山本太郎氏警告に岸田首相「聞かない力」発揮―ウクライナで原発が電源喪失、日本も他人事ではない
岸田文雄首相は、24日、原発の7基の再稼働や老朽原発の運転期間の延長、新たに原発を開発・建設すること等を指示した。他方、ウクライナでは、25日、ロシア軍が占拠しているザポリージャ原発が一時、外部電源を完全に失った状態に陥った。その後、復旧したものの、電源喪失はメルトダウンの様な重大事故につながりかねない。戦争の際、原発が狙われるリスクについては、山本太郎衆院議員は7年前から警告を発していたが、ウクライナ危機で有事の原発リスクを目の当たりにしながらも、政府側は「日本の原発が攻撃されることは想定していない」というスタンスのままだ。
〇欧州最大規模の原発が電源喪失、各メディアが号外
ロシアによるウクライナ侵攻で、石油や天然ガス等の化石燃料に依存した経済や社会の危うさが改めて浮き彫りになっている。世界有数の石油・天然ガス供給国であったロシアへの制裁の影響で、原油や天然ガスの価格が国際市場で高騰。日本も含め各国がその影響を被っている。そのような事態を受けて、岸田首相は24日、総理大臣官邸に西村経済産業大臣や十倉雅和・経団連会長、芳野友子・連合会長らを招集し「GX実行会議」を開催、上述のような原発の活用を指示した(関連情報)。
だが、ウクライナ危機は、有事の際の原発の危うさも露呈させている。ウクライナで、ロシア軍は、欧州最大規模の原発であるザポリージャ原発を占拠。しかも、この周辺の戦闘やその影響で、ザポリージャ原発が重大事故を起こすリスクが高まっている。ウクライナ国家原子力規制監督庁によれば、25日、ロシア軍の攻撃によりザポリージャ原発が完全に外部電源を失う事態に陥ったとのことだ(関連情報)。周辺の戦闘での影響で、この一帯の電力網が停電。その後、復旧しザポリージャ原発に電力が供給されるようになったが、欧米メディアは、緊急ニュースでこの件を大きく報じた。原発は炉心の冷却に外部電源を必要とし、それが失われると、最悪の場合、福島第一原発のような重大事故が起きかねないからである。
〇原発攻撃リスクを無視する日本政府
戦争による原発事故リスクは、日本も無関係ではない。当時、参議院議員だった山本太郎氏は、2015年7月29日の参院特別委員会で、川内原発(九州電力)の再稼働に伴い、原発がミサイル攻撃を受ける危険性や、もし攻撃された場合の対応、被害規模などを想定しているか、と安倍晋三首相(当時)らに問いただした。だが、安倍首相は「武力攻撃事態は、その手段、規模の大小、攻撃パターンが異なることから、これにより実際に発生する被害も様々であり、一概にお答えすることは難しいということでございます」とはぐらかし、具体的な想定や対策については何一つ答えなかったのだ(関連情報)。
昨年の衆院選挙で衆議院議員となった山本氏は今年3月、ウクライナ情勢を受け、衆院内閣委員会で「ロシア軍は、チェルノブイリ原発・占拠に続き、ザポリージャ原発を攻撃、占拠。一歩間違えば、世界を巻き込む大惨事。激しい怒りをもって抗議するものであります。原発、日本は大丈夫でしょうか」と質問。だが、政府参考人の澤田史朗・内閣官房内閣審議官は「発生する被害について定量的な記載はしておらず、一概にお答えすることは困難でございます」と答弁。市村知也・原子力規制庁原子力規制部長も「原子力規制委員会は、原子炉等規制法に基づく規制基準において、他国による武力攻撃に備えることは、現在要求をしておりません。また新たに要求することも考えてございません」と答弁したのだった。これには、山本氏も「7年たった今でも、答弁はほぼ同じなんですよ。何かって言ったら、対策できないことは考えない、そう言うスタンスなんですね。核武装など勇ましい声は聞こえてくるが、海沿いに林立する原発には関心、薄いようなんですね」と苦言を呈した。山本氏は岸田首相にも発言を求めたが、岸田首相は発言しなかった。
つまり、ウクライナ危機で原発が占拠され、重大事故を起こし得る状況にある中で、岸田首相は、有事における原発への攻撃に対し、具体的な対策は何もない状況で、原発の再稼働や新増設などを決めたということだ。自民党として原発を推進するにしても、何の想定も対策も講じないままというのは、あまりに無謀・無責任ではないだろうか。
〇原発ではなく再エネを推進すべき
なお、岸田首相が原発再稼働・新増設を指示した「GX実行会議」のGXとは「グリーントランスフォーメーション」の略である。グリーン、つまりクリーンエネルギーの活用を銘打っているが、結局のところ、再生可能エネルギーではなく、原発を推進するための会議ということなのだろう。ここにも日本のエネルギー政策の歪みが現れている。日本は太陽光や風力のポテンシャルが極めて大きく、環境省によれば、これらの再エネポテンシャルは日本の総電力需要の倍以上だ。現在でも、今年4月には、九州や四国、東北では太陽光の「発電しすぎ」で、電力会社が太陽光発電の事業者に対して、発電を一時的に止めるよう求める「出力制御」が相次いで実施された*。こうした電力を大規模蓄電施設やEV(電気自動車)に貯め、夕方や夜に活用する取り組みに全力を尽くすことが、日本のエネルギー安全保障に必要なことではないのか。本来であれば、岸田首相は山本氏の警告にこそ、「聞く力」を発揮すべきなのだろう。
(了)
*以下参照。