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国会に議員迷子が生まれている?!そんな状況だからこそ、日本の政治や民主主義の進展の好機にすべきだ

鈴木崇弘政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー
選挙で選ばれた新人国会議員は志と意欲に溢れているが...(写真:イメージマート)

 朝日新聞では、2024年11月25日付けで、デジタル版では「新人議員は誰が育てる? 派閥任せだった自民の対策、過去にも模索」、そして紙面版では「自民新人議員 誰が育成? かっては派閥主導 党本部が試行錯誤」というほぼ同一の記事が掲載されている。

 筆者からすると、何を今頃、こんなことをしているのだと思わざるをえない。

 1990年代に、衆議院選挙において小選挙区制が導入された。小選挙区制度では、各選挙区から1人の議員が選出されるため、地域ごとのニーズや問題に対応した政策を提案することが求められるようになる。そのために、その導入は、地域主導の政治に移行、大きな変化を生みやすくなり、政治の透明性や効率性にも影響を与えることで、派閥の影響力や金権政治を抑制させ、政党(特に党本部)の力が増大することになると予想されたし、実際にそうなった。それは、他方で人材発掘・育成、資金集めや党リーダー(与党自民党の場合は、総理大臣)の創出などの派閥が従来になってきた機能が低下することを意味したのである。

 これに従い、国政においては、政党では、政党助成金制度の導入とも相まって、党候補者の人選や資金運用などにおいて、特に政党本部が、政治の運営の中心となり、政党がより組織的に動かざるをえなくなったのである。

 ところが、以前から組織政党であった公明党や共産党は別として、国会議員や選挙区の候補者の個人事務所の集合体で一国一城の主である自民党などは、本来その時(選挙制度が中選挙区から小選挙区中心に代わった時)に、政党の仕組み・組織を変更すべきだったのだが、それができず(あるいはそうすることなく)、相変わらず派閥かその類似形態の活動で騙し騙し対応し、人材育成やリーダーの育成等をおこなってきたのだ。

 しかしながら、今年の政治資金の問題に起因して麻生派を除く派閥が解散を決定したという現状において、新人議員の育成機能は、今の自民党には正式には組織的にはないために、上記の記事のような試行錯誤、右往左往が起きたのである。

 つまり、同記事に書かれた状況は、自民党などの政党は、組織としてこの30年間進化・深化してきておらず、小選挙区時代の政治への対応ができていないということを示しているのである。筆者は、個人的には、近年の日本の政治の低迷と混迷は、政党が時代や社会等の変化にこのように対応できていないことの結果だと考えている。

 

 そのような政治の現状や問題との絡みで、申し上げたいことがある。それは、「政治主導」の問題だ。

 「政治主導」とは、政治家が選挙で選ばれた代表者として国民の意思を反映させるために、より大きな権限を持つべきであるという考えに基づいたもので、政策決定のプロセスにおいて政治家が主導的な役割を果たし、官僚や専門家よりも政治家の意向が優先されることを指すものである。

 日本でも、1990年代以降、この政治主導実現のために、様々な制度や仕組みの構築や改正・変更がなされ、政治が官僚機構を少なくも形式的ははよりコントロールできるようになったが、その結果は、官僚による「忖度」対応や官邸官僚中心行政などの歪んだ「政治主導」だけを生み出してしまったのだ。

 そのことは、日本は相変わらず行政中心国家であり、行政中心の政策形成の仕組みであるなかで、政治(議員)が行政(官僚)を有効かつ機能的にコントロールおよび利活用できていないことを意味しているのである。それは、政治の側の人材(上述の論点とも関連)や情報源の制約や問題があるから、そのようになってしまっているのだ。

政策形成には多くのアクターがかかわっているが、日本でのその中心は官僚・官僚機構だ
政策形成には多くのアクターがかかわっているが、日本でのその中心は官僚・官僚機構だ提供:イメージマート

 

 その情報源の制約は、日本では、政策的な情報のほとんどは行政・官僚機構に独占されている。その意味でも、政治が、行政を有効にコントロールし、より民意に即した政策などを形成していくためには、行政以外の独自の情報現および情報をもっている必要があるといえる。政党は本来、地域に入り込み、党員や有権者・国民に行政などよりもより近い存在であるので、彼らの現状を日々知り、その情報を集約できる存在のはずなのだが、自民党などは、これまで政党としてそのような組織対応をしてこなかった。より具体的にいえば、そのような対応ができる仕組み・部署をつくり、情報の集積・集約と分析を組織的に行い、政策づくりに活かし、時にそれらの情報を利活用し、行政などをコントロールしてきたことはほとんどなかったといえるだろう。

 筆者が、自民党の政策研究機関「シンクタンク2025・日本」の運営の中心に関わっていたときに、そのような政党の状況を打破し、政党を組織的に機能させるために、政策・政治マーケティング事業「プロジェクト橋川家」という研究活動を実施した。これは、様々なデータや情報の集積・分析さらにアンケート調査などを組み合わせて、全300選挙区のうちの30選挙区の民意を把握し、それに基づき各選挙区のペルソナ・マーケッティングを行ったものである。そして、選挙区ごとの政治・政策対応などの知見を得たり、それらの情報をGIS(地理情報システム)に活用し、政治・選挙における活動の現状と対応を助言できるようにした。このようなビジネスにおけるマーケティングを政治に活用する政治・政策マーケティングが、欧米では当時先行していたが、日本では本格的なものとしては初の試みであった。このような調査・研究を定期的に実施し、蓄積・集積していくと、民意の現状と変化を知ることができ、それに基づき、党としてどのような政策や対応をとれば良いのかの情報が得られるようになる。

