130年の老舗とコラボレーションした○△□のアフタヌーンティーを徹底的に味わう
アフタヌーンティー
アフタヌーンティーはお好きでしょうか。
おそらくほとんどの女性が好きなのではないかと思います。
アフタヌーンティーは、イギリス発祥の食文化であり、軽食や菓子、茶を嗜むだけではなく、社交場としても機能しています。
日本のアフタヌーンティーでもそういった流れを汲んでおり、サンドウィッチなどのスナック、スコーンとジャムやクロテッドクリーム、パティシエ特製のスイーツを食べながら、バラエティに富んだ紅茶を楽しみ、友人とゆっくりとお喋りを楽しむ女性が多いです。
ホテルのアフタヌーンティーが人気
特にホテルでは、居心地のよい優雅な空間があるので、アフタヌーンティーの人気が高いです。
女性に支持されている「OZmall]」が2015年2月から「OZのアフタヌーンティ予約」を開始し、掲載店のほとんどがホテルのラウンジであることからも、ホテルのアフタヌーンティーが人気であることは分かるでしょう。
分類
アフタヌーンティーと一括りにしても、今では色々なものがあります。大まかに分類してみると、以下のようになるでしょう。
- クラシックスタイル
2段スタンド、3段スタンド
- モダンスタイル
重箱、球形、平面プレートなど
2段や3段となったスタンドで提供されるものと、そうでないものとに分かれていると考えればよいです。
個性的なアフタヌーンティー
個性的なホテルのアフタヌーンティーを挙げるとすれば、以下のようになります。
- パーク ハイアット 東京「ピークラウンジ」
プラッターのスナックやスイーツが好きなだけ食べられる
- アマン東京「ザ・ラウンジ by アマン」
黒をテーマにした「ブラック アフタヌーンティー」
- グランド ハイアット 東京「フレンチ キッチン」
スーパーフードをテーマにしたり、スイーツブッフェにしたりと季節によって変更
- ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ「ニューヨークラウンジ」
洋風スタンドか和風お重かを選択
- ストリングスホテル東京インターコンチネンタル「THE DINING ROOM」
球形の有田焼の重箱で提供
- コンラッド東京「トゥエンティエイト」
平面プレートで提供
- フォーシーズンズホテル丸の内 東京「MOTIF RESTAURANT&BAR」
ガラスのプレートで提供
どのホテルも、重要なターゲットである20代~50代の女性を獲得するために、訪れてみたくなるアフタヌーンティーを展開しています。
パレスホテル東京
先に挙げたアフタヌーンティーだけでも、十分に興味深いところですが、近年アフタヌーンティーに特に力を入れ、しかも、他にはない取り組みをしているホテルがあります。
それは、パレスホテル東京です。
パレスホテル東京では、1階ロビーラウンジ「ザ パレス ラウンジ」で和のアフタヌーンティーを、6階ラウンジバー「プリヴェ」で洋のアフタヌーンティーを提供しており、そのどちらもが他では体験できないものとなっているのです。
プリヴェ
パレスホテル東京6階にあるラウンジバー「プリヴェ」ではもともと「プリヴェ・アフタヌーンティー」を提供しており、人気を博していました。
しかし、他のホテルと差別化を図り、より一層満足度を高めるために、2017年4月1日にリニューアルしたのです。
リニューアル
リニューアルを行ってプレゼンテーションが大きく変わりました。以前までは2段プレートのスタンドでしたが、止まり木をイメージしたスタンドになっています。
「自然との調和」をテーマにした錫製のスタンドは、パレスホテル東京の地下1階にも店舗を構える「能作」による特注品です。この止まり木スタンドはパレスホテル東京「プリヴェ」でしか提供されていません。
自然との調和
「自然との調和」をテーマにしているだけあって、フォークもナイフもスプーンも木造りなので、手に優しい温もりが感じられます。
