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配信グローバル2強に迫る国内トップが見据える次の時代 5G時代の放送と通信にも言及

武井保之ライター, 編集者
有料会員数217万人を超える動画配信サービスU-NEXT(提供:U−NEXT))

 エンタテインメント業界のなかでもコロナ社会が追い風となっているのが動画配信サービスだ。映像コンテンツのメディアが過渡期を迎えるなか、昨年1年間で3〜4年分の時代の進化が前倒しになったというU-NEXT代表取締役社長の堤天心氏に、グローバルプラットフォームとのシェア争いにおける国内サービスの強みと勝機、アフターコロナへの取り組み、5G時代の放送と通信のあるべき形を聞いた。

■配信をメインにしたビジネスにダイナミックにシフトした1年

 ここ数年でシェアを急拡大させている動画配信サービス。そのなかでも2007年の黎明期に定額制サービス(SVOD)をローンチした業界のパイオニアがU-NEXT。SVOD市場の2020年の売上シェアでは、Netflix、Amazonプライム・ビデオに続く3位となり、国内サービスとしてはトップ(GEM Partners調べ)。2021年2月時点の有料会員数は217.9万人を誇る。

 コロナ禍でエンタテインメント業界でも多くの業種が厳しい状況にさらされるなか、U-NEXTは昨年1年間で会員数が33%増加。動画配信サービスを含むOTTにおいては、コロナ社会の巣ごもり需要が追い風になっている。そんなデジタル配信市場を堤社長は振り返る。

「弊社は10年以上にわたって成長を続けています。そうしたなか、本来であれば3〜4年かかるタイムラインが、コロナという強制的な社会情勢によって昨年1年間で一気に前倒しになりました。映像業界では、それまでの放送&パッケージファーストからデジタルファーストに考え方が切り替わりつつあり、配信をメインにしたビジネスへとダイナミックにシフトした1年でした」

■ワーナーメディアとの提携でHBO Maxコンテンツ投入、2強に迫る

 好機が訪れている一方、拡大の一途をたどる市場において競合サービスとのシェア争いはより熾烈を極めている。前述のグローバルプラットフォーム2強は、コンテンツ力で圧倒的な優位を誇っている。

 国内サービスであるU-NEXTは、米メディアグループのひとつであるAT&T傘下のワーナーメディアとの提携により、4月よりHBOの映画やドラマ、HBO Maxオリジナルなどの新作や日本未公開コンテンツの日本独占配信をスタート。これまで2強サービスとの大きな差になっていたオリジナル米国コンテンツの部分で肩を並べることになった。

「HBOは幅広いジャンルの魅力的なラインナップが揃っており、この提携によって米国ドラマにおけるNetflixの年間ラインナップの数、質と比較しても遜色ない、同等以上の強力な編成を築けています」

 一方、国内サービスであるU-NEXTの強みであり、独自の付加価値になっているのが、電子書籍を組み込んでいること。会員の4人に1人が利用しており、映像作品を観た後にその原作を読む、またはその逆もあり、ユーザーの満足度も高いという。

「映像作品とその原作コミックや小説の両方を楽しんでいるユーザーは多い。とくに原作の映像化が相次いでいる日本では、映像を楽しむ人が原作も読むという消費行動が活発です。ひとつのサービスで電子書籍と映像を扱っていくのは重要な戦略になります」

■競合サービスのなかで会費が割高なU-NEXT、対策を検討

『レイズド・バイ・ウルブス / 神なき惑星 シーズン1』U-NEXTにて独占配信中(C)2021 WarnerMedia Direct LLC. All Rights Reserved HBO Max
『レイズド・バイ・ウルブス / 神なき惑星 シーズン1』U-NEXTにて独占配信中(C)2021 WarnerMedia Direct LLC. All Rights Reserved HBO Max

 ただし、U-NEXTは月額価格が競合サービスのなかで割高だ(※)。国内サービスでは1000円を切るところも多く、シェア上位TOP3のなかでも一番高い。しかしそこにはSVODと都度課金型(TVOD)を組み合わせることで提供するユーザー体験へのこだわりがある。

「価格戦略はセンシティブな課題です。SVODはユーザーの求めるサービスのデファクトであり、TVODは新作映画のニーズが確実にあるので、両方をやりたい。そのハイブリッドのサービス世界を構想したときにポイントを取り入れたのがプランの背景です。今後、音楽配信を強化していく予定ですが、デジタルエンタテインメントすべてをひとつのサービスに統合することをプロダクトコンセプトにし、価格の納得感を形成していきたいと考えています」

 毎月ユーザーに付与されるポイントは、TVODや電子書籍のほか映画館の鑑賞券などにも使用できるため、実質的な価格は他サービスと変わらないばかりか、むしろ割安にも感じられる。しかし、他サービスとの比較においては割高感があることも事実だ。

 堤社長は「ポイントがあることでコミックと映像の組み合わせの購買にも効果的にワークしている手応えがあります。ただ、もっと安くという声があることは承知していますので、それにどう応えていけるか議論している最中です。具体的には、ほかのサービスと組み合わせることでトータルで割安にする方向性を検討しています」と語る。

