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[高校野球]まだ間に合う! 新チーム強化のヒント その1●打順をどう組む?

楊順行スポーツライター
(写真:アフロ)

 高校野球を取材していると、前の試合とはがらりと打順を変えてくるチームがある。むろんその選手の調子、相手投手との相性などさまざまな要素を考え合わせての打順変更だろう。ある年の甲子園。さる強豪では、1回戦で六番の選手Aを、次戦では三番に起用した。監督に聞くと、

「Aが、"三番のほうがやりやすい"というので、その申し入れを尊重しました」

 するとその試合、初戦はノーヒットだったAは5打数2安打。初戦は三番でやはりノーヒットだったBも、六番に入るとヒットが出た。打った手が当たったわけで、後日この監督に、打順の組み方についてじっくり話を聞いたことがある。

 これ、という正解はないと思います……と前置きしながら、監督は話し始めた。

「ある年の夏、甲子園でベスト8まで進んだときには突出したスラッガーがいました。そうすると、その前後をどう組むかに配慮するのがまず第一です。そこまでの強打者がいなかったら、どうやって得点するのかと考える。思いついたのが、いわば分散型のオーダーです。一番から九番を3人ずつのユニットに区切ったとき、それぞれに俊足、つなぎ役、ポイントゲッターを置く打線です。

 そして各ユニットに、2通りのパターンを想定する。初回なら、一番が出塁したら二盗を試みるか、二番がバントするかで二塁に送る。一番が出塁できなかったら、二番が塁に出て走る。つまり、1死二塁以上にもっていくパターンが複数ほしいわけです。もちろん、何番から攻撃が始まるのかはケースバイケースにしても、3人のユニットを3つつくれば、どこからでも点が取れる打線、といえるでしょう。もちろん、たまたま長打が出れば一番手っ取り早いですが」

 ちなみに2人いる一、二番候補がどちらもつなぎ型タイプなら、打率の高いほうを一番に置くという。このとき、左打者を二番に……というのは、出塁した一番の盗塁企図を考えれば当然のセオリーだ。またかりに、二番が強いバントやゴロを転がしたとしても、左打者なら右打者よりはいくらか併殺のリスクが軽減できる。

分散型は苦肉の策(笑)

 監督は続ける。

「むろん紅白戦では、さまざまな適性も見ます。選手の性格によって、チャンスに強かったり、淡泊だったり、いろいろですから。ただ、分散型のオーダーという構想では、だれが一番、だれが四番というより、その回のトップバッターが一番打者、という色合いが強い。守備で複数ポジションを守れるように要求するのと同様、どの打順でも打てるようにさせているつもりです。

 そして分散型オーダーで配慮するのは、作戦面でのやりやすさ、動きやすさです。たとえば、バントがあまり得意じゃない選手を2人並べない。無死一塁で次打者がバントを失敗したとして、1死からでももう一度走者を進めたい局面があるでしょう。そのとき、次の選手もバントが不得意だったら、ちょっとサインは出しにくいですよね。

 また、俊足選手の前には、遅い選手を置かないこと。足のない選手が塁上にいると、俊足選手が長打性の打球を打っても単打止まりですから。打順の巡り合わせで、どうしても避けられないこともありますが、少なくとも足の遅い選手は並べないようにしたいですね」

 能力の高い選手がそろえば、分散型などといわず超攻撃型のオーダーが組める。たとえば大昔、西鉄ライオンズ黄金時代のような、流線型打線(一番・長打力もある好打者、二番・強打者、三番・最強打者、四、五番・長距離打者)はひとつの理想だ。だが、そうそう能力の高い選手がそろうわけもないから、分散型というのは、やりくりの結果、いわば苦肉の策だという。それでも、

「この局面ではこの作戦しかない、と選択肢が限定されないのはメリットです。先頭が出たら自動的にバントではなく、盗塁もあればヒットエンドランもバスターも……となると、警戒しなければならない相手にとって大きなストレスでしょう。また分散型では、下位打線の打力が極端に落ちることもないので、相手に楽に守らせない、楽な1イニングを与えないというのも意味があります。ディフェンス側からすれば、相手が打順をいじってくると、いやでも神経過敏になりますよね」

バッテリーの打順は離したい

 頭を悩ませるのは、バッテリーの打順だという。ことに炎暑の夏、同じイニングでバッテリーがそろって塁上にとどまるのは、得点の有無にかかわらずかなりの負担だからだ。塁上では守備位置、けん制、相手シフトなどに気を配り、1球1球リードオフを取り、ファウルならスタートを切って帰塁し、ホームインしたとしても、それはそれでスタミナを消費する。ピッチャーが残塁だったら、肩慣らしのキャッチボールもできないし、キャッチャーの残塁にしても、短いインターバルに防具を着けたりの準備であわただしい。

「そしてなにより、バッテリーがどちらも塁上にいたら、次回の指示をしたくても、ダグアウトでそれができないことがある。ですからピッチャーとキャッチャーは、少なくとも、2人が同時に塁上にいることのないように、なるべく打順を離しておきたいんです。

 ただ、捕手を四番に置くとしたらそれもちょっと気になりますね。初回の攻撃で打順が回るかどうかは展開次第ですが、それでも四番の捕手は、守りの準備としてレガースをつけ、ネクストで待つことになる。そしてかりに三番で攻撃が終わった場合、急いで防具を着け、そそくさと守備につくことになります。試合の序盤ならなおさら、できるだけ落ち着いて入りたいわけですから、捕手の四番はちょっとひっかかるんです。

 いずれにしても……年代でメンバーが入れ替わる高校野球では、その代その代によってまるで能力が違います。一番は俊足、二番は小技……といった固定観念に縛られることなく、柔軟な発想でオーダーを組むことが必要でしょうね」

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スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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