スイーツは「自然との調和」に合わせているので特徴的。美しい鳥はラングドシャ、その下に置かれた台はパートドフリュイ、鳥の卵を模したものはホワイトチョコレート、小さなテントウムシは一口サイズのチョコレートになっています。
止まり木をイメージしているだけあって、鳥や卵、虫が集まっており、そのどれもが食せるのはこだわりの表れです。
充実のプライベート
フードは、同じく6階にあるフランス料理「クラウン」のキッチンが手掛けているので、軽食やセイボリーとは思えないほど本格的なものに仕上がっています。
「プリヴェ」は仏語で「プライベート」を意味し、そのコンセプトは「充実のプライベートタイムをつくる」ことですが、「プリヴェ・アフタヌーンティー」は他では体験できないアフタヌーンティータイムをつくりだしていると言えるでしょう。
ザ パレス ラウンジ
パレスホテル東京1階のロビーラウンジ「ザ パレス ラウンジ」では和風アフタヌーンティーが行われており、漆塗りの3段重箱でフードやスイーツが提供されています。
重箱を用いた和風のアフタヌーンティーは、多くのホテルで提供されており、今では珍しいことではありません。実はこの和風アフタヌーンティーの先駆けとなったのが、2012年5月17日に提供を始めた「ザ パレス ラウンジ」だったのです。
和へのこだわり
「ザ パレス ラウンジ」は和風アフタヌーンティーの先鞭をつけたとあって、和にこだわっています。
「プリヴェ」と同様に季節によってアフタヌーンティーの内容が変わり、2017年9月1日から11月30日にかけて「アフタヌーンティー~まるさんかくしかく~」が提供されています。
このアフタヌーンティーは130年もの老舗「空也」5代目の山口彦之氏とコラボレーションした新しい試みの和風アフタヌーンティーです。
空也
「空也」について簡単に説明しておきましょう。
「空也」は1884年に創業した銀座の老舗和菓子店です。予約しないと購入できない「空也もなか」が特に有名で、贈答品としても高い人気を誇ります。多くの著名人に愛され、夏目漱石の小説「吾輩は猫である」にも登場しているほどです。
その「空也」5代目の山口氏は1979年生まれで、若い感性を生かして2011年に新ブランド「空いろ」を立ち上げ、モダンな和菓子で若い世代を中心に和菓子の魅力を伝えています。
そして今度は、禅の思想を描きだす時に用いられる「まるさんかくしかく」をテーマに掲げて、「アフタヌーンティー~まるさんかくしかく~」をパレスホテル東京と共に作り上げたのです。
山口氏は2013年秋に第一ホテル東京「ラウンジ21」でアフタヌーンティーのコラボレーションを行ったことがありました。しかし、その時は、どちらかと言えば監修という立ち位置であり、コンセプトから一緒に作り上げたのはこのアフタヌーンティーが初めてとなります。
内容
「アフタヌーンティー~まるさんかくしかく~」はどのようなものでしょうか。
大きな特徴は、3段の重箱にそれぞれ「まる」「さんかく」「しかく」の形をしたフードやスイーツが敷き詰められていることです。
「まる」は山口氏、「さんかく」はパレスホテル東京のシェフ岡村英司氏、「さんかく」はペストリーシェフ 窪田修己氏が担当しています。
- 一段目「まる」/「空也」5代目 山口彦之氏
白玉と柑橘系フルーツ入りの餡、ひよこ豆餡、ダークチョコレート餡、白餡のおしるこ、季節のフルーツ、 紅葉色紙種
- 二段目「さんかく」/シェフ 岡村英司氏
三角稲荷寿司、スモークサーモンとサワークリームのサンドウィッチ、ライ麦パンとチキンのサンドウィッチ、 野菜のフリッタータ、胡瓜とグリーンオリーブ&マスタード、パルマ産プロシュート、カマンベールチーズ
- 三段目「しかく」/ペストリーシェフ 窪田修己氏
大納言入りスコーン、マンゴ入り紫蘇のジュレ、日本酒風味の抹茶ラミントン、コーヒー風味のボンボン ショコラ、プラリネ入りボンボンショコラ、カシューナッツ入り薩摩芋のキャラメリゼ、黒胡麻のフロランティーヌ、 マロンケーキ、千代ちょこ
- 別段 最中/「空也」5代目 山口彦之氏
