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人呼んでラーメンJリーガー 盛田のプロ20シーズン目はどうなる?

大島和人スポーツライター

ラーメンJリーガーがJ2群馬を退団

22日の晩に「ラーメンJリーガー盛田が群馬退団」という見出しがヤフーのトップページにおどっていた。「ラーメンJリーガー」とは違和感のある表現だが、彼については他の書き方がない。ラーメンとサッカーの「二刀流」こそが盛田の魅力だ。

盛田剛平41歳。二つ名はラーメン師範。今季はザスパクサツ群馬でプレーして10試合に出場し、11月19日にJリーグ通算300試合出場を達成したばかりだ。彼の選手生活は7クラブ、19年と麺のように「細く長く」続いていて、チームの主力として出続けたというシーズンはあまり多くない。しかしコンディションを地道に保ち、チームの中で求められる役割を果たしてきたことで、現役生活が続いている。

筆者が番記者として彼を取材したのは2年間だが、盛田とラーメンにまつわる逸話はいくつも思い出せる。

甲府へ移籍して2季目に差し掛かった彼に、ある人が尋ねていた。「山梨県のラーメン屋は何店くらい行きましたか?」

盛田は答えた。「まだ80軒です」。

1年強で80店という開拓のペースは、凡人の感覚だと想像もできないほどのハイペース。しかし彼にとっては「まだ」なのだった。ラーメンの道、一日にして成らず。

彼が練習後に取材を受けていると、その様子を見た同僚の選手が「またラーメンの取材ですか?」とからかった。

盛田はきりっと表情を引き締めてこう切り返した。「ラーメンだよ!俺はラーメンの仕事を断ったことがない」

3クラブでラーメン企画を実現

ラーメンに対する彼の思いは間違いなくガチ。盛田は広島、甲府、群馬の3クラブでラーメンに関する「コラボ企画」を実現している。

盛田のラーメン好きは単なるファンの次元でなく、「店主」「経営者」の目線を持っている。この店が美味しいという知識を持っている「マニア」は全国に沢山いるはずだ。しかし盛田は「こういう食材がある」「こう料理すれば美味しくなる」という仕入れやレシピに関する知識を持っていて、実際にラーメンを調理できる。

盛田は私の知る限り「マイ湯切り」を持っている世界唯一のプロサッカー選手だ。

彼はその土地にあるラーメン店の魅力を発信することにも熱心で、まさに「町おこし」を実践していた。だからこそラーメンにまつわる取材にもこまめに応じ、新規開拓を欠かさなかった。盛田は言うならラーメンをプロデュースし、しかも味と言葉でその魅力を発信する「総合型ラーメンエンターテイナー」だ。

群馬加入のコメントは「40歳ですが、まだまだ良い出汁は出せると思っています。ピッチ上で精一杯プレーすることはもちろんですが、群馬での生活をまるごと楽しみたいと思いますので、まずは美味しいラーメン屋さんを是非みなさん教えてください」だった。

今季のキャッチコピーも「麺ははりがね 体はハガネ」。そういうラーメンに絡めたウイット、サービス精神こそは彼の魅力だ。

ラーメンは一般的に不健康な食事と思われがちだが、盛田はラーメン道とサッカーをしっかり両立してきた。41歳の今もスリムな体型を保ち、腹筋は6つに割れている。「ラーメンは健康食」という主張をその現役生活で証明している。

06年にDFへ転向 14年にはFWへ再転向

ピッチ上での盛田は190センチに迫る身長と日本人最強レベルのヘディングを持ち、左足の技巧も持ち合わせるアスリート。駒澤大学から浦和レッドダイヤモンズに加入した当時は「2002年W杯日韓大会のエース候補」として期待も集めていた。

一方で温厚で気配りの細やかな盛田は性格的に「ストライカーらしさ」を欠いていたのかもしれない。決して人を押しのけて結果を追い求めるタイプではない。彼はストライカーとして行き詰まりを感じ、2006年のシーズンからは志願してセンターバックに転向。そこから広島、甲府とキャリアを積んできた。

彼のサッカー人生の中で「二つ目の転機」になったのは37歳で迎えたFW再転向。2014年の開幕前に一旦は戦力外通告も受けた盛田だが再契約を果たし、ポストプレイヤー不在に悩んでいた甲府の城福浩監督(当時)は彼を開幕直後からFWで起用した。彼の仕事は何よりポストプレーで、城福監督は「得点なんて期待していない」と本人に告げたというが、彼はこの年サッカー人生最多の5得点を決め、チームの残留に大きく貢献した。

「ラーメンJリーガー」の20シーズン目はあるか?

今季から移籍した群馬ではJ2最下位となったチームで10試合のプレーに止まった。本人は現役続行の意思を持っており、目下「8クラブ目」からのオファーを待っている。

盛田が単なる「ラーメン評論家」「プロデューサー」だったらそこまで面白くないし、今ほど愛されていないだろう。「サッカー選手が真剣にラーメンと関わる」という立ち位置だから、そこにギャップ萌えが生まれる。彼は「異業種コラボ」が生み出す意外性、味わいを表現してきた。プロサッカー選手として厳しい状況にあることも事実だが、そんな「ラーメンJリーガー」が無事に20シーズン目を迎えることを願いたい。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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