日本女子サッカーにダイヤモンド世代が登場!U-17W杯に臨む伸び盛りの“リトルなでしこ”の魅力
【才能あふれる新世代】
大人顔負けの技術やパワー、そしてスピードを持った選手たちが揃っている――。
なでしこジャパン、ヤングなでしこ(U-20女子代表)のさらに下の世代、U-17女子代表、通称「リトルなでしこ」。この世代は、以前から関係者が「傑出した才能が集まっている」と声を弾ませて話すのを耳にしていた。そのリトルなでしこが、来年2月にインドで開催予定(開催地は変更の可能性あり)のU-17女子W杯を控え、10月25日から29日まで福島県のJヴィレッジで候補合宿を行った。
強く、そして正確なパスが、選手たちの技術の高さを証明していた。ボクシングでミットを打つ時のように、「パン!」と、軽快な音を響かせながら、ボールが芝の上を行き交う。
27日に行われたトレーニングマッチの相手は、一回り体が大きく、筋肉質で体格のいい東日本国際大学附属昌平高校男子サッカー部だった。ほぼ同年代の相手に、結果は1-3で敗れたものの、内容面では見どころの多い戦いを見せた。
リトルなでしこの中盤には150cm台の小柄な選手も多い。だが、正確なパスとトラップ、ピタリと合った動き出しで、伸びてくる相手の長い脚をかわしながら攻め込んだ。相手のプレッシャーの中でも前を向いてボールを進め、味方がパスを受けられる状況でなければしっかりボールをキープして次のタイミングを探る。ミスも起こったが、一つひとつのプレーに迷いがなく、力強くつながるパスに目を見張った。前線にはスピードのある選手が多く、タッチライン際では積極的に1対1の勝負を仕掛けた。1部のセレッソ大阪堺レディースで活躍する16歳のFW浜野まいかが脚力勝負で相手を抜き去れば、昨夏のインターハイで日本一に輝いた十文字高校の16歳、FW藤野あおばが緩急をつけたドリブルで競り勝ち、チャンスを作った。前から来る相手のプレッシャーを流れるようなパスでいなして決めた同点ゴールは圧巻だった。
このチームは昨年9月にタイで行われたAFC U-16女子選手権タイ2019(兼U-20女子W杯2020アジア予選)で優勝し、アジア王者として来年2月のU-17W杯に臨む。
チームを率いる狩野倫久監督は、現役時代にブラジルでプロとしてプレーした経験を持ち、2015年からJFAナショナルトレセンコーチとして関西を中心に女子の育成年代を指導しており、多くの才能を育ててきた。新世代にスキルや身体能力が高い選手が多い理由や、その中で選出する際のポイントについて、狩野監督はこう明かす。
「育成年代から日本の女子サッカーが積み上がってきた中で、テクニックだけではなく、フィジカル的な要素やメンタル的な要素も培ってきて、レベルの高い選手が上がってくるようになったことはあると思います。選手選考は、強度の高い中でその選手が自分をどれだけ発揮しようとしているのかということに加えて、試合前後の取り組む姿勢や声かけ、負けた時にどういう立ち居振る舞いをしているかも見ています。テクニック、技術、戦術、メンタルだけでなく、パーソナリティも見るようにしています」
選手たちは練習の合間のちょっとした時間も惜しむようにボールを蹴っていた。自分たちでスローインの場面を想定し、3対3で相手の逆を取るコンビネーションなどを自分たちで考え、実践する場面も見られた。
チームとして目指すのは、攻守にわたってアグレッシブなサッカーだ。そして、狩野監督がトレーニングのメニュー作りにおいて大切にしているのは、「感覚的かつ論理的」であることだという。試合に近い状況設定の中で、勝負や駆け引きの要素を高める工夫がちりばめられており、練習中にかける声は、いいプレーと改善できるプレーの線引きが明確だ。一つのメニューをある程度こなせるようになってくると、「アドリブOK!どんどん自分たちで作っていこう」と、個々の発想力を引き出す声がかかる。
「自分自身、海外でプレーしていた経験があるので、『誰かにやらされて、やる』ことはなかなかうまくいかないと感じています。選手たちの『やりたい』『相手に勝ちたい』『ライバルに負けたくない』という思いに対していろんな投げかけをして、選手が主体性を持って目標に向かっていけるようなアプローチを心がけています」
選手たちは常に「チャレンジすること」を求められる。育成年代で吸収力の高い時期だからこそ、ポジティブな失敗は多ければ多いほどいい。そのために、まずは個々が「自分の殻を破る」ことが大切になる。
サポートするスタッフには、なでしこジャパンが2011年ドイツW杯で優勝した時に同行したトレーナーや、U-20女子W杯で優勝した際に同行したドクターなど、タイトルを獲ったチームを支えたスタッフの名前もある。そうしたスタッフが選手たちに成長のヒントを授けると、自分たちから積極的に変えていこうとするのだという。選手たちの吸収力の高さを生かす環境が整っているのだ。
【躍動する個性】
昨年のアジア予選でキャプテンを務めたGK野田にな(日テレ・東京ヴェルディメニーナ)は、このチームの良さについて、「守備の粘り強さ」を挙げた。
「最後、打たれるか打たれないかのところでスライディングしたり、FWの選手が後ろまで戻ってきて守備をするなど、全員が失点しないことにすごくこだわってやっているのは強みだと思います」