空也最中、抹茶最中種、紫いも最中種、黒胡麻最中種、三角色紙種
3段の重箱に加えて、「空也」の最中が別段で添えられているのは、ファンには嬉しいことでしょう。
それぞれの考え
和菓子職人、パティシエ、料理人がそれぞれ「まる」「さんかく」「しかく」をテーマにして考えましたが、異なる立場の3人がそれぞれ異なるテーマを掲げて作り上げた和風アフタヌーンティーなど他にはありません。
それぞれどのような考えがあったのでしょうか。
一段目「まる」/「空也」5代目 山口彦之氏
「まる」を担当したのは山口氏です。ヒヨコ豆餡を作った理由について訊くと「世界に餡の素晴らしさを知ってもらいたい。そのために、世界中で食べられているヒヨコ豆を使った餡を作った」と述べます。
ダークチョコレート餡は「通常チョコレート餡は白インゲン豆をベースにする。しかし、小豆のポリフェノールはチョコレートの苦味と相性がよいので、あえて小豆をベースにした」という独自の理論通り、小豆の食味がチョコレートを邪魔していません。
変わったメニューについては「おしるこは、小豆ではなく白餡で使って、クリーミーな食感にした。洋風にアレンジしたので是非食べてみていただきたい」と勧めます。
二段目「さんかく」/シェフ 岡村英司氏
「さんかく」担当の岡村氏は「サンドウィッチ以外は、正直なところ困った」と話します。それもそのはずで、三角形は食べ物では特殊な形です。
しかし、岡村氏は知恵を絞り、「当店のアフタヌーンティーで人気となっているお稲荷は外せない。三角形に整えて詰め込んだ。パルマ産プロシュートは折り畳み、高さを出して三角形らしくした」と工夫を述べます。
三段目「しかく」/ペストリーシェフ 窪田修己氏
「しかく」を担当した窪田氏は「四角形なので簡単だった」と笑顔で話します。
しかし、「全体を考えた時に酸味が足りないので、柚子のパート・ド・フリュイはわざと酸味を強くした。普通のパート・ド・フリュイよりも酸っぱいが、これくらいがちょうどよい」と、形にあまり気を遣わなかった分、全体の味のバランスに気を配ったと述べます。
コラボレーションに至る背景
三者三様の考えがあって興味深いですが、そもそもここのコラボレーションはどのようにして立ち上がったのでしょうか。
実は、山口氏と窪田氏は以前から既知の仲でした。山口氏が「空いろ」を立ち上げる時に、パレスホテル東京が改装中であったことから窪田氏が手伝い、それ以来親交を深めていたのです。
機会があれば何か一緒に仕事をしようと企画を温めていたところ、2016年末に話が持ち上がり、1年近くの準備を経て開催するに至ったのです。
外国人でも興味を持ってもらえるもの
アイデアを出し始めた当初から、3段の重箱それぞれに何かしらテーマを設けることを決めていました。加えて、外国人にも興味を持ってもらえるものがよいということで、禅の考えを取り入れることにしたのです。
既存の枠に囚われないアフタヌーンティーにしたいという強い意気込みのもと、幾度となくミーティングの場を設け、10回以上の試食を繰り返してブラッシュアップしていった結果、「アフタヌーンティー~まるさんかくしかく~」が完成しました。
客をもてなす
今回のコラボレーションを通して、窪田氏が「いつもと違うアフタヌーンティーなのでとても勉強になった。餡は日本の文化なので、是非とも広めていきたい」と謙虚に述べる一方で、山口氏は「和菓子をもっと身近にし、世界中に伝えていきたい。和と洋の垣根を越えた菓子を創ることを目指している」と熱く語ります。
アフタヌーンティーの発祥は7代目ベッドフォード公爵夫人のアンナ・マリアが始めた1840年代と言われており、空也の創業は1884年ですが、19世紀に起源をもつ両者が100年以上の時を隔て、イギリスのアフタヌーンティーと同様に客をもてなすことを目的とした日本の「茶の湯」で茶菓子としても提供される「空也」の和菓子が、ラグジュアリーホテルのアフタヌーンティーのスイーツとして楽しめるのは、何とも嬉しい貴重な巡り合わせではないでしょうか。