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教員の長時間労働・固定化を食い止めろ!~条例による公立学校・一年単位の変形労働時間制導入阻止~

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)
子ども達のためにこそ、取り組みを(提供:sashimi/イメージマート)

衝撃的な報道を目にしました。

北海道で、公立学校教員に1年単位の変形労働時間制を導入する条例案が道議会に提案されるというのです。

年内に可決されれば、来年4月1日施行の見通しとのこと(詳しくはこちら)。

公立学校教員に1年単位の変形労働時間制を導入の問題については、昨年導入を可能とする法律が成立してしまったとき、以下の記事を執筆したのでご参照下さい。

私自身も参議院に参考人として招致され、導入反対の意見を述べましたが、指摘した法的問題についてはガン無視されて制定されてしまいました。

公立学校教員への1年単位の変形労働時間制導入は社会にとっても有害無益

教員の長時間労働是正に、変形労働時間制の導入は不要です ~国会参考人意見陳述を踏まえて~

ただ、法律が制定されても、公立学校教員の労働条件は地域の条例で決まります。法律に沿った条例が制定されない限り、変形労働制を導入することは出来ません。さらに、野党の抵抗で法律制定時、歯止めとなる厳格な条件を設定しているのです。

問題は、その歯止めとなる厳格な条件が周知徹底されていないことです。

今回の北海道の条例制定も、導入の前提となる条件が満たされているとは到底思えないのに、制定に向けて動き出しているのです。

他の都道府県でも制定に向けた動きがあるという話も聴いていますので、一つの地域で導入が決まったら、他地域も横並びで一気に導入が加速するでしょう。

厳格な歯止めとはなにか?

文科省は、変形労働時間制導入を可能とした法制定時の国会質疑・附帯決議に基づき、「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針」(「指針」)を策定しています(令和2年7月17 日に改正・公示)。

そこには、具体的に変形労働時間制導入を可能とする前提条件が示されています。

なお、これらは条例制定後、各教育委員会や学校での導入時の段階を念頭においた前提ですが、条例の対象地域の学校でこの前提がみたされていないのであれば、このような条例それ自体を制定すべきではありません(法律の範囲外であり憲法94条に違反するか否かはさておき)。

そもそも、変形労働時間制導入を定めた給特法5条は各地方公共団体の判断で条例により本制度を活用することを可能としたに過ぎず、各地方公共団体の実情(教員の労働実態)に応じて本制度を活用するか否かが議論されねばなりません。

公立学校の教育職員における「休日まとめ取り」のための1年単位の変形労働時間制~導入の手引~(文科省)
公立学校の教育職員における「休日まとめ取り」のための1年単位の変形労働時間制~導入の手引~(文科省)

これらポイントの中から、重要な点をいくつか解説します。

指針の上限時間の範囲内であること(在校等時間を定める指針の遵守)

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現在、働き方改革関連法の影響で、公立学校の教員についても、教員の「在校等時間」(「労働時間」の一部を取りあげた「労働時間」とは似て非なる概念)について、月45時間・年間360時間の上限が定められており、この遵守が前提として求められています。

変形労働時間制導入のためには、前年度に在校等時間が指針の上限内であることを勤務状況から確認をし、条例を制定した後の対象期間の上限は、指針よりさらに厳格な月42時間・年間320時間にするようにすることが求められています(令和3年度施行なら、その年度の上限)。

果たして、コロナ禍で教員の皆さんが疲弊する本年度、月45時間・年間360時間の上限が守られているのでしょうか?。来年度は月42時間・年間320時間が遵守できる状況なのでしょうか。

上限指針に基づいて把握された勤務実態を踏まえず制度制定を議論するのは許されません。

休憩はとれているのか?

教育委員会等は、対象となる教員らについて、対象期間について以下の措置を講じるよう求められています。

具体的に注目したいのは、「ヘ 就業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること」です。

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教員の皆さんからは、トイレ休憩すら取れず膀胱炎が教師の職業病という話を何度も聞いています。

そんな教員の就労実態が放置され、労基法が求める45分以上(勤務時間が8時間を超える場合は60分以上)の休憩がとれているのでしょうか。

休憩も取れない勤務実態が放置されているなら、法の趣旨に反し変形労働時間制導入は許されません。

しかも、在校等時間を把握する時点で、休憩が正確に把握されていないという問題もあります。

全国的に、教員の労働時間が把握されるような動きはここ2年ほどですが、使用しているシステム上、実態を踏まえずに休憩をとったとして休憩が一律にカウントされてしまう(=在校等時間から一律控除)というお話を色々な地域の方から指摘されています(なお、労働組合の力で是正させたというお話も伺っています)。

改正給特法第7条の「指針」に係るQ&A(文科省)
改正給特法第7条の「指針」に係るQ&A(文科省)

「労働基準法に定められた少なくとも45分又は1時間の休憩時間を確実に確保した上で、『在校等時間』には、実際に休憩した分の時間を含まない」とあります。

これを言い換えれば、実際に休憩していない時間を休憩時間にカウントしてはいけない、ことでもあります。

ですが、教員の皆さんからお話をきくと、休憩時間がどこかすら把握していない、休憩時間なのに職員会議などが入れられてしまうというエピソードがぞろぞろと出てきます(全国的に)。

このように休憩がとれていない状況で、変形労働時間制導入を入れることは、法の趣旨に反するのは明白です。

対案:条例で特別休暇の創設を!

