『ドラゴンボール』の雰囲気を一変させた「サイヤ人の宇宙船ポッド」。いったいどんな乗り物か!?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今日の研究レポートは……。
『ドラゴンボール』において、宇宙船ポッドの登場は衝撃的だった。
はじめはユルイ雰囲気のマンガだったが、天下一武道会の頃からバトル色が強まり、宇宙船ポッドでサイヤ人・ラディッツが飛来すると、物語の緊張感が一気に高まったのだ!
それは、悟空とピッコロ大魔王の激闘から5年後のある日――。
空から何かがドーンと落ちてきた。近くで働いていたおじさんが落下地点に行ってみると、巨大なクレーターができていて、その中心で丸い物体が煙を上げている。
物体の内部から現れたラディッツは、おじさんが撃ったライフルの弾丸を手で受け止め、指ではじき返す。
さらに、ピッコロ大魔王をも圧倒する強さを見せる。
そして悟空のもとへ行くと、衝撃の事実を明かした。
悟空はサイヤ人だった!
ラディッツの弟だった!
本名は、カカロットといった!
赤ん坊のときに地球に送られたのは、地球を滅ぼして異星人に売るためだった……!
ビックリ情報てんこ盛りで右往左往してしまうが、このあたりが気になる人は、ぜひともマンガを読み返そう。
筆者がここで考えたいのは、ラディッツが乗ってきた一人乗りの球体「宇宙船ポッド」について、である。
後にベジータもこの飛行物体でやってきて、悟空たちとの激闘を経て、惑星フリーザへ帰る。このとき宇宙船ポッドは、猛スピードで離陸し、飛び去った。
――ここからわかるのは、宇宙船ポッドは、離陸では何らかの動力を使うが、着陸のときは落ちるだけ!ということだ。
いくらサイヤ人とはいえ、あまりにも豪快だ。
宇宙船ポッドの内部には椅子があり、内側の壁は厚みのあるクッションで覆われているように見えるが、その程度で落下の衝撃に耐えられるのか!?
宇宙から落ちてくる物体は、速度がとてつもない。
たとえば、地球を周回していた人工衛星などは、地球の重力に引かれてスピードが上がり、地球の公転と、空気による減速を無視すれば、秒速11.2kmで地球に落下する。
太陽系の外から落ちてくる恒星間天体は、太陽の重力に引かれて、地球の近くに来るまでに秒速42.1kmに加速され、さらに地球の重力に引かれて秒速43.6kmという猛スピードになる。
サイヤ人たちが本拠地にしていた惑星フリーザは、太陽系の外にあるイメージだから、おそらくラディッツは、恒星間天体と同じ秒速43.6kmで地表に落ちてきたのだろう。
それすなわち、時速15万7千km=マッハ128である!
◆どんだけ体が丈夫なのか!?
この激突によって、サイヤ人たちはどれほどの衝撃を受けるのだろうか。
衝撃の大きさを表す単位に「G」がある。これは、自分の体重の何倍の衝撃かということで、次の式で求められる。
衝撃[G]=1/2×速度²÷衝突から止まるまでの距離÷地球の重力加速度
速度の単位は[m/秒]で、秒速43.6km=4万3600[m/秒]。
マンガの描写を見ると、ラディッツの宇宙ポッドは、深さ10mほどのクレーターを発生させている。ここから「衝突から止まるまでの距離」は10[m]と考えられる。重力加速度は、地球の場合は9.8[m/秒²]。これらを上の式に代入すると、こうなる。
衝撃=1/2×4万3600²÷10÷9.8=969万8776[G]
体重の970万倍の衝撃ということだ!
人間の場合、衝撃が10Gを超えると、失神することがあるという。今回は、その97万倍の衝撃。ラディッツは大柄だったので、体重を90kgと考えると、彼が受けた衝撃は87万tだ。重量3万6千tの東京スカイツリーが体に24本載っかるようなものである。
それほどの衝撃にもかかわらず、宇宙船ポッドから軽やかに飛び出し、ライフルを構えたおじさんに「戦闘力…たったの5か…ゴミめ…」と冷静に分析していたラディッツ。
嫌なヤツだったけど、すごーく体が丈夫なヒトだ。
◆着地の衝撃を和らげる方法
とはいえ、いくらサイヤ人でも落下の衝撃は軽減したいのだろう。『ドラゴンボール』のコミックス21巻では、宇宙ポッドで惑星フリーザに帰還したベジータの宇宙船ポッドは、丸いクッションのようなものの中心にドズンと落ちていた。
惑星フリーザには、衝撃を和らげるための施設があるようだ。
だが、このときクッション状のものに落ちたベジータの宇宙船ポッドは、2mほど潜り込んだだけ。
これだと「衝突から止まるまでの距離」は前述のクレーターの5分の1だから、衝撃は5倍となって、なんと4850万G。
悟空たちとの戦いで瀕死の重傷を負っていたベジータは、このときの衝撃でトドメを差されても不思議ではなかったかも……。
そうならなかったのは、惑星フリーザの緩衝設備が、地球の科学を超えて高性能だったからだろう。
詳細は不明なので、ここでは宇宙船ポッドが安全に地球に着地する方法を考えよう。マッハ128で着地して、衝撃を地球人もギリギリ耐えられる10Gに抑えるにはどうすればいいのだろうか?
地球の科学で考えるなら、止まるまでの距離をできるだけ長くしたい。そのためには、①ゼリーのような物質にめり込ませる、➁トランポリンのようなもので受け止める……などの方法がある。
①ゼリー作戦の場合。
速度が同じとき「止まるまでの距離×衝撃」は等しくなる。距離が10mのとき衝撃は970万Gだったから、衝撃を10Gにする距離とは970万m=9700km。地球の直径は1万2800kmだから、宇宙船ポッドは中心を突き抜けて、反対側まで3100kmの地中で停止する。
つまり、地球内部でゼリーに埋まって、そこからは自力で脱出しなければならない。これはツラい!
➁トランポリンの場合。
この場合は、初めはそれほど大きな衝撃はかからず、伸びきったところで、最大の衝撃がかかる。
それを10Gに抑えるには、ゼリーの2倍の制動距離が必要。つまり1万9400km!
これは大変だ。宇宙船ポッドは地球を突き抜けて、反対側に6600kmびよ~んと飛び出す!
そして、伸びたトランポリンは元に戻るから、やってきたときと同じマッハ128で反対向きにばい~んと跳ね返される。
地球に着陸できない……!
これ、ワタクシだったら、どっちもイヤです。
でもサイヤ人たちは、瀕死の重傷からよみがえるたびに強くなるから、ひょっとしたら、あえてムチャな着陸をして、体を鍛えているのかもしれません。
恐るべきヒトたちだ!