2月28日に東京・国立競技場で行われた、パリ五輪出場を懸けた女子アジア最終予選。女子日本代表(なでしこジャパン)vs女子北朝鮮代表の試合は、日本が2-1で勝利し、2大会連続6回目の本大会出場を果たした。
この試合については、すでに大量の情報が流布されている。本稿では激闘の模様を写真で振り返りつつ、この勝利の「重み」について考えてみたい。
サウジアラビアでの第1戦は0-0のドロー。東京での第2戦では在日朝鮮人のサポーターが祖国の代表を後押し。
選手入場でのドローンによる演出。東京タワーからエッフェル塔にトランスフォームすると歓声が起こった。
なでしこジャパンの池田太監督。第1戦では4バックの前にアンカーを置いたが、この試合では3バックを選択。
前列右から、長谷川、北川、藤野、長野、清水。後列右から、田中美、山下、高橋、上野、南、熊谷(C)。
第1戦では出番のなかった北川。左のワイドから積極的に仕掛けるが、北朝鮮の分厚い守備が立ちはだかる。
日本は26分に先制。北川のFKから、田中美のヘディングは相手GKとバーに阻まれるも、最後は高橋が詰めた。
45分に失点の危機。チェ・クンオクがヒールでゴールを狙うも、山下がラインぎりぎりでボールをかき出す。
後半は北朝鮮ペースの時間帯が続き、次第に重心が低くなる日本。ここでも山下のファインセーブに救われる。
その後、中盤の構成力で活路を見出そうとする日本。上野がスペースを作り、藤野が飛び込むシーンが増える。
決定的な2点目は、長野のロングパスから。右サイドの清水が追いつき、相手DFを抜き去ってクロスを供給。
これに藤野がヘッドでネットを揺らす。77分に追加点を挙げた日本は、パリへの切符を一気に引き寄せた。
その5分後、北朝鮮はキム・ヒヨンが抜け出して1点差とする。日本の選手たちは、すぐに集まって意思統一。
終盤、日本は攻めの姿勢を鮮明にする。中盤の底からパスを供給していた長谷川も、自ら持ち込んで前線へ。
交代カードを温存していた日本は、89分に北川と田中美を下げて古賀と植木を投入。前線での圧力を強める。
アディショナルタイム5分を経てタイムアップ。楽な時間帯がほとんどない180分間を日本が見事に制した。
試合後、能登半島地震の被災地支援のバナーを掲げて場内を一周。北朝鮮のサポーターからも拍手が贈られた。
遅れてファンに挨拶する長谷川。この日はシュートゼロだったが、彼女のヒートマップはピッチ全域に及んだ。
最後はゴール裏のサポーターと記念撮影。ダウンコートを脱いで撮影に応じてくれた選手たちに感謝したい。 サウジアラビアでの第1戦から、中3日で東京での第2戦。移動距離の長さと気候の違いに加え、なかなか試合会場が決まらない「政治的な事情」にも翻弄された。そんな中で手にしたパリへのチケット。ちなみに日本の五輪予選突破は、澤穂希や宮間あやが健在だった、2012年ロンドン大会以来である。
FIFAが主催する女子ワールドカップは、日本が優勝した2011年大会までは16カ国の出場枠だったが、その後は24カ国(2015年)、さらには32カ国(2023年)と増加傾向にある。しかし五輪は16カ国のまま。今回の北朝鮮のような、本大会のノックアウトステージ進出が期待できるチームでも、大陸予選で涙を飲むという過酷ぶりである。
日本もまた、2016年のリオデジャネイロ五輪予選では、予選敗退という厳しい現実に直面。キャプテンとして初めて、五輪予選に臨んだ熊谷紗希は「女子サッカーの未来のためにも、絶対に勝たなければならないと感じていたし、それを選手全員に伝えた」と語っている。そうした思いの結実が、今回の結果につながった。
確かに試合そのものは、非常に見応えのあるものだった。その一方で、この勝利が持つ重みについても、われわれは思いをめぐらせるべきだろう。その上で、なでしこジャパンに関わるすべての人々に、心からの祝福と本大会へのエールを贈りたい。
<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>