2018年の3つの断水。なぜ水は止まったのか?
1 大阪府北部地震と断水 水道管の老朽化
【大阪府北部地震のデータ】:6月18日午前7時58分発生、最大震度6弱。被害は、死者4人・負傷者434人、最大時の断水9万4000戸・停電17万戸、損壊2万7978棟。
この地震では「老朽管(老朽化した水道管)」に焦点が当たった。「大阪府は水道管の老朽率が全国ワースト1位だから水道管が破裂した。なぜこれまで更新が行われないかのか」とメディアは伝えた。
しかし、それほど単純な話ではない。
まず、メディアが伝える「老朽管」は「法定耐用年数40年を超えた管」のことなのだが、法定耐用年数を超えたら水道管がまったく使えなくなるわけではない。実際には50〜60年使っている。
そもそも、法定耐用年数40年を経過した管路は「経年化管路」、法定耐用年数の1.5倍を経過した管路は「老朽化管路」という定義があるのだが、そういった説明は一切されなかった。
次に大阪府がワースト1と言っても、データがとれた水道事業者のなかでの話であって、小さな水道事業の中には、「はて、うちの水道管はいつ頃埋設したのか?」などと実情を把握していないケースもある。
そして、大阪符だけ水道管ボロボロというわけではない。財源不足で交換したくても、少しずつしか交換できないというのが日本の水道の現状だ。
政治家が「地震で水道管が壊れた。水道事業者はこれまで何やってたんだ!」というのは、わかりやすいキレ方ではあるが、真剣にまちの将来を考えず、安易に「水道料金値下げ」を公約して当選した首長や議員も多いので、反省を促したい。
また、地震が起きれば必ず被害は出るので、そのときいかに迅速に復旧するかという視点が大切になる。
大阪府北部地震のケースで言えば、被害の大きかった高槻市の老朽管の割合は全体の13.9%と低く、基幹管路耐震適合率も50%と全国平均(38.7%)を上回っていた。それでも強い揺れで水道管は壊れた。
水道管が老朽化し、老朽化した水道管の更新は急務。これは事実だが、すぐにすべての老朽化した水道管を新品の耐震管にすることができないのも事実だ。「水道が民営化されれば老朽管対策が進む」という声があるが、それはない。むしろ災害時の緊急給水や迅速な復旧に対し、万全の体制ができているかが大切だ。
2 西日本豪雨と断水 小さな水道の停止
【西日本豪雨のデータ】:6月28日~7月8日。九州北部・四国・中国・近畿・東海地方の多くで観測記録を超える降水量。被害は、死者224人・行方不明者8人・負傷者424人、最大時の断水26万3593戸、損壊5万1605棟、農林水産関係被害額3306億2000万円。
ここでは小さな水道について考えてみたい。豪雨から3か月が経過しても、広島県呉市の被災地では断水が続いていた。
呉市安浦町では、公営水道が一部にしか敷かれておらず、地域住民が「小さな水道」を管理していた。
施設の復旧には多額の費用がかかる。地域住民は支援を求めるが、呉市は「"民間の水道"の修繕に税金は使えない」としていて、復旧の見通しが立っていない。
この「民間の水道」という表現が誤解を生んだ。この場合、「地域住民が自主管理する水道」という意味だが、「民営化された水道事業」と勘違いされ、「水道が民営化されると災害が発生した際に整備されなくなる」などの声がネットに広がった。
一般的にはあまり知られていないことだが、水道は利用者数によって、名称が変わる。
上水道は利用者数が5001人以上。
簡易水道は利用者数が101人から5000人。もちろん施設が「簡易」という意味ではない。それらは上水道と同一の基準が適用されている。全国簡易水道協会によると、全国には5133の簡易水道がある(2017年3月31日現在)。
飲料水供給施設は給水人口50人以上100人以下。「水道法」では利用者数101人以上を「水道」と定義しているので、厳密には水道ではないが、水道に準ずる扱いを受け、簡易水道と同様、検査や補助を受けられる場合もある。
簡易水道や飲料水供給施設以外にも、さらに利用者の少ない「小さな水道」が日本各地に存在する。
呉市の被災地域のように、地域住民が組合などをつくって自主管理するケースも多い。取水施設は整備から数十年が経過し老朽化が目立ち、人口減少で組合の収入も減少。加えて水道管の埋設状況も管路図が残されていないケースもあり、今後の管理に不安が残る。
大きな流れとしては統廃合が進んでいるのだが、山間部等に分散した施設の統廃合は、管路施設のコスト増大をまねくだけでなく、運用時の環境負荷やリスク分散の視点でマイナス面もある。人口減少により給水区域の再編や廃止等が予測される場合は、地域特性に応じたあらたな分散処理システムが提供される必要がある。
関連して、岩手県雫石町の「小さな水道」ことにも触れておこう。
小さな水道を管理する企業が利用者である住民に対し、「料金を支払わねばと水を停める」と言い出した。これについてメディアは「水道法が改正された途端に起きた」「水道が民営化されれば今後各地で起こり得る」などと報じている。
