ウィシュマさん入管死訴訟第2回弁論 国側反論が示した原告主張との隔たり
名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)で昨年3月、スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん=当時33歳=が収容中に死亡した事件をめぐり、遺族が国を相手に損害賠償を求めて提訴した裁判の第2回口頭弁論が7月20日、名古屋地裁で開かれた。
国側は準備書面などを通じて、当時の入管職員の行為に「違法性はなかった」と主張。原告側が求めた収容中のウィシュマさんの様子を収めたビデオ映像の全面開示も「必要性は認められない」として拒んだ。
双方が激しく衝突した法廷の模様や、国側の主張を詳しく見ていきたい。
国の「門前払い」に原告側激しく反発
「なぜ門前払いなのか」
弁論の冒頭、原告代理人の児玉晃一弁護士が国側を厳しく問い詰めた。
「門前払い」とは、国側が準備書面で引き合いに出した「相互保証」のことだ。これは国家賠償法第6条で「外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する」との規定を示す。
大まかにいうと、外国人が日本で国家賠償請求をするには、その人の母国で日本人が同じような訴えを起こせる保証があるときに限るという規定だ。しかも、その保証があると立証する責任は外国人の原告側にあり、今回の裁判ではそれが示されていないから、そもそも提訴するには当たらないというロジックを国側が展開した。
これに対して児玉弁護士は「昨年9月、(ウィシュマさんと)同じスリランカ国籍の男性がチャーター便で強制送還されたことを巡る裁判では、この相互保証の主張は(国側から)出ていない」と指摘した。
児玉弁護士によると、過去の判例ではスリランカに国賠訴訟の制度があることは立証されており、いくらでも反論はできるという。それを国は知っているはずなのに、「あえて原告に立証の負担を強いる無用な主張をなぜするのか。誰の判断なのか」と問いただした。しかし、国側は「回答の必要はない」などとかわすばかりだった。
のらりくらりの国側答弁に傍聴席から失笑
一方、国側は「必要な医療を提供せずにウィシュマさんを死に至らしめた」とする原告側の主張を否定しながら、昨年2月15日に入管内で行われたウィシュマさんの尿検査について、「飢餓状態で電解質異常や腎機能障害を招来している可能性があった」ことは認めた。
だが、この尿検査については、出入国在留管理庁が昨年8月に公表した調査報告書(最終報告書)で、入管の看護師が伝えたはずの検査結果を医師が把握していなかった可能性が指摘されている。
それでも国側が「不適切なことはなかった」と主張できる根拠は何か。原告側の弁護士はより詳細な事実関係などの釈明を求めたが、これに対しても国側は「回答の有無を含めて検討する」「回答できるものは回答する」といった答弁に終始。傍聴席からはあきれたような失笑が漏れた。
ビデオ映像「全体見ずに必要部分特定を」
そして、原告側が強く求め続けてきたビデオの全面開示について。
国側は「原告らが必要とする部分の映像は、証拠保全手続きにおいて再生され、既に取り調べ済み」「調査報告書等にも詳細な記載がある」「収容施設内の動画が外部に明らかにされることは、看過できない保安上の支障を生じさせる」などの理由を挙げた意見書を提出し、全面開示は拒んだ。
ただし、証拠保全手続きで遺族らに開示された約5時間分の映像については、こう付け加えた。
「(原告が)証拠調べの必要がある部分を具体的に明らかにした場合には、被告(国側)は、当該部分について、証拠提出の要否を検討した上、マスキング等により保安上の支障を軽減させる措置を講じた上で、裁判所に対し、証拠として提出することを検討する考えがある」
これに対して原告側は「全体を見なければ必要な部分はピックアップできない」と、295時間分の全映像の提出を求めた。しかし、国側はあくまで「全体は見なくとも必要部分の特定は可能」という主張を繰り返す。
「まず5時間分を出した後、全体を提出していくのはどうか」と妥協点を探ろうとする原告側の提案にも、国は譲らない。たまらず弁護士が「(ビデオ映像は)国のものではない。国民のものだ。国は裁判の進行に協力する義務がある」と声を荒げる場面もあった。
ウィシュマさんの妹のワヨミさんとポールニマさんも「映像から分かる情報が100とすれば、報告書や記録から分かることは1。しかもその1さえ全部正確だと、誰が保証できるのですか」「真実を明らかにするためには、絶対にDVD全部の提出が必要です」と意見を述べたが、結局この日の議論は平行線に終わった。
退去強制応じるような「指導」を正当化
国側の準備書面ではそのほか、収容中だったウィシュマさんについて「逃亡のおそれも払拭できず、不法残留となった経緯を見ても、DV被害が影響したものとも認め難い」「収容に耐え難い傷病者であったとはいえない」などと表現する。
一方で、入管がウィシュマさんの仮放免を認めなかったのは、帰国の決断を強いる「圧力」だったとする原告側の主張に対して、「速やかな送還に向けて退去強制に応じるよう指導することは入管法に基づくもの。仮放免の許可、不許可の判断をするに当たって、主任審査官がこのような点も考慮することは、何ら違法なものではない」と入管側の判断を正当化した。これについて原告代理人の指宿昭一弁護士は閉廷後の記者会見で「拷問を許容するかのような勝手な解釈で、許しがたい」と強く反発した。
あらためて、双方の主張の隔たりが浮かび上がった法廷。その論争がどこまでかみ合い、裁判官の判断材料になっていくかが焦点となりそうだ。
次回弁論は9月14日の予定。