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教員不足をうむ給特法~子どものためにも改正を!

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

教員不足の実情

 新年度、全国で公立学校の「教員不足」が大きな問題になっている。

 以下の報道にあるように、4月の始業日の時点で公立の小中学校や高校などで合わせて2558人の教員不足となり、ついに、教員免許がない者まで教壇に立たせねばならぬ異常事態になっている。

新年度も各地で厳しい「教員不足」の状況が発生しているとして、文部科学省は教員免許がなくても知識や経験がある社会人を採用できる制度を積極的に活用するよう全国に緊急で通知しました。

文部科学省が昨年度初めて行った全国調査では、4月の始業日の時点で公立の小中学校や高校などで合わせて2558人の教員不足が明らかになりましたが、今年度も厳しい教員不足の状況が報告されているとして、文部科学省は全国の教育委員会に緊急で通知しました。 

2022年4月21日 19時15分「教員不足」で緊急通知 “特別免許制度の積極活用を” 文科省(NHK)

 文科省の教師不足に関する実態調査(令和4年1月)によれば、公立の小中高校で学級担任を担当すべき教師が不足している場合に、本来担任ではない職務の教師が学級担任を代替するケースは474件あるという。

 たとえば、小学校でその穴埋めは、指導体制の充実のために配置を予定していた教員(少人数指導のために配置された教員など)143件、主幹教諭・指導教諭・教務主任が205件、生徒指導の充実のため配置された教師(37件)や管理職(校長など)が代替するケース(53件)まであるという。

 新学期、担任のいないまま小学校で新学期がスタートする、本来他の役割を担う教員を配置するしかない状況が、子どもの教育環境を悪化させているのは間違いない。

その要因は?

 このような教員不足の分かりやすい要因は、教員志望者が減っているからだ。花形職業であった教員に、人が集まらないのだ。

 日本若者協議会が発表した「教員志望者減少に関する教員志望の学生向けアンケート結果」(令和4年4月11日)を見ると、その要因は顕著だ。

日本若者協議会実施・上記アンケートより
日本若者協議会実施・上記アンケートより

 この調査は、教員の労働環境などについて、当事者である教員志望の学生(高校生・大学生・大学院生)向けにインターネット上で回答を募集して実施されたものだ(211名が回答)。

 目を引くのが、長時間労働の改善(199人・94%)で最も多く、それ以外にも部活動顧問の撤廃、給特法を廃止し残業代が支払われること、教員の人数を増やすことなど、教員志望の学生から職場の長時間労働に関連する要因が多数指摘されていることだ。

 他方で、魅力に言及する回答はごく僅か(31人・15%)だ。

要するに、教員という仕事自体の本質的な魅力が失われた訳ではなく、長時間労働に象徴される職場環境の劣悪さが放置されている現状が問題といえるのだ。

労働法的な阻害要因=給特法

 教員の長時間労働について、労働法的観点から指摘できる阻害要因は、50年以上前に制定された給特法だ。

 給特法により公立学校の教員は、私学・国立大学の教員を含む他の労働者とは異なり、所定の労働時間を超えて残業しても、残業代が支払われない仕組みになっている。

 具体的には、給特法は、給料月額の4%相当の教職調整額を支給する代わり、時間外勤務手当及び休日勤務手当は支給しないとされ、いわゆる超勤4項目(①校外実習等、②学校行事、③職員会議、④非常災害等)を除き時間外労働を命じることはできない建前になっている。

【給特法3条】(教育職員の教職調整額の支給等)

1 教育職員(校長、副校長及び教頭を除く。以下この条において同じ。)には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。

2 教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない

 しかし、超勤4項目を除き時間外労働を命じることはできないというのは、全く現実に即しない状況だ。

 現実には教員の残業は「自発性」による業務遂行とされ、部活動指導等で恒常的に時間外労働が発生している。そして、膨大な時間外勤務は「労働」とすら取り扱われず、残業代が支払われず放置されているのだ。

 実際、現在、公立学校教員の長時間労働が大きな社会問題となり、志半ばで長時間労働に耐えられず早期離職する方、健康を害し職場を離れる方、さらには過労死等のケースも多数ある。

 直近でも、内田良教授(名古屋大学)らが実施した全国の学校と小中学校教員を対象にしたアンケート調査(2021年11月実施)の「学校の業務に関する調査」調査報告によれば、持ち帰り仕事を含めた平均残業時間は小学校で95時間超、中学校で121時間超であるという。これは、いわゆる過労死ラインを優に超える危険領域だ。

 私は、労働弁護士として、この放置された長時間労働の大きな労働法的阻害要因は給特法だと自信をもって断言できる。

 そもそも労働基準法が、残業代の割増賃金支払いを命じる主な狙いは、長時間労働の抑制にあるというのは、意外と知られていないだろう。

 例えば、民間企業・私学等の経営者は、時給2000円単価の労働者を8時間を超えて残業させると、時給単価の2000円を支払うだけでは済まされず、最低でも2500円(25%以上の割増し加算)の支払いを命じられる。これを怠ると、刑事罰まで科される可能性がある犯罪行為として取締まり対象となる。

 使用者は、この割増賃金支払いを避けようと、労働時間削減に向けて真摯に努力する他ないのだ。経営者にとって人件費は大きな経営上の関心事だから、そこに無関心ではいられない。しかも、1日8時間を超えて残業する労働者の労働効率・生産性が疲労により下がるのだから、なおさらだ。

 しかし、給特法下の公立学校では、使用者に残業代支払い義務が課されない。そのため、労働時間管理の意識が鈍くなり(残業代に関わらないから)、労働時間管理も曖昧になる。教員に過大な業務を命じても、残業代支払いというコストに反映しないので躊躇がなくなり業務削減への本気度がなくなり、長時間労働が蔓延する元凶となっているのだ。

現状の対策は?

