名古屋港水族館の「寿司ネタ」特別展がシュールすぎると話題騒然!
名古屋港水族館の特別展「寿司ネタ大集合~水族館が斬る!寿司のいろいろ~」が話題となっています。生きた魚たちを“寿司ネタ”として寿司のサンプルや調理動画と一緒に見せる展示に、SNSでは「サイコパスすれすれ」「食育にはよさそう」「クレイジーだ」などのコメントが飛び交い、Togetterに「まとめ」ができるほど注目を集めています。
足を運んでみると、水槽の前に行列ができるほどの大人気。「おいしそ~」「ヤバい、グロい!」などの声があちこちであがります。お客に感想を求めると、「食べてみたい!でもちょっとかわいそうかも…?」(女子大生のグループ)「タカアシガニがおいしそうだった。食べたい!」(8歳・4歳の兄弟)「ユムシの軍艦巻きの調理の映像がグロすぎ…!」(20代のカップル)と皆、インパクトある展示に戸惑いつつも楽し気です。
一部では、水槽で泳いでいる魚をその場でさばいて寿司にするとか、さらにはそれをお客が食べる、なんて誤解した情報もあるようですが、さすがにそんなスプラッターな演出はないのでご安心を。
担当飼育員に聞く!大胆企画の狙いとは?
命を大切に? それともおいしく食べたい? 鑑賞しながらもパラドックスに陥ってしまいそうなこの展示の狙いとは? 企画した名古屋港水族館飼育展示部の岡本仁さんにお聞きしました。
― 特別展の狙いは?
岡本 「“食”は人間にとって直接的な欲求ですから、誰もが興味を抱くことができる。お客さんが興味を抱きやすいテーマとして、食べ物と生き物を結びつけた展示をしようと考えました」
― 「寿司ネタ」に特化したことで魚たちが食材であることがリアルに伝わります
岡本 「寿司にスポットを当てたのは、日本人にはとてもなじみ深く、日本の食文化を象徴する食べ物という理由から。飼育員が寿司ネタとしての生物を水族館目線で紹介しています」
― 「かわいそう」という反応を示すお客さんはいませんか?
岡本 「そういう感想ももちろんあるでしょうが、私たちは生物の命をいただいて命をつないでいるし、海の生き物たちも他の生き物の命を食べて命をつないでいる。最近は、魚を切り身の状態でしか見たことがないという子どもも多く、命をいただいているという実感を抱きにくい。生きている魚と、日ごろ食べている寿司をあわせて展示することで、大切な命をいただいていることを分かりやすく伝えられればと思っています」
― 特に力を入れた展示は?
岡本 「『創作寿司 完全新作!水族館寿司』のコーナーです。世界最小のヒメイカや名古屋港に生息する外来種のイッカククモガニやチチュウカイミドリガニなど、本当の寿司屋にはない水族館ならではのネタを使った寿司を創作しました。我々飼育員が実際に調理したメイキング映像をモニターで放映もしています」
― 飼育員の皆さんが、これらの生き物で本当に寿司を作ったということですか?
岡本 「はい。すべて試食もしています」
― おいしかったネタは?
岡本 「一番おいしかったのはユムシです。ゴカイやミミズに近い生き物で、日本では釣りエサとしてしかほぼ流通していないんですが、韓国などでは食用にもされています。臭みがまったくなく、赤貝から貝特有の臭みを取ったような感じ。見た目のグロテスクさに反して上品な味わいでした(笑)」
― これらの創作寿司をお客さんが食べられるとより話題性が高まりそう
岡本 「衛生面のハードルが高く実現にはいたりませんでした。我々は自己責任で調理・試食していますが、商品として提供するとなるとそういうわけにはいきませんから。また、ヒメイカはあまりに小さいので1貫に50匹も必要。普段は展示するために我々が海に出て採取するのですが、2時間網をかけて100匹程度しか取れない。商品化するには非常にコスパが悪いんです(苦笑)」
― 展示全体の特色は?
岡本 「飼育にまつわるエピソードを伝えることを重視しています。イシダイは頭がよくてパフォーマンスを覚えることもできる、マダコも知能が高くしばしば脱走したり、水槽を掃除する際に足をからみつけてくる…など。また、展示している寿司の食品サンプルはすべてこの展示のために名古屋のメーカーにつくってもらったオリジナルです」
― 最後に岡本さんの好きな寿司ネタは?
岡本 「貝が好きですね。だからユムシの味も貝に似ておいしかったです。水族館の飼育員は大体、魚を食べるのも好きなんですよ(笑)」
常設展示も見どころいっぱい!「寿司ネタ」企画は6月2日まで
悪趣味なんて誤解されそうですが、魚が好きな(育てるのも食べるのも)飼育員の熱意と遊び心が注ぎ込まれた渾身の企画なのでした。解説にしっかり目を通すほどにその思いが伝わってくるので、時間をかけてじっくり観賞することをお薦めします。
他では見られない完全オリジナルのこの特別展は6月2日(日)まで。魚が好きな(観るのも食べるのも)人は是非足を運んでみてください!
(写真撮影/すべて筆者)