松重豊、制作参加した『孤独のグルメ』進退をかける覚悟「おもしろくなければ退場する」
俳優の松重豊が10月3日、韓国・釜山で開催中の『第29回釜山国際映画祭』の「オープン・トーク」イベントに登壇。映画祭メイン会場となる屋外メインシアターで、約50分にわたって監督・脚本・主演を務めた映画祭出品作『劇映画 孤独のグルメ』について熱く語った。
カジュアルな空気感のなか、映画人が自らの作品を深堀りして語ることで映画祭の名物ともなっている本トークイベント。平日の昼間にもかかわらず、大勢の観客がつめかけた会場は、韓国でも人気の『孤独のグルメ』の松重が登場すると、温かい拍手に包まれた。
井之頭五郎“孤独3段カット”レッドカーペット演出を種明かし
初めての同映画祭参加となった松重だが、『劇映画 孤独のグルメ』は昨年の同映画祭時期に釜山で撮影していたことを明かし、「日本公開に先立って釜山でお披露目できることを光栄に思っています。この映画のなかでも釜山は重要な舞台になっています。縁を感じる釜山のこのイベントにこんなに大勢の方にいらっしゃっていただいて心強いかぎりです」と笑顔であいさつ。
福岡県出身の松重は、距離的に近く、食事などの共通点もある釜山に対して「懐かしさと興味深さが共存しています」と話し、さっそく観客の心をつかんでいた。
そして、MCから前日のレッドカーペットイベントでの『孤独のグルメ』主人公・井之頭五郎の演出について聞かれると、待ってましたとばかりに種明かし。
「送迎車からレッドカーペットに降りて、井之頭五郎の『腹が、へった』の3段カットを1人でやりました。“孤独3段カット”と呼んでいるのですが、気づいていただけましたでしょうか(笑)。そのあと、歩きながら何かを食べているのは、今回の劇場版にでてくる飛行機のなかで渡されるあるものです。物語の重要なモチーフになっていて、映画を見ていただくと、こういうことだったのかとわかります」
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俳優の残酷さと監督の過酷さを同時に経験した撮影現場
テレビドラマとしてシーズン10までシリーズを重ねている『孤独のグルメ』。今回の初の劇場版に関して松重は「いまテレビドラマの制作は閉塞的な状況。優秀なスタッフが映画や配信に流れていくようなことも続いています。この状況から本作を転換したいと考えたときに、劇場版だと思いました」と舞台裏を明かす。
自ら監督と脚本も手がけたことには「実はポン・ジュノ監督に手紙を送って依頼したのですが、スケジュールがあわず残念ながら実現しませんでした。そこから僕が中心になってまとめる流れになりました」と振り返った。
さらに、撮影現場での監督と俳優の同時経験から、それぞれの立場で気づいたことを聞かれると、「俳優はシーンのOKが出れば次にいく。シーンの確認ができないまま撮影は進んでいきます。見えないものを作り上げていくわけです。全体のなかの俳優パートを担っていることの残酷さと難しさを感じました」。
続けて「監督は俳優に伝えることで託す。伝えることしかできない。それはそれで過酷。そんな経験をして、映画を作るのは楽しい作業だと改めて感じました。今回経験したことすべてが僕の宝物です」と語り、会場は拍手に包まれた。
プロデューサーや監督の立場を中心に据える
日本では『孤独のグルメ』シーズン11が10月から放送され、来年1月に劇場版が公開となる。松重は「いまとにかく集中して作っているところです。このドラマと劇場版にすべてをかけています」と言葉に力を込める。
さらに「これがもしおもしろくないと言われたら、僕は退場するつもり。おもしろいと言っていただけたなら、その先のいろいろな展開をプロデューサーや監督としての立場を中心に据えてがんばっていきたい。その先のストーリーは、もう頭のなかにあります。でも、夢を見続けられるかは、今回の結果次第です」と覚悟を語った。
そして、「もし僕が消えたとしても『孤独のグルメ』シリーズは続いていってほしい」と熱い思いも吐露した。
劇場版を機に、制作面から作品に深く関わるようになった松重。『孤独のグルメ』がこれからどう発展していくかは、ゼロからこの物語を映像作品として作り上げてきた松重の肩にかかっているだろう。10月からは新たなスタイルになった新シーズンがはじまる。その先がいまから楽しみだ。
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