 文科省も、ただこれを放置している訳でもない。

 文部科学省は平成31年1月に「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を策定し、超勤4項目以外も含めた労働時間を「在校等時間」として把握して、労働時間管理の対象とすることを明確にした。

 労働時間管理は、労働時間を削減するための第一歩であり、極めて重要な施策だ。

 その後、令和元年12月4日に行われた給特法改正(同法7条)で、上記ガイドラインが実効性を高めるため法的根拠ある「指針」へと格上げされた(令和2年4月1日から適用)。

 この「在校等時間」という概念(労基法上の労働時間とは異なり、超勤4項目以外の業務も含め、教師が校内に在校している時間及び校外での業務の時間を外形的に把握した上で合算し、そこから休憩時間及び業務外の時間を除いたもの)は、言ってみれば公立学校教員の労働時間的なものだ。これを正確に把握したうえで、原則として月45時間という残業時間の上限を設定した。文科省も、手は打ってはいるといえるのだ。

 しかし、それでも長時間労働が減っていない

 特に、現状で大いに問題なのは、下記のとおり、15%以上の教員が、書類上の総労働時間を書き換えるように指導されていることだ。 

上記・内田教授らの調査より
上記・内田教授らの調査より

 民間企業であれば、労働時間記録の隠蔽は残業代不払いという犯罪行為にも直結する大問題だが、公立学校でこれだけ堂々と労働時間改ざんが行われているのは異常事態という他はない。

 上限指針により残業時間の上限が課されたので、書類の書き換えまで指導して目先の残業時間を減らす(=業務削減無し)という、悪質な対処が蔓延しているのだ。給特法下においては、長時間労働を放置しても違法状態とはならず、刑事罰などで取締まり対象とはならないこと、労働時間管理自体の重要性に対する意識が職場風土全体において低いことなどが、使用者のこういった対応まで引き起こす要因であろう。

 こういった現状は、上記のとおり「教員不足」の現状でその穴埋めに既存の教員が割かれざるを得ないことからも、より拍車がかかる可能性もある。

 さらには、上記調査では、総時間外業務と、「この2年ほどの間に、書類上の勤務時間数を少なく書き換えるように、求められたことがある」との関係性を分析したところ、時間労働の多さと書き換え要求との間に正の関係性がみられ、40時間以上の教員においては、学校で約3に1が、中学校で4に1が、書き換えを求められているという。

 この現状を放置しては、長時間労働が隠蔽されるだけで、削減に向けた対策が取られることもなくなるだろう。

 やはり、抜本的な給特法改正を含む対策が必要なのだ。

給特法改正はお金の問題?

 給特法改正というと、教員の残業代(お金)目的でしょ?という意見があるが、それは間違いだ。

 残業代の趣旨は上記の通り長時間労働抑制(残業を減らす)なのだから、残業代を支払わせる状態を作り出すのは手段であって目的ではない。残業代を避けるため、行政が市民の理解をも得て、本気で教員の長時間労働是正に取り組むための動機を作り出すための過程に過ぎない。だから、給特法改正により、長時間労働が何ら改善されず放置された現状で多額の残業代が予算として必要となる(しかも、継続的に)という前提の法改正の反対論も、残業代という趣旨を理解しないものだろう。

 また、労基法の労働時間規制自体も、現在は残業代による抑制だけではなく、働き方改革関連法により、労基法の歴史始まって以来の大改正とされる罰則付きの上限規制が導入され(2019年4月1日以降に施行)、次のステージに進んでいる。

 その動きから取り残された公立学校教員も、早急に給特法を抜本改善して、罰則付き上限規制によってダイレクトに残業時間の厳格な規制を導くことも必要であり、そのためにも給特法改正が必要なのだ。

「長時間労働」は労働問題に留まらない

 こんな状況を何とかしたいと、現職教員の西村祐二(筆名 斉藤ひでみ)氏が中心となり「給特法のこれからを考える有志の会」を立ち上げて、給特法の抜本改善を求める署名活動がスタートしている(私も呼びかけ人に名を連ねている)。

 教員の長時間労働の弊害は、多くの教員やその家族の人生を左右する重大な労働問題であるのはもちろんだが、それだけに留まらない。長時間労働で疲れ切った教員から質の高い授業が産まれるはずがないし、教員の仕事に魅力を感じている若者からも長時間労働を忌避して「教員不足」が起きている。

 今回の署名活動には、呼びかけ人・賛同人に、教員や教育関係者だけではなく、異なる分野の著名人なども多数参加していただいて、署名は驚異的に伸びている

 他人事ではなく、ご自分にも影響がある社会問題として、給特法の問題を捉えてもらいたい。

2022/05/06 14:30 一部表現を改定しました。

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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