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42歳で大晦日のリングに上がる五味隆典が、UFCのオクタゴンで「スカ勝ち」して輝いた10年前の夜

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
2010年8月、グリフィンをKOしてUFC初勝利を挙げた五味隆典(撮影:三尾圭)

 12月31日にさいたまスーパーアリーナで開催される RIZIN.26で、31歳の皇治とスペシャル・エキシビションマッチを戦う42歳の五味隆典が3年ぶりに大晦日のリングに帰ってくる。

 五味が試合をするのは、2018年7月のRIZIN.11でメルヴィン・ギラードにKO勝ちして以来。大晦日の試合は2017年の年末に矢地祐介に三角絞めで敗れて以来だ。

 日本の格闘技界を支えてきた五味には、大晦日のリングがよく似合う。

 PRIDE全盛期だった2000年代半ば、五味は2004年から06年まで3年連続で大晦日のリングに上がり、3試合全てで1ラウンドKOの「スカ勝ち」で、さいたまスーパーアリーナとお茶の間のファンを沸かした。

 2006年の大晦日に石田光洋と戦い、左ストレートからのパウンドで1ラウンドKO勝ちした五味は、翌2007年2月24日にラスベガスで開催されたPRIDEでニック・ディアスと対戦。

 1ラウンドには右フックを炸裂させてディアスからダウンを奪ったが、その後は一方的に攻められて、2ラウンド目にフットチョークで敗れた。

 薬物検査でディアスからマリファナの陽性反応が出たために、試合はノーコンテストとなったが、日本では圧倒的な強さを誇っていた五味が敗れたのは明らかだった。

 日本格闘技界の砦だった五味がアメリカでマットに沈んだのと時を同じくして、五味をスターに育て上げたPRIDEも崩壊。アメリカ大会の次の大会でPRIDEは幕を閉じた。

試合はノーコンテストとなったが、ニック・ディアスに敗れた五味隆典(写真:三尾圭)
試合はノーコンテストとなったが、ニック・ディアスに敗れた五味隆典(写真:三尾圭)

戦極を経て、世界最高峰のUFCへ

 2008年は戦極へ戦いの場を移した五味だが、UFCのデイナ・ホワイト代表からの度重なるラブコールもあり、2010年1月にUFCと契約。ホワイト代表は五味にUFCデビュー戦でメインイベントを任せる厚遇で迎え入れた。

 「Florian vs. Gomi」と銘打たれた2010年3月31日の大会で、UFCのオクタゴンに初めて足を踏み入れた五味は、ケニー・フロリアンにチョークスリーパーを決められ、UFCデビュー戦を白星で飾ることはできなかった。

UFCデビュー戦で、ケニー・フロリアンにチョークスリーパーで敗れた五味隆典(写真:三尾圭)
UFCデビュー戦で、ケニー・フロリアンにチョークスリーパーで敗れた五味隆典(写真:三尾圭)

 五味は2017年まで世界最高峰のUFCで8年間、13試合を戦ったが、4勝9敗と大きく負け越した。

 UFCのでの4勝のうち、「スカ勝ち(KO勝利)」は2つ。1つは日本開催(さいたまスーパーアリーナ)となった2012年2月の試合で、このときは対戦相手のジョージ・ソテロポロスがケガで、相手は光岡映二に変更となった。UFCでの試合だが、場所は日本で、相手も日本人。

 もう1つのスカ勝ちは、UFC2戦目となったタイソン・グリフィン戦で、このときは1ラウンド、僅か64秒でKO勝ちする五味らしい試合で、「火の玉ボーイ」がUFCで最も輝いた瞬間だった。

五味、サンディエゴでの快心のスカ勝ち

 五味のUFC2戦目は、2010年8月1日にカリフォルニア州サンディエゴでのグリフィン戦だった。

 後にUFCの殿堂に入ったユライア・フェイバーにも勝ったことがあるグリフィンは、この試合の前までのUFC10試合で5度も「ファイト・オブ・ザ・ナイト(大会最優秀試合)」を獲得している名勝負製造機。

 五味は試合開始早々からグリフィンに襲いかかり、得意の右フックでグリフィンをマットに沈めた。

 スカ勝ちした五味は、興奮しながら金網に登り、アメリカのファンに勝利をアピール。五味のUFC初勝利を心待ちにしていたファンから大歓声を浴びたが、UFCからは金網に登ったことを怒られてしまった。