野田自身はビルドアップを得意としており、攻撃のスイッチを入れる。リーダーシップの面では、チームがうまくいっていない時にプレーや声でチームを盛り上げることを大切にしている。目標とするのは、トップチームのベレーザの守護神で、フル代表でも活躍するGK山下杏也加だ。
「迫力があって、『絶対に守ってくれる』と信頼されて、代表のゴールも守っています。自分もあんなふうに、いろんな人から信頼されるようになりたいですね」
攻守のスイッチ役になる前線にも個性が揃う。中でも目を引いたのが、男子高校生とのトレーニングマッチで、快足を生かしたプレーを随所に見せていた浜野まいかだ。オフザボールの動きの質も高く、相手DFを置き去りにする動き出しや、ドリブルの速さは、代表選手が揃う今季のなでしこリーグ1部でも光る。現在、リーグ首位を走る浦和レッズレディースが今季、唯一敗れたのがC大阪堺であり、その試合で決勝点を決めたのが浜野だった。今季、浜野はここまで15試合で5得点を決めており、GKとの1対1を冷静に決める姿も印象的だ。ゴール前でのGKとの駆け引きは、ファーストタッチと「直感」を大切にしているという。
「このチームのいいところは、みんな仲が良くて、いつも笑顔が絶えないところだと思います」。屈託のない笑顔でそう語る素顔からは想像できない、ピッチ上でのキレキレのプレーとのギャップが面白い。W杯で決めたいゴールの数を聞くと、少しはにかみながら「7点取りたいです」と答えた。
同じく、トレーニングマッチで強烈な印象を残した藤野あおばは、高校女子サッカー界ですでに才能を輝かせる期待の星だ。日テレ・東京ヴェルディベレーザの下部組織のセリアス出身で、18年には全日本U-15女子選手権大会で得点女王にも輝いている。
合宿中、左足で強烈な弾道を何度も飛ばしていたのでレフティーかと思ったが、本人によると利き足は「右」。両足で打てるように意識的に取り組んでいるのだという。トレーニングマッチでは、「1対1のシーンではなるべく多く仕掛けて、取られてもその後の切り替えができればいいと思っていました。スピードを生かすこと、足下と背後のバランスと良い判断をすることを意識しています」と振り返った。
そのスピードは、守備でもチームを助ける。トレーニングマッチで2トップを組んだのは、アジア予選MVPで、168cmの長身ストライカー、FW西尾葉音(にしお・はのん/浦和レッズレディースユース)。2人で声をかけ合いながら守備のスイッチを入れていた。
フィジカルも強く、堂々とした立ち居振る舞いも頼もしい藤野は、スケールの大きなストライカーになりそうだ。
中盤も個性が躍動している。INAC神戸レオネッサの下部組織、レオンチーナ所属のMF天野紗(あまの・すず)は、ボランチで、相手の攻撃の芽を摘むボールハンターだ。「自分の特徴であるボール奪取は誰にも負けたくないですし、攻撃面では、攻撃のテンポを出していくところも負けたくないです」と話すように、トレーニングマッチでは体をうまく使い、スマートにボールを奪うシーンが見られた。年代別代表では13歳の頃からプレーしており、止める、蹴るといった基本技術が総合的に高い。アジア予選では決勝の北朝鮮戦でも先制点を挙げて優勝に貢献しており、ここぞという場面での攻撃参加にも期待できる。憧れの選手はINACで活躍するMF杉田妃和。「いろんなポジションができて運動量が豊富で、常に安定したプレーができているところ」が目標だという。
そしてもう一人、ボランチのMF大山愛笑(おおやま・あえむ/日テレ・東京ヴェルディメニーナ)も、この世代で名を知られた選手の一人だ。昨年、14歳でトップチームデビューを飾り、代表選手たちの中でも堂々としたプレーぶりが話題になった。巧みなフェイントで相手の逆を取り、長短自在のパスでゲームをコントロールする。「小さい頃からドリブルの練習をたくさんしてきました」というボールタッチと、独特のステップが印象的で、南米のリズム感を想起させた。目標は、ベレーザでアンカーを務める三浦成美だという。
パスを出す時は、「常に前の選手の動きを見ることと、いいパスを通せるように、お互いに目を合わせることを意識しています」と、周囲の状況にも目配りを欠かさない。ミドルシュートも得意としており、W杯ではチームを勢いづける一発にも期待したい。
世界的な新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、当初、今年11月に行われる予定だったU-17W杯は来年2月に延期された。しかし、ホスト国は当初と変わらずインドでの開催が予定されている。インドは感染者の数がアメリカに次ぐ世界2位で、1日あたりの新規感染者数はピーク時よりは減少傾向にある(11月1日現在、ロイター集計)ものの、国際大会を開催できる状況にあるかどうかはわからない。
FIFA(国際サッカー連盟)からはまだ発表されていないが、直前で開催地が変更される可能性もある。その点は、代表チーム側も最新の情報収集に努めているという。不安定な状況ではあるが、狩野監督は、「一番大切なのは、選手たちがこの年代で国際経験をすること」と話す。それは、この年代のポテンシャルの高さを知る人々の総意でもあるだろう。
活動を再開した8月末の合宿時に、チームは新たな約束を作った。それが、「ワールドカップまでの期間で最も成長するチーム・選手になる」ことだ。その目標に向かってチャレンジし続ける、若きなでしこたちの成長を引き続き見守っていきたい。
※文中の写真はすべて筆者撮影