政治や政策でも、データ分析やマーケティングが重要になってきている
政治や政策でも、データ分析やマーケティングが重要になってきている提供:イメージマート

 また、これらの情報は、行政にはないものであり、行政やそれによる政策形成をコントロールしたり、対抗することにも活用できるのだ。政党は、それらの情報をもつことで、行政以外の情報源になれるのである。

 さらに、このような情報などの蓄積・集積をしていけば、政党は、各選挙区の相補者や事務所のスタッフなどが変わっても(あるいは代えても)、組織として対応できるようになる。そうすれば、自民党も、上述されたような前近代的な「国会議員が一国一城の主」の集合体でなく、近代的な組織政党になれるはずだったのである。

 最後に、本記事のテーマの関係で、何としても触れておきたい点がある。それは、「民主主義」の問題である。

 民主主義の制度、特に代表民主主義の制度は、国民が選挙を通じて自分たちの代表者を選び、その代表者が立法、行政、司法の各部門において政策決定を行うもので、国民が直接ではなく選ばれた代表者を通じて政府を運営する制度のことである。その制度の基本は、政治や政策の必ずしも専門家でなくとも誰でも、代表者に選ばれれば政策決定に関われる仕組みであるということである。

 ところが、日本の立法府である国会は、ある意味極端ないい方をすると多くのプロトコール・手順や慣習のある「儀式の場」であり、それらが必ずしも文章化されていないなどのために、外部からもわかりにくいが、代表者に選ばれた国会議員にたとえなっても、非常にわかりにくいのである。かなり優秀で経験のある秘書やサポーティブな先輩議員(議員は基本すべて競争相手などで、利害でもないとなかなか手助けは得られない可能性もある)でもいない限り、新人議員の場合、それらについてある程度わかるようになるには、下手すると数年かかってしまう。

 また、各政党、特に自民党などは、上述したように組織政党でないので、様々な手続きや慣習が必ず文書化されていず、基本体験を通じて学び、習得していく必要がある。

 本記事で取り上げた朝日新聞の記事に、「(先の選挙で初当選した)根本拓衆院議員は、『戸惑うことも、わからないことも多い。少しずつ覚えていかないといけない』と語った。」と書かれているが、同議員の偽らざる本音だろう。自民党の場合、そのような新人議員の育成・教育は、以前は派閥が担っていたわけが、今はほぼ壊滅状態で、機能していない。

 筆者としては、従来から、国会のようなわからない場所だからこそ、政党や国会事務局などが、議員、特に新人議員などが学ぶ機会や場を提供するべきだと考えてきた(注1)。

 米国などでは、連邦議員には、正式に議員になる前にワシントンDCでの事前新人研修などがあり、議員の仕事を円滑にできるような準備の機会が提供されている。またシンクタンクも定期的に議員全員向け研修および新人議員研修をおこっている。

 さらに、議会運営財団(Congressional Management Foundation、CMF)などの超党派のサポート組織もある。CMFは、連邦議会の議員やスタッフなどが、立法活動や議会活動を有効に機能するための情報提供やサポート活動などを行っているのである。

 このような米国の場合、政治や政策の素人や門外漢が、議員になっても、できるだけ短期間で、有効に活動し機能できるようになっているのである。正に民主主義が機能しやすい環境や仕組みが様々につくられているのだ(注2)。

 このような米国の状況と比較しても、日本は、民主主義的にも、また立法的・政治的にもまだまだ不十分な面が多いのである(注3)。なお、地方自治体レベルでは、全国市町村国際文化研修所(JIAM)やいくつかの自治体などでは、新人議員のための研修はおこなわれているようだ。

 この点からも、政党および立法府・国会が、議員特に新人議員が学ぶ機会や場を提供していくべきだろう。

日本でも、新しい政治や民主主義のあり方や可能性が求められている
日本でも、新しい政治や民主主義のあり方や可能性が求められている写真:イメージマート

 本記事で論じてきたことからもわかるように、取り上げた朝日新聞の記事は、日本の政党、特に自民党などの政党が、現在の政治制度においてその役割を十分に果たしていないことおよび民主主義制度が十分に機能するような仕組みやインフラが整備されていないことを、鮮明に示しているといえる。

 

 現在、与党が少数であるために政治の動きが、本来は今のような社会状況や世界状況だからこそ求められているはずのダイナミックさを欠き、不安定化している。

 いやむしろ、そのような状況だからこそ、日本の政治制度や民主主義を発展させていくべき好機であるかもしれない。ぜひ立法府・国会および政治全体で、日本の政治や民主主義を改善、進化・深化させていく工夫をし、新しい日本の政治や立法のあり方や可能性を創出していただきたいと思うところである。

(注1)国会の事務局が、国会議員の秘書やスタッフが学ぶ研修の機会はあり、筆者も講師を務めたこともある。

(注2)本記事で取り上げている朝日新聞の記事には、次のようにも書かれている。

「ある公明幹部は『我々は10年かけて国会議員を一人前に育てる感覚だが、自民は生き残った議員が勝手に育つイメージ』と語る。」

 だが、社会の変化がこれだけ早くなってくると、10年かけて国会議員を育てるような対応では不十分だ。より短期での人材育成の仕組みが必要だ。また他方で、現在の立法府・国会はあまりにも暗黙知や慣習が多く、それが伝承によってしか獲得できないという環境自体も問題だろう。DXやAIなども活用し、情報なども可視化し、誰でも政策決定に参加しやすくすることこそ、民主主義の趣旨からも求められていると考えるべきだ。

(注3)筆者は、これ以外の点などを踏まえると、日本は民主主義制度という形式や枠は採用しているが、それを有効に機能させるための環境や制度設計が十分に整備されていない、あるいは実質的には「民主主義の国・社会」ではないのではないかと考えている。

政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。新医療領域実装研究会理事等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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