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自身への酷評「ベッドの中のオナラ」もスピーチに変えるR・ダウニーJr.のカッコよさ。オスカーも当確?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
助演男優賞を受賞したロバート・ダウニーJr.(CCA/Getty Images)

ハリウッドスターの中で、今この人がいちばん熱いかもしれない。ロバート・ダウニーJr.。

1/14(現地時間)に行われた放送映画批評家協会賞クリティックス・チョイス・アワード、以下CCA)で『オッペンハイマー』により助演男優賞を受賞したダウニーJr.は、そのスピーチでも話題を集めた。

「かつて僕は『ベッドの中に閉じ込められたオナラのように面白い』なんて、批評を書かれたことがあるんですよ」

そんなにクサい演技をしてしまった、ってことなのか!?

現在、アカデミー賞に向けた賞レースでダウニーJr.の受賞は続いており、このまま初のオスカーへ至りそうな気配である。過去2回ノミネートされている彼にとっては、念願の栄冠になりそうだ。

マーベル映画のアイアンマン役でトップクラスのスターになったダウニーJr.だが、それまでの俳優人生は山あり谷ありのキャリアでもあった。映画監督である父を持ち、子役も経験。高校時代に俳優の道を決意し、順調に映画などへの出演が続くも、子供時代から抱えてきた薬物問題で逮捕も繰り返し、刑務所に1年間入っていた過去もある。その逮捕歴から、映画のキャンペーンでも日本への入国が難しい…と映画会社が残念がっていた時期も。ただし、あのチャールズ・チャップリンを演じた『チャーリー』でアカデミー賞主演男優賞ノミネートを果たすなど、俳優としての実力は誰もが認めるところではあった。そこから過酷を極める薬物克服に成功し、2008年のアイアンマン役以降は、いわゆる“地獄も見た”スターの復活劇としてハリウッドが大好きなストーリーを体現したともいえるダウニーJr.。

酸いも甘いも身をもって経験してきたロバート・ダウニーJr.だけあって、賞のスピーチでも「余裕」と「ウィット」で、他の受賞者とは明らかに違う時間を作り出すことができるのだろう。多くの受賞者が主に感謝の言葉を口にするなか、ダウニーJr.は、その賞の本質と結びついた、一段階レベルの高いスピーチを披露する。

CCAは、アメリカ・カナダの映画批評家やジャーナリストの団体が決める賞であるため、ダウニーJr.は冒頭で記したオナラのエピソードも込めているのだ。

「今朝のことですが、僕は批評家の人たちが大好きだと感じました。つねに素晴らしく、詩的な言葉で(僕の演技に)フィードバックしてくれるからです。数年分の批評家の言葉を紹介しましょう。

まずハイク(俳句)みたいな批評。『Sloppy, Messy and Lazy(みすぼらしく、めちゃくちゃで、つまらない)』。次に比喩的な表現。『昏睡から目覚めたピーウィー・ハーマンのよう』。そして今も忘れられないのは『ベッドの中に閉じ込められたオナラのように面白い』というものです」

授賞式の会場にはCCAのメンバー、つまり批評家たちもいたので、ダウニーJr.の皮肉とユーモアに溢れたスピーチは大受けだった。

この一週間前のゴールデングローブ賞でもダウニーJr.は助演男優賞を受賞。その際のスピーチでは、ある機転も効かせた。

直前の助演女優賞を受賞したダヴァイン・ジョイ・ランドルフが、スピーチでHFPAへの感謝を述べた。このHFPAとはハリウッド外国人映画批評家協会のことで、ゴールデングローブ賞を投票で決めてきた団体。過去の授賞式でも、受賞者がHFPAへの感謝を口にするのは常だった。しかしHFPAがさまざまな問題で批判にさらされ、ゴールデングローブ授賞式への俳優たちのボイコットなども起こったことで、アメリカ以外の投票者も新たに加える改革が行われ、HFPAは営利団体に買われて実質的に組織は消滅した。

ダウニーJr.はそれをふまえて受賞スピーチの最後を次のように締めくくった。

「ゴールデングローブのジャーナリストの皆さん、ゲームを変え、その結果、名前も変えてくれてありがとう。敬礼します!」

HFPAではない組織で、ゴールデングローブが良き方向へ生まれ変わってほしい…。そんな俳優たちの思いを彼は、はっきりした口調で伝えたのであった(直前に言葉をミスったダヴァインは気の毒だったが)。

アベンジャーズの中のアイアンマンのように、軽妙さと芯の強さ、そして頭のキレの良さを兼ね備えたロバート・ダウニーJr.なので、CCAでも多くの俳優たちから声をかけられる彼の姿があった。アイアンマンの“弟子”であるスパイダーマン役のトム・ホランドも授賞式にいたし、外国語映画賞にノミネートされた『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督も、ダウニーJr.と2ショットを撮り、その感激をXに投稿していた。

CCAやゴールデングローブと違って、アカデミー賞は映画業界の人たちの投票で賞が決まる。もしこの流れでオスカーを獲ったとき、同志に向けてダウニーJr.がどんなスピーチをするのか。われわれの予想を上回る感動が待っているかもしれない。

アカデミー賞のノミネートは、1/23に発表される。授賞式は3/10(現地時間)。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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