 グリフィンをKOした五味は、ファイトマネー以外にも、「ノックアウト・オブ・ザ・ナイト(KO賞)」のボーナスとして4万ドルを手にして、満面の笑みを浮かべて勝利を喜んだ。

UFC初勝利を1ラウンドのスカ勝ちで決め、勝ち名乗りを受ける五味隆典(写真:三尾圭)
UFC初勝利を1ラウンドのスカ勝ちで決め、勝ち名乗りを受ける五味隆典(写真:三尾圭)

 試合後の五味は、UFC初勝利の興奮がまだ冷めやらぬ様子でインタビューに応じている。

――前回のUFCデビュー戦と今回の違いは?

五味:気持ちの切り替えですね。崖っぷち感とか。やっぱり前回のフロリアンとは全く違うタイプですね。どっちかというとスタイルとスタミナで勝負するのはグリフィンの方だったので、負けたくないという気持ちはありました。フロリアンはうまいから、ちょっと噛み合わないというか、技術的にまだ追いついていないと感じましたね。グリフィンのようなガッツのある選手とやることで、試合運びのうまい選手ともやっていけるようになると思います。

――UFCデビュー戦が一本負けだったので、今回はさらにプレッシャーが掛かったということはないですか?

五味:2度目なのでリラックスできました。1週間近く米国に滞在することや、イベントの進行なんかにも慣れてきましたし

――グリフィンがレスリング中心ではなく、打ち合いを挑んできたことに驚いたか?

五味:彼のボクシングは警戒していた。とにかく前に出てくる選手なので、自分も下がらないように気をつけた。

――アメリカのファンを大熱狂させたが?

五味:ファンに受け入れてもらうには、自分でいいパフォーマンスを見せていくしかないと思っています。今日は喜んでくれたと思いますね。金網に上ったのは怒られたので、今後は気をつけます。あんなに怒られるとは思わなかったですね。やっぱり神聖なものなんじゃないですか?

――ノックアウトした直後の気持ちは?

五味:やることがなくなっちゃってパニックになってしまって、お客さんを喜ばせるためには、もう金網に上るしかないかなと…。金網の上から見たお客さんは最高でしたね。今後はあまりはしゃがないようにします。

――勝利ボーナスの使い道は?

五味:全て車のローンに当てます。この試合の前にちょっと無茶をしたので…。もうローン地獄で、不安で寝られないくらいだったので(笑)、キャッシュ一括で終わらせます。

――この勝利で日本の総合格闘技界の名誉を回復できたと思うか?

五味:今後を見て判断してください。

――セミでは岡見勇信も勝利。日本人選手がオクタゴンで2勝を挙げた今大会は、日本格闘技界にとってどんな意味を持つと思うか?

五味:日本人二人が勝利したのは素晴らしいですね。世界でも通用するんだなと思いました。頑張り次第で、通用するってことを証明できたと思います。

――UFCで戦う理由は?

五味:ジムの家賃と車のローンを払うためです。それは半分冗談で、かなり本当の部分もあるんですけど、同じ世界中のファイターに巡りあうために練習をして、金網に入ってお互いに力を出し合うというのが好きなんですね。

――次の試合はいつ頃にしたいか?

五味:少し休んで、やっぱりUFCといえば年末のラスベガス大会なので、それを目標に練習をしたい。

――次に戦いたい相手は?

五味:タイトル戦線をしっかり見ながら…。これからしばらく勝ち続けないとタイトルには絡めないと思うので、しっかり一つずつ勝っていきたい。

試合後に笑顔でインタビューに応じる五味隆典(写真:三尾圭)
試合後に笑顔でインタビューに応じる五味隆典(写真:三尾圭)

 UFCでは望んでいたような戦績を残せずに、ベルトに絡むこともできなかったが、世界最高峰の舞台で8年間も戦った経験は唯一無二のものだ。

 レジェンド枠として出場する大晦日の大会だが、五味は引き立て役になるつもりも、次の世代にバトンを受け渡すつもりもまだない。

大晦日に五味がスカ勝ちする姿を久しぶりに見せてもらいたい。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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