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今こそ、知ろう!日本で政治のトップ・リーダーはどう選ばれているのか?そしてどう選ばれるべきなのか?

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
自民党の新しい総裁がまもなく選出される(写真:イメージマート)

 米国では、来る11月の大統領選に向けて、民主共和両党の大統領および副大統領候補が出そろった。

 つい最近までは、「DOUBLE HATER MOOD(バイデンおよびトランプどちらも嫌いな空気)」という両陣営の候補者ともに選択したくないという全体的に盛り上がりの欠けた社会状況であった。他方で、民主党の候補と予想されたバイデン大統領が討論会での失態等で劣勢になり、対する共和党のトランプ前大統領が、殺害未遂なども乗り越えて、かなり優勢であった。

 ところが、バイデン大統領が出馬を取りやめ、ハリス副大統領を候補者に指名すると、民主党を中心に活気と勢いを取り戻し、米国社会全体の雰囲気も大きく変わりだしてきている。大統領選で勝敗のカギを握る激戦区などでも、ハリス副大統領が優位な戦いをしてきており、トランプ前大統領らの共和党陣営は、焦りはじめており、巻き返しに苦慮するような状況になってきている。

 大統領選の結果は、今後の選挙・政治状況や討論会などの結果次第だが、どちら側の勝利になるにせよ、今回の展開は正に、米国の政治のダイミズムおよび政治における民意の重要性や役割を示しているといえるだろう(注1)。

 では、実質的に総理選出になる可能性のある自民党総裁選(注2)が9月に予定されている日本の状況はどうなのだろうか。

 現在、日本では、先の岸田総理による来る自民党総裁選不出馬表明にともない、だれが同総裁選に出馬するかに向けて活発な動きが起きてきている。特に今回は、党内の多くの派閥が解消された、ある意味で流動的な中で行われるために、10名前後のさまざまな多くの人材が候補者として名乗りをあげたり、取沙汰されている。おそらく、その公示前の9月初旬ごろには実際に総裁選に出馬する候補者は確定することだろう。

 今回の総裁選は、岸田総理が、統一教会や政治資金絡みでの対応の不適切さなどのために(注3)、国民からの支持を失い、内閣支持率が好転せず低下傾向にあり、また自民党の支持率も低迷してきたなかで、行われるために、場合によっては来る衆議院選挙で政権交代が起きうる状況にある。その結果として、岸田総理も、結局は出馬を取りやめざるを得なかったのであろう。

 そのような状況において、野党第一党である立憲民主党も、自民党の総裁選に合わせる形で、9月のほぼ同じ時期に代表選を行うことになっており、候補者が名乗りを上げ始めてきており、まもなく候補者が確定するだろう。

 いずれにしろ、上述のように、来る衆議院選挙で政権交代が起こりうる可能性があるということは(注4)、自民党の総裁選および立憲民主党の代表選は、議院内閣制の国会では、日本の総理大臣を実際上選出する、重要な選挙なのである。

 筆者は、これまでも政治に関わる仕事をしてきたこともあり、上記のような日米における政治リーダーがどのようにして、だれが選ばれていくのかについて関心を持ち、日々のニュース等に注目してきている。

 他方で、新聞、TVやネットでは、日本の両党の総裁・代表選に関する動きが日々刻々と報道されているが、飽くまで同党の国会議員や党員(日本では党員になるのもなんとなくハードルが高い)だけの問題等であり、筆者を含めた多くの有権者や国民にとっては、米国の大統領選と比べても、距離感というか、無関係のような阻害感や違和感を感じている。

 そんな折、「政策NPO万年野党」の理事で中心メンバーである原英史さん(株式会社政策工房代表取締役社長)から、同NPOが作成した下のような「図表:政治リーダー(政党党首ら)選出に関する国際比較」(本来は、一つの図表であるが、本記事の紙面の都合上、3つに分けて掲載している)をいただいた(注5)。

 同図表によれば、各国・地域では、政党により違いもあるが、次のようになっている。

「図表:政治リーダー(政党党首ら)選出に関する国際比較」

「図表:政治リーダー(政党党首ら)選出に関する国際比較」① 出典:「万年野党」提供
「図表:政治リーダー(政党党首ら)選出に関する国際比較」① 出典:「万年野党」提供

「図表:政治リーダー(政党党首ら)選出に関する国際比較」② 出典:「万年野党」提供
「図表:政治リーダー(政党党首ら)選出に関する国際比較」② 出典:「万年野党」提供

「図表:政治リーダー(政党党首ら)選出に関する国際比較」③ 出典:「万年野党」提供
「図表:政治リーダー(政党党首ら)選出に関する国際比較」③ 出典:「万年野党」提供

1.英国

(1)保守党

・党首選出は、党員投票による。

・候補者が3人以上の場合には、下院議員投票で候補者を2人に絞り込み、党員投票を行う。

(2)労働党

・党首選出は党員投票で選択投票制による。

・全候補者に順位をつけて投票し、順位に基づき選出する。

2.カナダ

・以前から一般党員が選出する代議員による党首選出が実施されてきた。自由党は1919年から、保守党は1927年から実施している。

・2000年代以降は、選挙区毎に1党員1票の選択投票制という党員投票に移行してきている。

・なお、カナダは、政党内の民主化に関しては、上記からもわかるように先進的な対応が採用されてきている。

3.ドイツ(注6)

