スペインはEUROで優勝できるのか?モラタの決定力と、「ラ・ロハ」のいつもの問題と。
思わぬ苦戦を、強いられていた。
EURO2020が開幕して、欧州は大いに盛り上がっている。だが、スペイン代表に関しては、元気がなかった。グループステージ第1節のスウェーデン戦、第2節ポーランド戦と2試合連続ドローで、ラ・ロハ(スペイン代表の愛称)はグループ敗退の危機に陥っていた。
■決定力不足
スペインが苦しんだ要因のひとつは、決定力不足にある。
その状況で”スケープゴート”にされたのが、アルバロ・モラタだ。モラタはスウェーデン戦でGKとの1対1でシュートを外すなど、多くの決定機を逸した。ポーランド戦では得点を挙げたものの、勝利につながらず、メディアからの批判を覆すには至らなかった。
「我々はモラタと10人の選手だ」
ルイス・エンリケ監督は、そう語った。思うようにゴールを奪えないストライカーを擁護して、指揮官からの変わらない信頼を示していた。
モラタは得点力がない選手ではない。
「モラタは代表戦の41試合で19得点をマークしている選手だ。スペイン人選手で、その数字を残しているのは(ダビド・)ビジャだけだよ。世界に視野を広げたとしても(ハリー・)ケインしかいない」とはルイス・エンリケ監督の弁だ。
2020-21シーズン、モラタはユヴェントスで公式戦44試合に出場して、20得点12アシストを記録している。”守備の国”イタリアで、申し分ない結果を残している。
ユヴェントスでは、クリスティアーノ・ロナウドと前線でコンビを組んだ。また、ユヴェントスにはフェデリコ・キエーザという突破力のあるウィンガーや、フアン・クアドラードというクロッサーがいる。サイドから良質なクロスが入ってくることは、モラタにとっては大きなポイントだ。
■5レーンを巧みに使えない
一方、スペインはポゼッションを重視するチームである。スウェーデン戦(ポゼッション率85%)、ポーランド戦(ポゼッション率69%)といずれもボール保持率では相手を上回った。
だがスペインが試合を通じて効果的な攻撃を仕掛けていたとは、言い難い。第一に、マルコス・ジョレンテの右サイドバック起用をはじめ、ルイス・エンリケ監督の選手配置と起用法に問題があった。2020-21シーズン、チェルシーであれだけのパフォーマンスを見せていたセサル・アスピリクエタが控えに回り、アトレティコ・マドリーでインサイドハーフを務めていたジョレンテを「わざわざ」サイドバックでプレーさせていたのは、理解に苦しむところだ。
スペインは「5レーン」を巧みに利用しての攻撃ができていなかった。とりわけ、右サイドの機能性は壊滅的だった。
コケ、ジョレンテ、フェラン・トーレスあるいはジェラール・モレノ、この選手たちが右サイドを崩さなければいけなかった。フェランはワイドに張るタイプのアタッカーだ。その時、右ハーフスペースを使う選手がいない。本来、ジョレンテが右インサイドハーフでプレーしていれば、この問題は即座に解決する。だが右サイドバックのジョレンテは不慣れなせいもあり外側のレーンをオーバーラップする機会が多い。フェルラン・メンディ(フランス代表/レアル・マドリー)のように、オーバーラップとインナーラップを使い分けられるサイドバックではない。そもそも、そこが本職の選手ではないのだ。
(フェランとジョレンテの外レーン被り)
スペインの攻撃においては「右詰まり」の現象が起きていた。これが、決定力不足ーモラタへの苛烈な批判ーの真の原因だった。
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■右サイドの改善
そして、ついにと言うべきか、スロバキア戦でルイス・エンリケ監督はセサル・アスピリクエタを右サイドバックで起用した。
アスピリクエタは今季、チェルシーのチャンピオンズリーグ優勝に大きく貢献した選手だ。トーマス・トゥヘル監督の下では、3バックの右CBあるいは右WBを務めることが多かった。だが無論、M・ジョレンテに比べれば、4バックの右SBで質の高いプレーを見せられる。
スロバキア戦で、スペインの右サイドの攻撃の機能性は高かった。アスピリクエタ(右SB)、コケ(右インサイドハーフ)、パブロ・サラビア(右WG)の3選手が嵌まっていた。
(アスピリクエタ、コケ、サラビアの関係性)
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