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なぜ韓国代表はブラジルに5失点もの惨敗を喫したのか?

金明昱スポーツライター
ブラジル戦で1-5での大敗にうなだれるソン・フンミン(写真:ロイター/アフロ)

「難しい試合だった。世界の壁を感じた。ブラジルはワールドクラスな選手たちだから、少しでもミスしたり、隙を見せたりしたら、そこを突いて攻撃してくる。それを改善しなければならない。今日の5失点はほとんど自分たちのミスだ」

 今季プレミアリーグ得点王の韓国代表FWソン・フンミン(トッテナム)は、ブラジル戦のあとそう振り返っていた。

 6月2日、ソウルワールドカップ競技場で行われたブラジル代表との親善試合。

 FIFAランキング1位のブラジルは、11月のカタール・ワールドカップ(W杯)本大会の前に実力を知る上で格好の相手でもあった。

 試合開始前半7分、早々にブラジルに先制点を許したが、31分にFWファン・ウィジョ(ボルドー)が同点ゴールを決めて1-1に。しかし42分にPKを取られた韓国は、FWネイマールに決められ1-2で前半を終えた。後半に入ってからはさらに3点を決められて、1-5で敗れた。

 やはり点差以上に実力差があった。簡単に勝てる相手ではないことは、韓国も百も承知。実際にピッチに立った選手たちが、総合力で負けていたと感じていたはずだ。

ブラジルの攻撃に翻弄され続けた韓国DF

 GKキム・スンギュ(柏レイソル)のスーパーセーブがなければ、もっと点差は開いていた。センターバックを務めた元ガンバ大阪のDFキム・ヨングォン(蔚山現代)とDFクォン・ギョンウォン(ガンバ大阪)、右サイドバックのイ・ヨン(全北現代)、左サイドバックのホン・チョル(大邱FC)は、主力メンバーでW杯予選を勝ち抜いてきた選手たちだ。

 韓国で不動のCBキム・ミンジェ(フェネルバフチェ)がケガで欠場していたとはいえ、ブラジルの緩急の効いた攻撃とスピード、テンポのあるパス回しにほんろうされ続け、球際で負けるシーンも多く、ほとんど対応できていなかった。

 イ・ヨンとキム・ヨングォンがペナルティエリアでファウルを取られたシーンもVARで確認した上での判断だったが、PKとなったことに異論を唱える者はいないだろう。それくらいブラジルの技術と総合力は突出していた。

役不足だった中盤

 役不足と感じたのは中盤だ。中盤の底を務めた元ヴィッセル神戸MFチョン・ウヨン(アル・サッド)、攻撃の起点となるべきMFファン・インボム(FCソウル)とMFペク・スンホ(全北現代)も、相手の素早いプレスにボールを奪われるシーンが目立った。前を向けないため、前線へのパスの供給がおぼつかない。

 この試合をケガで欠場した主力のMFイ・ジェソン(マインツ)がいれば、まだゲームを組み立てられたのではと感じたが、2列目にソン・フンミンが下りてくるシーンが目立っていては、ゴールも自然と遠ざかる。

 ソン・フンミンへの正確なロングフィードも期待したが、そうした展開にならないほどに、ブラジルのMFカゼミーロ(レアル・マドリー)とMFフレッジ(マンチェスター・ユナイテッド)が攻撃の芽を完全につぶしていた。

「ソウル新聞」は韓国とブラジルの実力差についてこう伝えている。

「ブラジルは予想通りにレベルの違うサッカーを見せていた。ボールを扱う技術で大きな差が見られただけでなく、状況を認識し、ボールをどこに出すのかという判断スピードも違った。チームメイトからボールを受けたり、韓国の選手からボールを奪うと同時に、他の選手がどこにいるのかを把握し、ベストの選択で次のプレーに動いていた」

 さらに「攻撃のテンポでもその差は大きかった。韓国の守備陣はブラジルの猛攻に簡単に揺さぶられた。ボールを奪ってもブラジルの素早いプレスに慌てるシーンが目立った。韓国DFがブラジルFWよりも多い状況でも、慌ててしまってボールを奪われるシーンもあった」と報じている。

 中盤と守備の対応力の欠如とミスを突かれて5失点を奪われたわけだが、それ以上の力の差があったことは認めざるを得ない。

唯一の収穫は攻撃面

 約6万人の観衆に満足した姿を見せられなかったとソン・フンミンは落胆していたが、それ以上に、自分たちの立ち位置がどの程度なのかを改めて再確認できたのは良かったのかもしれない。

「強豪を相手に攻撃的な部分で、チャンスを作れたことは肯定的な部分だ」と語るソン。

 ファン・ウィジョのAマッチで1年ぶりのゴールは、流れから奪い取ったものでこの1点は評価すべき点だ。FWファン・ヒチャン(ウルヴァーハンプトン)の突破力も相手の脅威となっていた。あとはいつも課題に上がるソン・フンミンを生かす術を見つけたいところ。

 こういう結果の時にいつも「韓国代表にハリー・ケイン(トッテナム)がいれば…」と思うのだが、パウロ・ベント監督は再び悩ましい現実を突きつけられた。現状のメンバーでカタールW杯まで最善の策を見つけられるのか――。

 次は6月6日にチリ代表と対戦する韓国。この惨敗をどのように生かすのかに注目したい。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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