行くことはできません。

しかし、45台のトラックが略奪された後、人びとは非常に怒っていました。

(食料配給所に殺到する避難民/撮影・ガザ住民)
(食料配給所に殺到する避難民/撮影・ガザ住民)

【ハマスへの疑惑】

 そして今、トラックで運ばれた物資が市場で売られていないため、食料や物資が不足したままです。市場では何も売られていないのです。

 一部の人びとは、トラックの物資を盗んだ真の泥棒はギャングではなく、ハマスの最高責任者であるシンワールだと言っています。もしギャングが盗んだのであれば、彼らは市場にトラック物資を運び、住民に売るはずです。

 しかし、シンワールが盗んだとしたら、物資は地下のハマス・メンバーたちに回っているはずです。地下のメンバーには食べるものも飲むものもないからです。彼らは今でも地下に数千人の戦闘員を抱えており、食料を必要としています。

 他の一部の人びとは、このトラック略奪行為がハマスによるものなのか、あるいはギャング集団によるものなのか、我われには確かめることはできないと言っています。

 我われには真相はわかりません。しかし、状況は非常にひどいです。食料不足は依然として続いています。そして、この数日間でジャバリアから数千人が到着したため、状況がさらに悪化、複雑化していることは想像できるでしょう。彼らは空腹のまま北部からやって来て、南部で同じ空腹に直面しています。南部でも食料不足が深刻です。

(Q・つまり、地下に潜むハマス戦闘員たちに食料と水を提供したいという理由から、このギャング集団がハマスの一部である可能性もありますね。このギャング集団とは誰のことですか?)

 誰も知りません。ただ一部の人は、本当のギャングはハマスに所属していると信じています。45台トラック、輸送隊を丸ごと盗むのは簡単ではありません。ギャング集団がいたとしても、1台、2台、3台のトラックを盗むことはできるかもしれません。しかし45台のトラックを盗むには、多くの武装した人間、多くの戦闘員、多くの人員が必要です。輸送部隊を盗むのは容易ではありません。膨大な数、45台のトラックの長い列について話しているのです。だからこそ、真の盗人はハマスの戦闘員自身であると考える人が少なくないんです。

 なぜなら、彼らは物資の面で深刻な不足を抱えているからです。弾薬であれ、食料、医薬品、水など生活必需品がハマスも不足しているのです。

【ガザに搬入される物資は商業用が主流】

(Q・前回、あなたは、その品物はヨルダン川西岸地区、ナブルスか、あるいはヘブロンなどから来ていると言いましたね?)

 そうです。品目について説明するなら、食料、衣類、ペットボトルの水など、ほとんどナブルスから来ています。ごく一部の品目はカルキリアやトバスなどから入ってきますが、大半の品目はナブルスとヘブロンから入ってきます。

 あなたはナブルスとヘブロンが交易の中心地であることをご存知でしょう。両都市では大きな取引が行われています。それに加えて、イスラエル国内から入ってくる品目もあります。コーヒーや砂糖、スープやスープの素などです。イスラエル国内から輸入している商品もありますが、大半はナブルスやヘブロンから持ち込まれたものです。

(Q・その物資は商業用ですか、それとも無償の寄付ですか?)

 商業用です。ガザ地区のいくつかの貿易業者が輸入しています。ガザ住民への援助や支援ではなく、無料で配布されるものでもありません。業者は、輸入品としてそれらの物資を買っています。それらの物資を輸入するために、お金を支払っているのです。ガザの商人たちがヨルダン川西岸地区の商人たちにお金を払っています。

 ですから、すでにお金が支払われている物資のトラックを盗んだのです。それと共にヨルダン川西岸、隣国のヨルダン、その他の国々から、無償の援助物資のトラックも入ってきます。

 この輸送隊は45台のトラックで構成されていました。すべてがガザの商人が購入した商品でした。それをガザの市場で販売することができたのです。たしかに戦争の初期段階では、ガザに届く物資のほとんどは無償の援助でしたが。戦争の拡大に伴い、変化が現れ始めました。無償の援助が減り始め、商業商品が増加し始めました。

(Q・もしこのギャング集団がハマスに属していないのであれば、ハマスが統制力を失い、治安を維持できなくなったということですね。彼らは食料や水の窃盗を統制できないということでしょうか?)

 はい。一般住民の見解を伝えているだけです。一部の人びとは、泥棒は普通の窃盗団だと考えています。他の人びとは、この行為はギャングにはできないと考えています。もっと大きな力が必要で、ハマスだと考えています。45台の長い車列をそのまま盗んだんですよ。非常に大規模で、それを盗んだりするには、大きな軍事力が必要です。だからこそ、ハマスの最高司令官シンワールの命令であり、ハマスの軍が真の泥棒であると信じる人もいるのです。

(Q・つまり、住民はハマスへの信頼を完全に失ったということですか?)

 もちろん、すべての人ではありません。ハマスにはまだ信奉者がいます。しかし、大多数の人々は、間違いなく、ハマスに対する支持を失っています。特に今起こっていることの後ではそうです。

【レバノン情勢の影響に悲観的】

(Q・もう一度、人々の日常生活について教えてください。住民がどのように苦しんでいるのか、詳しく教えていただけますか?)

 レバノンに対する戦争がガザ地区の戦争とあまりにも密接に関連しているため、人々は悲観的になっています。人々は、イスラエルはレバノンでの戦いに多くの期間を必要とするだろうと考えています。

 ガザ地区に対する戦争は今後数年にわたって続くでしょう。イスラエルだけでなく、イランもガザ地区とレバノンの両方の戦線に介入しているからです。

 ご存知のように、イスラエルはレバノン南部での地上作戦に、さらに部隊を投入し、増強しています。最初は1個師団で開始しました。その後、2個師団、3個師団と増やし、数日前には4個師団まで増強しました。つまり、イスラエルは現在、レバノン南部で4個師団を投入して戦っているのです。それによってヒズボラを北部に押しやっています。

 2つの戦線が互いにリンクしていることが明らかになっているため、ガザ住民は非常に悲観的です。北部での戦闘が終結しない限り、ガザでの戦争は終わらないでしょう。

【強制的な人口移動の可能性も】

 そこで避難民たちは人びとは今、防水用のナイロンを追加したりして、テントを補強しようとしています。なぜなら、今は秋で、これから雨が降るだろうとわかっているからです。人びとはテントでの生活に適応し始めています。つまり、家や建物に固執するのではなく、この冬もテントの中で過ごすことに適応し始めているのです。

 人びとは非常に不機嫌になっています。彼らは、戦争はあと6~8ヵ月、あるいは1年は続くのではないかと考えています。

 心理的な状況は何も改善されず、同じ悪い状況が続いています。人びとの間には同じ感情、つまりフラストレーション、憂鬱、不安があります。人びとは、この戦争の終結が見られるという希望を失いつつあります。

 イスラエルが北部の全住民に対して人口移動を行うのではないかという不安もあります。国連によると、ガザ北部にはまだ40万人が住んでいると言われています。ジャバリアでの作戦はガザ地区北部でのより広範囲な作戦の序章に過ぎず、北部の住民は強制的に立ち退きを迫られ、南部に完全に移住させられるのではないか、今度こそ強制退去させられるのではないかと恐れています。

 これが人びとの一般的な感情です。停戦交渉や人質交換の話はもはや何も聞こえてきません。

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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