■次のテーマはオリジナル 映像業界に必要な国際競争力

 ワーナーメディアとの提携で欧米コンテンツを拡充したU-NEXTの次のテーマは、オリジナル制作への取り組みだ。しかし、そこには日本の映像業界の課題がある。

「オリジナルの難しさは、原作が強い日本独特の出版文化とも絡み合っています。原作者や出版社の意向を反映した企画として具現化できるかが大きな課題です。また、日本ローカルの実写コンテンツを海外へどうスケールさせるのかもそう。そこに突破口を作るべくチャレンジははじまっていますが、海外からのニーズがある程度見えてきたら、日本のコンテンツ産業の風景が変わると思います」

 現状では、世界市場での回収見込みが立たなければ、巨額の制作予算を持つグローバルプラットフォームでない限り、ローカルオリジナルへの投資は難しい。堤社長は「グローバルでの回収でリクープさせている韓国ドラマは、日本市場を含めてアジアで大きな伸びを見せています。日本の映像業界はというと、まだまだ実写では世界市場での大きな成功体験がない。しかし、オリジナルを作って世界で成功させるトレンドを作らないと日本の映像産業の国際競争力が上がりません」と力を込める。

 一方、コロナ禍で進んだのが、コンテンツ制作のクロスボーダー化だ。OTT時代になり国際配給のコストが下がるなか、世界中のコンテンツがグローバル配給前提になりつつある。

「グローバル市場の活性化が近年の構造的な流れ。日本のコンテンツ産業が世界で通用するものを作るべきという考えは、業界内でも当然あるようです。アニメで成功している日本人が物語を作る能力で劣っていることはない。しかし、実写ではそこに何かが整わないといけない。弊社がその力になれればというささやかな思いはあります」

■アフターコロナでシュリンクの一方、新たなポテンシャルも

『タイトル:タイガー・ウッズ / 光と影』(C)2020 Home Box Office HBO and all related programs are the property of Home
『タイトル:タイガー・ウッズ / 光と影』(C)2020 Home Box Office HBO and all related programs are the property of Home

 世界中でワクチン接種が進み、いずれ訪れるアフターコロナの社会。そこでは、これまでのような追い風はなくなるかもしれない。それに対して堤社長は「いまの過剰需要がアフターコロナでシュリンクするのは考えられるシナリオです」と認めながらも、大きな時代の流れを強調する。

「長期のマクロで捉えたときに市場の成長基調に変わりはない。消費者の間で新たな生活様式が定着しているいま、かつての社会には決して戻りません。配信が映像メディアのファーストチョイスであるのは変わらないでしょう。

 一方、音楽やスポーツなどの興行ではリアルがメインになっていく。しかし、配信はペイパービュー(都度課金)の利便性が高い。ライブを会場で観るのがファーストチョイスですが、会場に行けない人は有料配信で楽しむ。リアルと配信のハイブリッドになっていくのではないでしょうか。配信にはユーザーがカメラアングルを切り替えて視聴できるような楽しみ方の広がりもあります。そういった価値にお金を払う文化が生まれるかというチャレンジをしています」

 アフターコロナでは、リアルと配信を組み合わせたさまざまなサービス形態や演出が生まれてくることだろう。そこからいろいろな成功パターンが生まれることで、業界におけるデファクトが作られていく時代に突入する。

■5G時代に陳腐化する放送に縛られる必然性

 テクノロジーと密接に関わり、アフターコロナではその市況や世界観が瞬く間に更新されていくであろうデジタルエンタテインメント。なかでも5Gの普及について堤社長は、通信に携わる立場から次の時代の放送のあり方にも言及する。

「5Gモジュールが廉価になりテレビに組み込まれれば、スタンドアローンのモニターとしてどこでも観ることができるようになる。技術的な論点で言えば実現できる手前まで来ており、放送に縛られる必然性はどこかのタイミングで陳腐化します。半導体の能力アップを最大限活用する当たり前の発想であり、ユーザーの利便性も上がります」

 そんな過渡期にある分野で、これまでになかったサービスを追求し、新たなビジネスを切り開く堤氏に、会社社長としての経営ポリシーを聞いた。

「前例や商習慣に囚われ過ぎない、自分たちならではのユニークさを追求するクリエイティブなカルチャーの会社にしていきたい。かといって商習慣をすべてないがしろにしろと無邪気なことを言うつもりはありません(笑)。

 OTTはこの時代のメディア・コングロマリット。コンテンツを作って届けるシンプルな行為を自社のプラットフォームで完結するOTTのメディアカンパニーを目指しています。日本で一番それに近いことをやっているのはNHKでしょうか。質の高いコンテンツを作っている日本最大のサブスクのあり方としても参考にしています(笑)」

※主な動画配信サービスの月額価格(税込)

Netflix:ベーシック990円、スタンダード1490円、プレミアム1980円/Amazonプライム・ビデオ:年間4900円または月額500円/U-NEXT:2189円/DAZN:1925円/ディズニープラス:770円/Hulu:1026円/dTV:550円

(2021年8月現在)

ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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