この点について少し落ち着いて考えてみよう。
まずは、この水道の仕組みや成り立ちについて。この場所は、岩手山山麓の岩手高原スノーパークに隣接する長山岩手山地区で、1970年代前半のリゾート開発で誕生した。
民間業者が開発したペンション村は、雫石町の居住エリアから離れているため、そもそも町の上下水道は引かれず、ポンプで井戸水をくみ上げる「専用水道」が整備された。
専用水道の管理会社はこれまで4度入れ替わり、今年からイーテックジャパン(仙台市)が管理運営している。
給水対象は35軒程度。水道使用料は、宿泊客のあるペンションが1立方メートル当たり140円。住宅や別荘、土地のみの所有者は、使用量にかかわらず、施設維持管理料として年間1万6200~3万2400円を支払ってきた。
この水道は「専用水道」というものである。専用水道の定義は「100人を超える人の居住に必要な水を供給する水道」だが、それより人数が少なくても「飲用その他人の生活の用に供する1日最大給水量が 20立方メートルを超える水道施設」であれば専用水道である。
ここの場合、整備当初から民間によって管理運営されている。水道法の改正以前からこの形態をとっているので、「水道法が改正された途端に起きた」は事実であるが、水道法改正で新たなに定められたコンセッション方式の導入とは関係ない。
次に問題の発生と経緯について。11月22日に、専用水道の管理を行うイーテックジャパン社(以下イ社)が説明会を開催した。参加した住民によると「揚水ポンプ(井戸水をくみ上げるポンプ)にかかる電気料金が高くなっているため負担を求められた」という。
その後、9、10月分の揚水ポンプにかかる電気料金、約51万円を東北電力に滞納していることが判明。同社はてきた。
12月3日、イ社から住民に対し、1世帯あたり約1万5千円の追加負担を求める通告があり、電気が止められる12月17日に「水道供給も止める」との書面が配られた。
12月8日の説明会において、住民はイ社に対し、経営悪化の経緯や電気代高騰の理由などについて事業者に問いただしたが、明確な回答は得られなかった。
12月17日、住民はとりあえずイ社に代わって11、12月分の電気料金を一時的に立て替えて東北電力に支払い、ADR(裁判外紛争解決手続き)を利用してイ社と協議することを検討している。
雫石町は住民側から相談を受け、説明会に出席を試みたが、事業者側に断られた。専用水道の管轄は県のためで、町でできることは限られている。また、民民の契約問題に行政は介入できない。
では、この件から何を学ぶべきか。
まず、料金は基本的に、かかったコストを利用者で頭割りにするしくみだ。コスト増加と利用者減少で料金は上がる。このしくみを頭に入れた上で、住民と企業は以前から水道の持続について話し合いを行うべきであった。
住民の一人は「水道を引いてから40年以上経ち、漏水を起こしてポンプ代がかかっているのかもしれない」とコストの変動要因について話しているし、イ社は「施設維持管理料など住民の未払い金が計140万円に上り経営を圧迫している」と利用者減少(利用者未確認)について言及している。
この状況はさらに悪化していくはずなので、水道の持続について真剣に考えるべきだ。
また、この水道は公共水道ではなく、自己責任で行う水道である。住民とイ社の双方に、自分たちの水道という意識が希薄ではなかったか。契約について互いに責任をもち、情報を共有し、将来について考えていかねばならなかった。
3 台風21号と断水 停電による断水
【台風21号のデータ】:9月4日正午徳島県上陸・近畿地方縦断に伴い西日本から北日本に非常に強い風、四国・近畿に猛烈な雨・風。観測記録を超える高潮。被害は死者14人・負傷者943人、最大時の断水1万6490戸、損壊5万0954棟、農林水産物関係被害額442億2000万円。
ここでは水道とエネルギーの関係に注目したい。
水道事業はたくさんのエネルギーを使う。日本全国の水道事業で使われる電力は、1時間に約80万キロワットあり、これは原発1基分の電力に相当する。ダムなどの水源から取水し、浄水施設で浄水する過程でもエネルギーが使われるが、とりわけ大きいのがポンプで加圧し、水を運ぶ過程だ。
関西電力によると、管内の電柱約1400本が倒れ、最大約170万戸が停電した。電柱の被害は広範囲に点在し、停電が完全に解消されるまで17日を要した。停電件数は阪神大震災に次ぐ規模だった。
高層階まで送水する必要のあるマンションでは、電動ポンプで水圧を上げたり、屋上の受水槽に水を送ったりしている。当然、停電すると作動しない。厚生労働省によると、台風21号で最大1万6490戸が断水し、9割近くは「停電に伴うポンプ停止」が原因だった。
水が停まる理由はさまざまだ。
ここでは、水道施設の老朽化、水道の規模と人口減少、エネルギーの問題をとりあげた。
今後も多くの災害が発生することが予測される。自分の使っている水道がどのようなしくみになっているかを普段から把握し、災害時の対応を考えておくとよいだろう。