そもそも、この変形労働時間制導入の趣旨は、長期休業期間において一定期間のまとまった休日を確保して、教師のリフレッシュの時間等を確保する・・・教職の魅力向上を図ることです。

改正給特法第7条の「指針」に係るQ&A(文科省)
改正給特法第7条の「指針」に係るQ&A(文科省)

教職の魅力向上のため、悪評高い一年単位の変形労働時間制を導入しようとするなど、あまりにも非常識です。

(そもそも、文科省に心配されずとも教員の仕事それ自体は今でも魅力的であり、長時間労働やハラスメントが横行する職場環境が避けられているにすぎませんが)

教員が長期休暇によりリフレッシュや、魅力向上を実現するなら、簡単な対案があります。

教員に、年休とは別に新たに5日間の連続した特別休暇を設け、その消化を義務づけることまでを条例で制度化することです(現在、制度上念頭に置かれている休日は5日間)。

教員は、年休も十分に消化できないような勤務実態が蔓延しています。年休とは別に、義務づけられた連続した特別休暇は、教員のリフレッシュ、魅力向上に役に立ちます。

変形労働時間制導入の様な、法的な問題もありません

本来の「導入のイメージ」とも異なる

文科省も、変形労働時間制導入に際しては、時間把握→「指針遵守」に向け業務削減:長時間労働を解消→変形労働時間制導入 のながれがイメージとしています。

公立学校の教育職員における「休日まとめ取り」のための1年単位の変形労働時間制~導入の手引~(文科省)より:文科省が自ら示す導入のイメージ
公立学校の教育職員における「休日まとめ取り」のための1年単位の変形労働時間制~導入の手引~(文科省)より:文科省が自ら示す導入のイメージ

ですが、時間把握が徹底されず、業務も削減されず(むしろ、コロナ禍で業務増加)、長時間労働の現状が解消されてもいないまま、導入が強行されようとしています。

教員に限らず皆さんの問題

教員の長時間労働が放置されている問題は、教員が行う教育の質に関わる問題であり、社会全体の課題です。

教員志願者の減少は、なによりも教員の長時間労働を長年にわたり放置してきたツケです。端的にこれを解消すれば、今以上に、意欲・能力ある人材が教員を目指し、教育の質向上にも資するのです。

そのためにやるべきことは、変形労働時間制導入ではなく、上限指針を遵守→業務削減 さらには正規職員の人員増です。

もちろん、教員の業務削減にも(外注化などで)人員増にも、予算が必要です。

ですが、教員の長時間労働は私たち一人一人の課題ですから、その予算を負担する価値は十分にあると考えています。

取り組みを

指針では、制度活用に対して、教育職員等の意見を踏まえるように定めています。

これは、条例制定後の運用時を念頭においていますが、より一層重要な条例制定時においても、適用される現場の教員の意見をしっかりと把握して、条例を制定せねばならないのは当然のことです。

改正給特法第7条の「指針」に係るQ&A(文科省)
改正給特法第7条の「指針」に係るQ&A(文科省)

教員らの意見を伝える上で重要なのは、労働組合(地公法上の定めでは「職員団体」、憲法上の労働組合)の役割です。

変形労働時間制導入は、教員職員の勤務状況に大きな変更をもたらすのですから、地方公共団体の当局は、労働組合からの交渉申し入れがなされた場合、申入に応じねばなりません。

全国の公立学校教職員の労働組合は、上限指針が定める在校等時間の情報開示(地域・学校別データ)を求めたうえで、客観的な在校等時間の把握(実態のない休憩が時間から一律に除外されていないか)、上限時間の遵守状況、休憩が取得できているかなど、交渉を申入れて欲しいと思います。

みんなで応援していきましょう!

【イベントのご紹介】

Yahoo!オーサーの内田良先生らとご一緒させていただいている「みんなの学校あんしんプロジェクト」で、教員の労働問題を取り扱う無料オンラインイベントを連続で実施しています。

来週開催のイベントでは、北海道の状況を踏まえ、企画時間を延長し変形労働時間制導入も取りあげる予定です。

関心のある皆さま、ぜひご参加下さい。

オンラインイベント
オンラインイベント

「保護者対応・学校トラブル 困っていませんか?~保護者と教師で子どもを守る法」

●飛田桂弁護士×嶋崎量弁護士(モデレーター内田良)

●11/29(日) 20〜21時

●無料・席数限定

申し込みはこちら

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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