・政党法において、地域毎の党員数等によって割り振られる代議員による選出の手続きが規定されている。

・主要政党では近年では、事前に党員意向調査を実施し、その結果を尊重した形で正式な選出を行うケースがみられる。

4.フランス

・政党により違いがあるが、党大会における実質的な党員投票や党大会選出の代表及び執行委員会メンバーにより党首が選出され、幅広い層から選出されるといえる。

5.台湾(総統候補の選出。なお、与党主席は総統が兼務することが多い)(注7)

(1)民進党

・2004年総統選挙から、党内予備選で党員投票30%、世論調査70%の割合で結果に反映されるようになった。

・2012年総統選挙から世論調査の結果で決定することになった。

(2)国民党

・2008年総統選挙から民進党と同様のルールを導入した。

・2020年総統選挙では世論調査の結果で決定することになった。

6.米国

・米国では、他国と比較するには、政党の大統領候補選出が、党首選出に相当すると考えられる。その場合、有権者登録した党員による各州の予備選挙・党員集会での代議員の選出を経て、各党の全国大会で代議員により選出される。

・米国の政治のトップ・リーダーというべき大統領は、有権者選出の選挙人が選ぶという形式的には間接民主主義だが、広義の直接民主主義を採用している。

・米国では、このように民意によって選択されるようになっている。

 以上のことからもわかるように、海外では、議員の影響力は皆無か非常に限定され、政党の党員や世論が、主要政党の代表ひいては首相などの政治のトップ・リーダーの選出に非常に大きな役割を果たしており、ある意味決定しているということがわかるのである。

 ではこれに対して、日本ではどうだろうか。

 日本の自民党や立憲民主党は、そのトップ・リーダーを次のように選出している。

(1)自民党

・国会議員票と党員票が1:1で配分される。

・一回目の投票で過半数の得票者がない場合は、上位2名で決選投票が行われる。その際には、国会議員票および都道府県連票(都道府県連毎に1票)の合計で決定される。

・総理辞任等の緊急時には、党員投票を行わない簡易方式がとられたことも従来あった。

(2)立憲民主党

・国会議員票(2票)、公認予定者(1票)、地方議員票(1票)というように党員票を2:1:1で配分して、選出する。

・一回目の投票で過半数の得票者がない場合は、上位2名で決選投票がなされる。その際には、国会議員票および都道府県連票(都道府県連毎に1票)の合計で決定される。

 上記のことから、国会議員が非常に重要な役割を果たしており、世論どころか党員の意向などの影響力は非常に限定的であることがわかる。そして決選投票になる場合には、国会議員票の比重が高まり、派閥やグループのボスなどが大きな役割を果たすことになることが、今回の場合は若干の変化もありそうだが、実際に多かったのである。

 つまり、日本の場合、政治のトップ・リーダーを選出・決定する方法が、国会議員中心で、社会や民意に対して閉鎖的であるといえるのだ(注8)。

 このように考えていくと、筆者が先述した「距離感」や「違和感」が見事に符合するのである。そして日本は、民主主義という体裁をとっているが、海外と比較しても、政治に民意を活かすように果たしてなっているのかと疑問に思わざるをえないのである。日本は、政治のトップ・リーダーを選出する方法においてもまだまだ多くの工夫が必要であるといえるのだ。

 その意味において、自民党にも立憲民主党にも、来る総裁選・代表選で選出された人材が、その問題についても真摯に取り組み、新しい方法を創出していただくことを期待したいところである。そのような取り組みが行われれば、国民や有権者は、政治に対する考えや姿勢・信頼・行動をプラスに変えていくことだろう。

(注1)米国の大統領選については、次の拙記事等を参照のこと。

「米国大統領選の行方は混とん化。日本は、両張りで備えよ!#専門家のまとめ」(鈴木崇弘、Yahoo!ニュースエキスパート、2024年8月4日

(注2)自民党の総裁選に関しては、次の拙記事を参考のこと。

「自民党総裁選についてよく知っておこう #専門家のまとめ」(鈴木崇弘、Yahoo!ニュースエキスパート、2024年8月18日)

(注3)

「政治資金問題は全く解決されていない#専門家のまとめ」(鈴木崇弘、Yahoo!ニュースエキスパート、2024年8月5日)

(注4)来る衆議院選で、自民党が勝ち与党になれば同党総裁が、立憲民主党が勝ち与党になれば同党代表が、国会で総理大臣(総理)に選出される可能性が高いのである。

(注5)なお、同表や関連資料の詳細等はアップツーデートされたりするので、こちらにアクセスすることをお薦めする。

(注6)欧州大陸の国々では、連立政権のことも多いことから、第一党党首と首相が異なることもある。

(注7)台湾では、第一党の党首が総裁を兼任することの妥当性に関する議論もあるという。なお、日本の自民党でも、総裁と総理(首相)を分離すべきだということが話題になったことがある。

(注8)特に立憲民主党の場合、候補者になるために、自民党などと比較して所属国会議員数がかなり少ないにもかかわらず、代表候補になるための推薦国会議員数が同程度必要であるという条件の縛りがあり、自民党以上に、国会議員などの意向が強く、閉鎖的だといわれかねない状況にあるということも指摘しておきたい。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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