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花粉とマイクロプラスチックは似たもの同士?

田中淳夫森林ジャーナリスト
トウモロコシの花粉。飛び散った後、何万年も残り続けるかもしれない。(写真:アフロ)

 このところ屋外でくしゃみや咳をしたら新型コロナ肺炎を疑われるようになってしまったが、花粉症の季節である。暖冬のおかげかスギ花粉の飛散も早まったようだ。舞っている花粉は、どこに行くのだろう……とスギ林を眺めてしまう。

 そこでふと連想したのが、マイクロプラスチック問題。世界中の土壌や海水などにプラスチックが小さな破片(およそ5ミリ以下)になって混ざっていることが新たな環境汚染と認識されるようになって、ストローやレジ袋がやり玉に上げられるようになった。

 マイクロプラスチックがなぜ問題なのかと言えば、何より分解しないことである。魚類から貝類、あるいは鳥類や海洋哺乳類が誤嚥してしまい、消化できないため病気になるというものだ。最近では人間の食するものにも多く混ざっていることが発見され始めた。分解しないから、自然界の物質循環に属さず溜まり続けるのだ。

 その指摘に異議はない。私も深刻な問題だと思う。ただ、その際に「自然界で生まれるものはすべて分解されるのに、プラスチックが分解しないのは人工的に合成された物質だから」といった解説がされているものが目についた。人がつくったものは邪悪である、とする思想があるかのようだ。

 それは違うだろう。自然界にも難分解性の物質はいろいろある。

 なかでも、身近なのが花粉である。

 花粉(と胞子)は、なかなか分解しない。ときに数万年、いや数億年経っても残っている。なぜなら、花粉の細胞には、DNAを安全に保管するための非常に頑丈な細胞壁があるからだ。それはスポロポレニン(sporopollenin)と呼ばれる高分子有機物から成るが、非常に分解されにくく、アルカリにも酸にも溶けない。普通の有機物なら、紫外線や熱で構造が壊れる。微生物によって分解されていくものだが、花粉の外壁は、長時間経っても保存されるのだ。

 とくに湖底や海底などに堆積した場合、酸素濃度の低い環境に置かれるから、より分解されにくくて残る。それを微化石と呼ぶ。生き物そのものではなく、細胞だけが化石化するのだ。

 花粉は植物の種類ごとに形や大きさが違う。だからていねいに観察すると、その花粉をつくった植物の種類が同定できる。だから古い地層に含まれる花粉を分析することで、当時生えていた植物の種類を調べ、その植物の生育できる環境がわかる。それによって、当時の気候や地域の状況などを推定することが可能になるのだ。(これを花粉分析という。)

 たとえば縄文時代には、すでに日本列島の1~2割が草原だったと言われるのも、草原性の植物の花粉が大量に見つかっているからだ。またイネなどの栽培が始まっていることも確認されている。また、当時の気温もだいたい導き出すことができるだろう。

 もう一つ。(天然)樹脂も分解しない。プラスチックのことを合成樹脂というが、そもそも樹脂はその名のとおり植物(主に樹木)がつくる樹液が固まったものだ。そして揮発成分が抜けて固形化すると、非常に難分解性になる。それを模してつくられたのが合成樹脂なのだ。

 わかりやすいのは琥珀だろう。樹脂が長い年月のうちに化石化するが、それは数億年経っても変化しない。琥珀の主成分は高分子のイソプレノイドだが、難分解性だ。映画「ジュラシックパーク」では、琥珀の中に閉じ込められた蚊の身体から恐竜の血を取り出し、そのDNAを抽出するシーンがあったが、そんなアイデアが生まれたのも、樹脂が分解しないからだ。

 ほかにウルシなども分解しない。だから数万年前の遺跡からウルシの塗られた器具などが発掘されている。

 そう考えると、現在の花粉症をもたらしているスギ花粉なども、長い年月のうちに地層に溜まって行くはずだ。そして遠くの未来人が「この時代はスギの大森林があった」と知る貴重な証拠とするかもしれない。

 考えてみたら、胞子や花粉を出す植物が登場した古生代より数億年。膨大な植物が出し続けた胞子と花粉の量は、積もり積もってどれほどの量になっているか。たかだか100年ぐらいの間に生産されたマイクロプラスチックより多いかも。

 もしかして未来の人も、古い地層から見つかるマイクロプラスチックを花粉か樹脂の一種と間違うこともあるかもしれない。そうしたらどんな植物が生えていたと考察するか。プラスチックを花開かせる植物の大森林があったとか……そんなことを想像したら花粉症のくしゃみの一つや二つも楽しめるのではなかろうか。(え、ムリ?)

※マイクロプラスチックの問題点には、そのプラスチックに有害物質が吸着されている点なども指摘されている。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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